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ラブリーな双子のラブリーな物語 「小春日和」 野中柊 [肩の力を抜いて読書したいときに]


「小春日和」 野中柊 作 青山出版社 2001年7月初版

読者の中に双子の方はいらっしゃるであろうか?
私はそうではないのが、小学生時代に三つ子の友人がいた。
その友人は2人は一卵性でそっくりだったが、もうひとりは同性だが全く違う体型、
顔つきをしていた。

その三人はほとんどいつも色違いの服、色違いの靴を履いていて、小学生の私は
「同じもので3色違うものを探すのは大変だろうな」とか「一度に3人分買うのは大変だろうな」と
子供らしいような、一方子供らしからぬ経済的な苦労さえ感じていたのだ。
しかし実際、その一卵性のほうの二人も、よく見れば表情も違い、性格も違うので
少し仲良くなればどちらがどちらなのかわかるのであった。

さて、こんな前置きをしたのは今回ご紹介する作品が一卵性の双子の少女たちを
主人公にした話であるからだ。

物語の冒頭では、双子であることを否定するような描写があるのだが、
あとに続く子供時代の話はなんだかほのぼのしている。

物語は双子の妹、日和の視点で書かれていく。

双子であるということ以外はごく普通に過ごしている小学生なのだが、
ちょっとエキセントリックな母、慎重な父、ボーイフレンドの家でほとんどを過ごしている祖母と
そのボーイフレンドの老人、およびその家の犬に囲まれ、双子たちは祖母の家のある
逗子というちょっとうらやましい環境で過ごしている。

そんな二人に弟ができる。
妊娠中の母は食べ物の好みだけでなく、行動まで急に「妊娠のせい」で変化し、
数本立ての名画を足しげく見に通うようになる。
(このへんの変化が実におもしろいのだが、妊娠するとそういうものなのだろうか?)
その名画の中で見たフレッド・アステアの話から転じて、なんと双子たちは
タップダンスを習いに行くことになるのだ。

このことがこの双子の姉妹に引き起こす様々な変化、そしてそれを背景に
「やはり双子でも意見は違うのだ」ということをなんとなく控えめに語る妹の言葉によって
物語は綴られていく。

ザ・ピーナッツの解散の話など、少々レトロな話題も出てきて、
当時を知る人にはそれなりに楽しいし、若い人にもそれは新鮮に受け取ってもらえるだろう。

そして、小学生時代の小さな物語が終わって冒頭のコメントに戻ってみると、
いろんなことを想像させる。

きっとこの物語の後に、書かれていないいろんなことがこの双子の少女たちに起こったのだろう。
そして、それらの事々は冒頭のコメントに集約されていく。

いったいどんなことが・・・と考える余白をあえて残したことも味があるなあ、
と個人的には思うのである。

短い小さな物語ではあるが、「個人」というものを考えるちょっとしたきっかけになる、
チャーミングな作品であった。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

小春日和

小春日和

  • 作者: 野中 柊
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: 文庫


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ニライカナイ店主

berudenさんへ>
ナイスありがとうございます。また遊びにきてくださいね~。
by ニライカナイ店主 (2006-05-24 23:02) 

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