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40代に読んでほしい「あの日にドライブ」荻原浩 [仕事に悩み考えているときに]


「あの日にドライブ」 荻原 浩 2005年初版 光文社

初めてこの著者の作品を読んだ。
最初、リストラされた銀行員がタクシードライバーとして生活をしのぐ、というさわりから、
「ちょっと重いかな・・・」とも思った。

確かに、冒頭のあたりはその暗さが重く気持ちにのしかかる。
それは、おそらく主人公の気持ちそのものでもあるのだろう。

しかし、読み進めるにつれ、その主人公の周りの人々の人生、
主人公が昔勤めていた銀行や学生時代のこと、昔の恋人のことなど、
彼の心情や過去をないまぜにしながら、いつのまにか読んでいる自分の人生にひきつけて
読んでいることに気がつく。

そこがもしかすると、この作家の良い意味で「上手い」ところなのかもしれない。

そうして主人公の心情に自分を重ねていくと、いつのまにか暗いことも笑いとばし、
彼のと同じ視線で、その場面に立ち会っている自分に気がつく。

43歳にして、大銀行というある意味で日本の経済社会を象徴する勤め先を
ある理由で辞めた男が、時に腐りながらも、家族の信頼を失ったと思い込みながらも、
昔の夢を思い出して「たら、れば」を繰り返しながらもどう生き続けていくのか。

今の40代は、組織にあっては、いわゆる団塊の世代の下で
ある意味でずっとその力を押さえつけられてきた世代であり、
またある意味ではその責任をあるときには回避することができた世代であり、
今後の団塊世代の大量退職後には、急にまわりを見回すと自分が責任の重い立場に立たされ、
若い新しい考え方の部下をまとめていかねばならない立場に立つことになる。

これは、組織に属する40代にとっては、大きな問題に既になりつつあるのだ。
このことを考えると、この主人公はもちろん納得してやめたわけではないにしても、
組織にそのまま残ったところで幸せだったどうかは誰にもわからない。

途中、主人公がずっと気になっていた妻の悪い癖を指摘するあたり、
あるいは子供達との関係など、噴出しそうになる笑いもある。
これだけ苦しい中で、やはり最後は周りの人間とのコミュニケーションなんだな、とつくづく思う。

終わり方には、ちょっと甘いかな?との思いはあるが、救われる心境にたどり着く。
ちょい甘であっても、リアルな苦しさの後には、帳尻を合わせるように残る「何か」があってもいい。

その点で、この作家と私の気持ちはどこか通じるものがあるような気がしたのだ。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

あの日にドライブ

あの日にドライブ

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/10/20
  • メディア: 単行本


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はりなたる

こんばんは〜(^^)
久々に遊びにくる余裕が持てました(^^;)そしたら、これまた気になっていた表紙の写真が飛び込んできてびっくり☆いつも本屋で立ち止まる本の1つだったんですよ。
最近、あまりゆっくり本が読めていません。ちょっと休憩時なのかなぁ、と思いつつ、でも読みたい本のリストは増えていく毎日です。本からちょっと遠のいても、ニライカナイさんのレビューは楽しみにしてます。またきますね(^^)
by はりなたる (2006-04-21 22:48) 

ニライカナイ店主

はりなたるさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
今はいろいろ活動の時期なんでしょうねえ。
本は逃げませんから(絶版しない限り!)、メモっていつか時がきたら
抱えて読めばいいんだと思います。はりなたるさんの代りに読んでいたりして。
少し路線が似ているのかもしれませんね。でも、ご来店してくださる方が
ああ、これ読みたかったんだ、と思っていただけるのが何より嬉しいです。
またいつでもご来店くださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-04-22 16:50) 

