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今更ですが・・・「夜のピクニック」 恩田陸 [肩の力を抜いて読書したいときに]


「夜のピクニック」 恩田陸著 2004年7月初版 新潮社

今更、とは思ったものの、やはり読んでみることにした。
やっと図書館の順番が回ってきたというのが正しいかもしれない。

この作品はもう多くの皆さんが読んだり概要を聞いたりしているのではあると思うのだが、
毎年全学年が夜間歩行をする慣習のある高校の、ある高校3年生たちのいわば
青春群像小説である。

まず、頭に浮かんだのは著者の恩田氏の出身大学でも同じことをしているということ。
早稲田から本庄というルートのどこに魅力があるのかはわからないが、
結構参加者があると私が学生時代には聞いていた。著者も参加したことがあるのかもしれない。
他の大学でも都内にある学部からちょっと離れた分校又は本校まで夜間歩き通す、というのは
よく聞く話だし、会社でも新入社員と社長が富士山に登る、というならわしがあるというところも
聞く。(確か某有名広告代理店だ)

高校でこういう慣習があるとどうなるのだろうか、ということを書いたのがこの作品だ。

私は高校が共学でなかったので、恋愛がらみの「告白」などのスリルはわからないが、
こういう「脱・日常」の場面ではチャンスであろうことはよくわかる。

そして、主人公の一人は、高3の最後の夜間歩行にある「賭け」をするのだ。
しかし、その場に思惑を抱えていたのは彼女だけではなかった。
いろいろな思いが交錯する。
恋愛、友情、語られてこなかった過去の真実。
そして、体が極限まで疲れ果てたときに吐き出されるのが「本音」だ。
それがどんなものなのか。
美しいのか、醜いのか。
救われるのか、玉砕するのか。

この作品が多くの本屋の店員さんに選ばれたのは、この作品の精緻な心理描写と、
最後の何重もの友情に支えられた上での爽やかな結末あってこそなのだと思う。

ところで、私の本音をいえば、登場人物たちは高校生にしては冷めている。
みんな出来すぎていると思う。進学校なのだから、みんな精神レベルも高いというところか?
私の高校時代を思い返すと、もっと混沌としていた。

確かに、こうした夜間歩行も、遠泳もラッキーなことになかった私の母校でも、
体育祭と文化祭は異常と思えるほどもりあがった。
それは、きっと保護者はじめ大人たちにはわからないほどのエネルギーだったと思う。
理性を超えて、混沌としたエネルギーの発散と集中がそこにあったと思う。

この作品では、主人公の人生のキーでもある生い立ちに関わるということをのぞけば、
全体が実にクールであり、登場人物はみな思いやりもあり、まるで大人である。
いや、大人以上かもしれない。
一部の漫画にあるように、それは高校時代のぐちゃぐちゃしたよくわからない感情のもつれとか、
勉強とクラブのバランスとか、学校ぎらいとか、先生への反発や無視などを超越して、
実にクールだ。

それがきっと、若い世代と、それを振り返る大人たちにも受けたのだろうし、
一般の書店の店員さんに「面白い、売れる」と思わせたのだろう。
それとも今の高校生はみんなそうなのだろうか?

もし、皆さんがこういう高校にたまたま在学していたとしたら?

どんな夜間歩行を誰として、どんな話をするのだろう。

私はおそらく、実行委員をしているだろう・・・と思う。
そして、借りる学校との折衝や、チェックポイントの仕事をしたり、
歩けなくなった学生を「回収」するバスに乗って救護をしながら慰めたりしているのだろう、と
なぜか思うのだ。

そうそう、以前ご紹介した「図書館の海」の中の予告編「ピクニックの準備」
http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2006-05-28)を再度確認してみても
面白いかもしれない。
主人公の覚悟のほどが伝わってくるというものだ。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

夜のピクニック

夜のピクニック

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/07/31
  • メディア: 単行本


nice!(5)  コメント(12) 
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コメント 12

こんばんは(^^)
「夜のピクニック」は恩田さんの作品の中でもすごく読みやすいですよね。
この本を高校生の頃に読んでいたらどんな感想を持ったんだろう?って思います。たしかにこの物語の中の人物たちはオトナですよね。わたしの高校時代とは比べ物になりません 笑
わたしは高校卒業して数年なのですが,読んでみて“なつかしい”という感覚が一番強かったです。
もう一度読みたくなりました~(^^)
by (2006-07-21 00:21) 

こんにちわ。
私は恩田さんの作品の中で一番好きな作品です。
この作品の爽やかさ、展開もかなり好みで今から映画が楽しみです!
(映画をどう見せるのかも気になってしょうがないです(笑))
あとはこの作品のおかげで「本屋大賞」が楽しみになったり
「ナルニア~」を読む決意をさせられたり(まだ完走してませんが。。。)
ダークサイド版”夜ピク”とも言える、スティーブン・キングの
「死のロングウォーク」を再購入してみたりと
色んな思い出深い作品だったりします♪
by (2006-07-25 08:01) 

香穂

こんばんは、はじめまして!

