原作をぜひ「幸福な王子」オスカー・ワイルド [思いきり泣きたいときに]
「幸福な王子」
オスカー・ワイルド 西村孝次訳 新潮文庫
昭和43年1月発行 平成15年65刷改版
皆さんは、この物語をきっと子どものころに読んだり、聞いたり、
また、アニメなどで見たことがあるかもしれない。
私も子供向け絵本の挿絵のイメージが強く、本当はどんな作品だったのか、気になっていた。
ただ、最後は確か王子の像はすべての金箔を与えてしまい、
それを運んだ鳥とともに滅んでしまう、ということしか覚えていなかった。
今回、ちゃんと本来の著作を読んでみて、私は涙が止まらなかった。
電車の中で読んでいて、人に気づかれないようにするのが大変なくらいに。
それは、なぜ宝石や金箔を運ぶことになるつばめと王子の像が知り合うのかという経過や、
王子がどんなに街の貧しい人々の様子を見つめ、悲しい思いを日々していたかという
ディテールを全く知らなかったからなのだ。
そこにこそ、この物語の真髄がある。
そして、最後に、ふたつの命が絶えた後の人々の対応。
これは、ある見方をすると、現在の世の中を映しているともいえる。
特に、組織や権力、人の関心に関しては、きっとこれが昔からの現実なんだろう、ということを
王子とつばめの魂が気高く美しいだけに、痛切に心に感じ、
涙せずにはいられないのであった。
同時収録の「ナイチンゲールとばらの花」は命をかけて恋することの激しさとはかなさを、
「わがままな大男」は自分のことしか省みなかった大男が、人生の最後に知る
無償の愛について描かれている。
これらも含め、おそらく子どもは子どもなりに、大人は大人なりに、
これらの物語を味わい、感じるものがあるだろう。
しかし、きっと大人のほうこそが、人生の経験を重ねて辛さや悲しみを知る分、
涙するのかもしれない。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
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