男性の40代ってすんごく素敵だと思います。
おまけに私の周りで素敵だな~って思う人は、一般のお仕事をしている人でなく
自分のしたい仕事、すべき仕事の道を一人で進んでいる人。
『その道』を歩いている人。
40代って、その『実』が成る時期なんでしょうか?
みなさん輝いている気がします^^
そんな方達と出会える環境に自分がいることにも幸せに思います。
一期一会・・・出会いを大切に、そんな魅力ある方達から少しでも学びたいです^^
by (2006-04-23 00:00) 

ニライカナイ店主

ねこばすさんへ>
ナイスとご来店、ありがとうございます。
40代で「実」がなるか・・・難しいところだと思います。きっと、ねこばすさんの
周りには輝いている40代が多いのでしょう。
確かに、組織にいるよりも、手に職、とか一人で仕事を背負っている人
の方が、すべて自分でしきる、という潔さがありますね。
しかし、多くの40代は組織の中でその「実」を結実できず、
苦しむ世代でもまたあると思います。この主人公もまたその一人でした。
しかし、最後には・・・おっと、おしゃべりしすぎは無粋ですね。
by ニライカナイ店主 (2006-04-24 21:26) 

YumYum

組織の中の40代。たいがいは中間管理職でしょうか。
よほどの大企業は別にして、現場の最前線と組織の経営。
一番下と一番上を見通せる立場です。それゆえに、悩みも多い。
前に読んだ『上司は思いつきでものを言う』を思い出してしまいました。
by YumYum (2006-04-24 22:32) 

そうですね。家族や親のことでも多くの問題がでてくる年代でしょうか?
もちろん、喜びもその分多いのでしょうね。
ニライカナイさんの、続きを聞きたくなりました。
本を読みますね~!
by (2006-04-24 22:58) 

武田のおじさん

いまだに底辺でもがいている40代のおじさんです。「たら、れば」・・・。
落ち込んだり、不運が続くとつい出てしまいます。(苦笑)
今回も、車検で悪いところが続出。想定外の出費になってしまいました~。涙。
なんせ、14万4千キロも走ってればあちこちガタも来るというもの・・・。とあきらめ、走行中に故障しなかった事に感謝している次第です。
乗り換え?いえいえ、そんなお金がどこにも無いし、結構気に入っている車なのでもう少しおじさんに付き合ってもらうつもりです。(^-^)
by 武田のおじさん (2006-04-26 10:50) 

ニライカナイ店主

ねこばすさんへ>
再コメントありがとうございます。そうですね、子供がいるとすれば学校の
問題もあり、その子供達との付き合いも大きくなるにつれて難しい点も
出てくるでしょう。また、学費の問題もありますね。そして、組織の中では
とにかく責任が重くのしかかり、今のリストラが進められ続ける状況では
とどまるものし上がるも苦しい状況なのだと思います。
それが実感としてわかるだけに、読んでいて辛かったのですが、この主人公は
なかなかタフだった。このタフさは学ぶべきところの多いものでした。
ねこばすさんはまだお若いようにお見受けしますが、ぜひ機会があったら
今読んでみて、またしばらくして年を経てから読んでみるのもいいかも
しれません。
by ニライカナイ店主 (2006-04-27 22:35) 

ニライカナイ店主

武田さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
40代、本当に辛い、とふと思います。ただ、人生の折り返し地点でもあり、ある意味では人生をみつめなおし、方向転換する良い時期と考えようと思えば考えられるかもしれません。ただ・・・現実は厳しいのは確かですよね・・・うちも、長い付き合いの車と仲良くやっています(笑)。
by ニライカナイ店主 (2006-04-27 22:41) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。確かにそうかもしれません。
この作品の主人公も、ある大銀行の課長級でしたが、自分の信念を
通すために独裁的な支店長に嫌われ、辞めざるをえなくなります。
自分の将来をその人をすかしてみながら、きっとその人のようには
なれないと見切ったのかもしれません。組織、というものをよくよく考え
させられました。
自分から見切ることのできる勇気、ただ、その後背負うものの大きさも
ずしんと感じた作品でした。
by ニライカナイ店主 (2006-04-27 22:42) 

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