恩田作品で大好きな本が載っていたので、ついコメントさせていただきました。
私も主人公たちの後輩にあたる年なのですが、だからこそ、この本に出てくる学生たちが妙にクールだなと思いました;
でも、大事なのは思い出、…なのかなぁ?
映画版も楽しみです。

これからもちょくちょくとお邪魔させていただきます。
よかったら、私のブログの方にも遊びに来てください!
by 香穂 (2006-07-25 21:54) 

トム

夜のピクニックとうとう読まれましたね。
出てくる高校生達がかなりクールというのにはなんとなく納得です。私が読んだときに少し盛り上がりにかけると感じたのはその辺だったのかも。
ただこの書評をみてもう一度見直してみようかなと思いました。
by トム (2006-07-26 06:10) 

ニライカナイ店主

madoccoさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
確かに、高校時代に読んでいたら、クールとは思わずに、もっと違うところに
共感していたのかもしれません。いずれにしても、自分の高校時代を思い出す
しかけがいっぱいで楽しい、ほろ苦い思いをさせてもらいました。
by ニライカナイ店主 (2006-07-26 22:49) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
ナイス&ご来店毎度ありがとうございます。確かに、この作品は
「本屋大賞」をクローズアップさせましたよね。本屋の店員さんという立場
からのお薦めという意味で、裏もあるかな?とも思いますが、多分この
一回目は純粋な気持ちだったのでは(笑)と考える私です。
図書館員大賞というのもやってほしいものですね。
by ニライカナイ店主 (2006-07-26 22:52) 

ニライカナイ店主

さくさんへ>
ナイス&はじめてのご来店ありがとうございます。
「大事なのは思い出、・・・なのかなあ」というコメント、気になりました。
このあと、しばらくするとまだ全く違った恩田作品も店出しする予定なので、
また遊びにきてくださいね。お待ちしています!
by ニライカナイ店主 (2006-07-26 22:57) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&毎度ご来店ありがとうございます。そう、とうとう読みました!
よく出来ているなあ、と思いつつ、自分が高校の頃のことがすっかり
遠い過去になっていることも思い知らされました。でも、高校時代から
どれだけ自分が変わったのか?と考えてみても、あまり違いが無いかも
・・・とも思うのです。
by ニライカナイ店主 (2006-07-26 23:00) 

実は、作者の恩田陸さんと同じ高校、同じ大学(学部は違う)です。
紹介記事などにもありますが、「歩行祭」のモデルは水戸一高の「歩く会」で、現在も続いています。今年は10/14~15の予定です。
映画のロケも母校で行われ、その風景がホーム・ページに掲載されています。
作者も「いつかは書いてやる」と思っていたそうです。
by (2006-10-04 03:01) 

ニライカナイ店主

Teddy_kさんへ>
初のご来店とコメント、ありがとうございます。実は私も少し年上ですが
お二人の同校卒業生の知り合いがいます。今度あったらぜひ話を
聞いてみたいと思っています。ちなみに、Teddy_kさんは大学では
歩かれたんでしょうか?強制ではないと聞いたのでちょっと興味があります。
もしそうだとしたら、高校時代との違いもぜひお聞きしてみたいです。
by ニライカナイ店主 (2006-10-11 19:53) 

Teddy_K

残念ながら、100kmハイクには参加していません。
一浪して体がなまったからというのは表向きで、別な運動をしていました。
「歩く会」の特徴は、団体歩行と自由歩行ですね。他校の行事(100kmハイクを含めて)は、歩くだけというのがほとんどですから。
考えてみれば、ウォーク・ラリーとマラソンを同時開催するようなものです。関係市町村と警察の、前向きな協力がなければ不可能ですね。
私が参加したのは第19~21回。小説の設定は1980年で、その年は第32回東海コースでした。これは、こだわったというより、ご自身の思い出を生かしたかったのでしょう。同窓生の多くが、目の前によみがえる、と書いています。
今年は第58回筑波コースで、作者が3年の時のコースです。
きちんとフィクションとしての処理は施されています。
by Teddy_K (2006-10-12 11:40) 

ニライカナイ店主

Teddy_kさんへ>
なるほど・・・確か某大のハイクは行って帰ってくるだけですからね(笑)。
お話を聞いて、さらに出身校の方をつかまえいろいろ話を聞いてみたくなりました。きっと、どんな学校にも同じような行事があって、それぞれの思い出が
あるのでしょう。これだけ長く続いている伝統の行事、というのもなかなか
ないのでしょうが・・・やはりこれもこの作品のファンが多い秘密の一つ
なのかもしれませんね。
by ニライカナイ店主 (2006-10-15 11:20) 

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