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ほのぼのさの中の闇 「プラネタリウムのふたご」 いしいしんじ  [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「プラネタリウムのふたご」 いしいしんじ著 講談社 2003年

何か不思議な感じのする1冊であった。

物語のような、昔話のような。

タイトルにもあるように、ある町のプラネタリウムに双子の男の子が置き去りにされる。
プラネタリウムの解説員が、なりゆきから二人を育てることになる。
その町にはパルプ工場があり、プラネタリウムの主なお客はそこの工員なのだが、淡々と過ぎる星々の回転のように、二人も成長していく。

やがて、二人は星については誰にも負けないくらいくわしい子どもになる。
なにしろ、プラネタリウムを毎日見ているのだから。

でも、あることをきっかけに二人は離れ離れになり、全く別の人生を歩むことになる。

この物語は、本当に暗い闇について書かれた本のような気がする。
宇宙に広がる本当の闇。
街中に住む人間には想像もつかない、何もかも吸い込むような漆黒の闇。

それは考えもしないところに潜んでいる。

まるで児童文学のような、そう、宮沢賢治のような文体のせいだろうか、そんな感じがするのだが、とても小さな子どもに読み聞かせる内容ではない。
別の作品で坪田譲治文学賞を取っているので、それは子どもも共に共感できる作品なのかも
しれないが、この作品に関しては少々きつい表現があることと、この虚無にも近い闇、
しかし、誰ものすぐ近くにさりげなく存在する闇をあまり小さな子どもに教えることがどうなのか、
私は判断しかねる。

まるでおとぎ話のように始まるのどかさが、あるとき一転して恐ろしい現実にすげ変わる部分に
関しては、本当に手品を見ているような鮮やかさがある。
その魅力の一方、暗闇に耐えられ、理解し、さらにその穴におちいることの恐ろしさを
読み取れる年齢になってからのほうがいいのかもしれない。

余計なお世話、といわれればそれまでなのだが。

とにかく、現実的な面を持ちながらも、不思議な世界を垣間見させてくれる一冊であった。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

プラネタリウムのふたご

プラネタリウムのふたご

  • 作者: いしい しんじ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/10/14
  • メディア: 文庫


nice!(1)  コメント(4) 
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コメント 4

トム

この作品に何があるのかとても気になる紹介ですね。
是非読んで見たいとおもいます。
by トム (2006-12-16 22:00) 

yworfutig

これって怖い内容なんですか。なんだかとてもほのぼのした題名と表紙なんですが。
読んでみたいような内容ですが、「あるとき一転して恐ろしい現実にすげ変わる」っていうのがとても気にかかるんですが。
by yworfutig (2006-12-19 20:18) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&ご来店いつもありがとうございます。
なんともいえない不思議な作品だったので、ご紹介するにもどういう
スタンスをとればいいのか考えました。一番雰囲気が近いのは
宮沢賢治だと思うのですが(著者が意識しているかどうかはわかりません)
一見児童文学のようでありながら、もっと深いところに著者のねらいは
ある、というところです。機会がありましたら、お手に取ってみてください。
by ニライカナイ店主 (2006-12-21 12:21) 

ニライカナイ店主

クレマチスさんへ>
ご来店ありがとうございます。
ちょっと怖がらせてしまったかもしれませんね(汗)・・・。
でも、私の読書感は本当にそういう感じだったのです。
このままほのぼのといくのかと思ったら・・・と。
怖い、というのはホラーという意味でなく、ほんわかとした童話かと思ったら
急に現実に引き戻された・・・というような、ギャップの深さと考えてもらって
いいと思います。ですから、ある程度の年齢になればある程度受け止め
られるものであるし、類似した出来事も見聞きしているけれど、あまり幼い
読者にはちょっと・・・というのはそういう意味です。
本を紹介するというのはやはりなかなか難しいですね。
でも、基本的に読んで私の判断ではありますが、お薦めする意味のない
ものはここでご紹介しませんので私もこの作品で何かを感じて、
受け取ったのだと考えています。
by ニライカナイ店主 (2006-12-21 12:30) 

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