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やはり食欲は大事 「スープ・オペラ」阿川佐和子 [大切な人とのことを考えたいときに]


「スープ・オペラ」 阿川佐和子著 新潮社 2005年初版

変なタイトル、と思うのだけれど、これには二つのひっかけがある。

一つは皆さんもお分かりのとおり、「ソープオペラ」、つまりアメリカでの昼メロのことで、
石鹸会社がスポンサーにつくことからこういわれているという。
日本でも、確かに○○愛の劇場とか、○&Gがスポンサーについた
30分くらいの家庭ドラマ(時にはほのぼのではなくドロドロ系もあり)がある。

かといって、特に昼メロチックな不倫でもどろどろでも、子沢山の家族愛ものでもないのだが。
ただ、擬似家庭というか、他人でも楽しい食卓を築くことができるんだ、と
ちょっと楽しそうな場面が多く出てくる。

もうひとつは、この物語の中に、欠かせない献立として、「スープ」が出てくることがある。

と言っても、別にラーメン屋や今流行のスープカフェの話ではない。
献立によく、いや、必ずといっていいほど毎日スープが出てくるのだ。
このスープが結構な話の鍵を握っている。

主人公は35歳の大学職員の女性。最初は24歳年上の母の妹と共に住んでいる。
この伯母さんがかなりかっとんでいる。
それに気おされるように、主人公は非常に常識的におとなしく人生を静かに生きているのだが、
その伯母さんが急にわけあって家をあけることになったことをきっかけに、
思わぬ同居人達が転がってくる。

主人公の父ともいえるくらいの年齢の画家、及び編集者の男性との奇妙な同居生活が始まる。
そして、その食卓には必ずなぜかスープを出す、というルールを決めるのだ。

食べ物がいろいろと出てくる作品は楽しい。
食卓が楽しそうに描かれている、ということはその食卓にならぶメンバーがうまくいっている、
ということだ。
しかし、その楽しい食卓はいつまでも続くわけではない。
様々なことが起こる。

女35歳の主人公は、周りに振り回されつつも、結局は自分のペースを崩すことはない。
大切なものが何かを知っているし、一人で生きていくこともできるのだ。
さすが阿川女史、このあたりのツボはしっかり長編小説でも押さえている。

でも、仲間がいればもっと楽しい。
しかも、楽しく食卓を囲むことができる仲間がいれば。

物語の中で、近所の肉屋さんのハムカツ、というのが出てくる
それがどうにもこうにもおいしそうに描かれていて、そのあつあつを食べてみたくなる。
厚いのと薄いのとあるのだが、その薄いほうが主人公たちのお好みだ。
もしこの食卓に招かれたとしたら、ぜひ鶏がらからとった澄んだスープと、
この薄いほうのあつあつのハムカツにご相伴してみたいものだ。
そんないきいきとした、健康的な気持ちになる作品であった。

食欲のない方、人間関係に行き詰っている方にお勧めかもしれない。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

スープ・オペラ

スープ・オペラ

  • 作者: 阿川 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 単行本


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コメント 11

ニライカナイさん、おはようございます。
阿川さんの作品って読んだことなかったんですが
とっても素敵♪
一人で暮らす(生きる?)女性たちが読みたくなるんじゃないかな~
映画『カモメ食堂』を思い出してしまいました。
そんな、素朴であったかい本なんかな~
本屋に行ってきます…
by (2006-09-25 11:51) 

歩林

うーーん。この本は、とても興味があります!
年齢といい、環境といい・・・。
一人の時間も大切だけど、仲間がいればもっと楽しい
ってのは心に響きますね。
by 歩林 (2006-09-25 22:09) 

おはなし村ゆめ

最近、いろんな人と食事をしています。
新しい友人、気になる人、家族、後輩、同僚、・・・・
食事しながら、お話してみると、不思議と気楽になんでも
話せるし、話してくれます。
すごく、いろんなことを、考えるチャンスになります。
スープは、これからの季節、欠かせませんね。
毎日、違うスープって作れるのかなあ。
レシピでも買ってみようかな。
そういえば、こころのチキンスープって本、大好きです。
by おはなし村ゆめ (2006-09-25 22:56) 

lucksun

はじめまして。
わたしもこの本、好きです。
仲間と楽しく食卓を囲むシーンがとても印象的で、
思わず食欲を刺激されますね。
スープを中心に語られる人間模様の描写がうまいなあ、と思いました。
「健康的な気持ちになる作品」との言葉、納得です。
by lucksun (2006-09-26 01:12) 

ニライカナイ店主

ねこばすさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます!確かに、ちょっと「かもめ・・・」に
通じるところはあるかもしれません。ただ、主人公はもう少し振り回される
ようですけれど・・・食べることの大切さとか、食卓の大切さを考えさせられる
作品でした。阿川さん、確かにエッセイではおなじみですが、この小説も
なかなかでした。
by ニライカナイ店主 (2006-09-28 07:53) 

ニライカナイ店主

歩林さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。食事の大切さを考えた本でした。
自分ひとりで買って来たものを食べるとすごく早く食べ終わってしまいませんか?一方、人がいて、家族がいて、わいわい食べる食事の賑やかなこと。
そのことの意味をふと考えてしまう一方、奇想天外な登場人物にも笑える
作品です。
by ニライカナイ店主 (2006-09-28 07:56) 

ニライカナイ店主

おはなし村*ゆめさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
このスープもいろいろありまして、なかなか勉強?になりました。
近くにある肉屋さんもいい味だしてます。食べることってただ栄養を
とるだけじゃないんだな、としみじみです。
by ニライカナイ店主 (2006-09-28 07:58) 

ニライカナイ店主

lucksunさんへ>
初のご来店&ナイスありがとうございます!今後もご贔屓に・・・
なんだか話の流れに振り回されながらも結構楽しい本でしたよね、
共感していただける方がいて嬉しいです。
そちらにちらっと遊びにいってみたのですが、スマップのコンサート、
楽しめてよかったですね。すごかったでしょうね~。
by ニライカナイ店主 (2006-09-28 08:02) 

ニライカナイ店主

berudenさんへ>
ご来店&ナイスありがとうございます。
あとでそちらへも遊びに行かせていただきますね。
これからもまたいらしてください!
by ニライカナイ店主 (2006-09-28 08:05) 

さわこ

阿川佐和子さんって名前が同じということもあり
すごく親近感というか気になる人です。
TVに出ててもつい見ちゃうし^^;;
作品に人柄がとても表れててやさしいけど暴れん坊というか。
ついつい流されてみたくなっちゃったりする人です。
by さわこ (2006-09-29 06:03) 

ニライカナイ店主

さわこさんへ>
ご来店ありがとうございます。なるほど・・・確かにあんなふうに奔放に
話ができる人ってなかなかいませんよね。壇ふみさんと一緒にいるときの
あのエネルギーもものすごいですよね・・・ははは。
by ニライカナイ店主 (2006-10-03 23:06) 

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