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少年たちを見守りながら 「バッテリーⅡ・Ⅲ」 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]

☆「バッテリーⅡ」 あさのあつこ 角川文庫 2004年 

遅まきながら、味わってこのシリーズを楽しんでいる。
この作品もやはり教育画劇から刊行されたもの(1998年)を加筆・訂正し文庫化したものだ。

ピッチャー巧はキャッチャーの豪と同じ中学に進む。
いや、豪がその道を選んだといえるのかもしれない。

ふたりは「中学野球部」という枠、そして壁にぶち当たる。それもとても激しく。
そうだ、あの巧がそれをうまく通りぬけて何事もない、などと誰が思おう。

苦しいながらも、潔い生き方と、迷いをもちつつ、その生き方を信じようとする二人の相棒。
相棒、と思っているのは果たして豪だけなのか?そんなことさえ考えさせられるシーンもある。

「バッテリー」のときも思ったのだが、作品自体も面白いのだが、あとがきにひかれる。
このⅡの時には、ちょうどバッテリーシリーズを書き終えたときの「あとがき」が
あさの氏によって書かれている。このあとがきにジーンときてしまった。

あさの氏は、10年前に「少年をわたしの手で生み出してみせる」・・・
「若い未熟な魂に稀なる才能をつぎ込まれ」「過剰な自負と他者への希求を持て余す
ほどに有する」少年を・・・そう、10年前には「生み出してみせる」と書き手として
思いを抱いていた。
しかし、こうしてシリーズを書き終わって「今は、ない。満足感も充足感も、安堵感もない。」
といい、「書ききれなかった」と述べている。「ついに、捉え切れなかった」と。

この部分にぐっときてしまう自分は、何ものなのか、とふと考えてしまう。
やはり、少しは文章を書くことを目指し、日々少しずつ努力している者としての共鳴なのだろうか。
魂の共鳴・・・。そんな感じがした。自分までが落ち込むような、そんなあとがきなのである。

しかし、もう少年たちは一人歩きを始めている。
作家の手を離れ、多くの人を驚かせ、感動させ、共感させている。
もちろん、作品としての比較や意見は作者を追いかけて続け、いつかは捉えるのだろう。
しかし、この作家には、そこから立ち上がりさらに先に進もうとする力がさらに感じられるのだ。
こうした一人の作家のあからさまな心のささやきに、私達は未来への光を
見出すのではないだろうか?

その光が多くの少年や、少年のこころを持つ大人、
そして少年たちを見守る人々に降り注ぐことを祈りたい。

☆「バッテリーⅢ」 あさのあつこ 角川文庫 2004年
(2000年教育画劇発刊後加筆修正発行)

あの巧と豪は同じ公立の中学に進み、とうとう中学の野球部という「枠」に
踏み込んでいく。
今までの野球だけで結びついていた関係から、学校の部活動という枠に囲まれた
壁が巧の前に立ちふさがる。
教育としての部活動、そして先輩と後輩という関係。
巧は決して自分の立ち位置をぶらさない。
どんなことがあっても。

そして、バッテリーを組む豪の心理もその繊細さがより明らかになる。
天才肌ピッチャーとその球に惚れたキャッチャーの心理。
まさにキャッチャーが女房といわれるように、豪の巧に対する思い、
巧の自分への信頼について、非常に神経質になっていることもあからさまになる。

チームとしてなんとかまとめようとするキャプテン海音寺、そして監督。
みんな野球を愛している。
でも巧は?・・・と考えさせられるシーンが何度も繰り返される。
巧が求めているもの、愛しているものは一体何なのか。
それは中学の野球部の中で存在しえるものなのか。

青波の成長もこれから気になるところである。

作中に、「制服の下に、ユニフォームの下に、誰もが、
それぞれの身体と意志と誇りを潜ませている」という一文がある。

これは、中学生に限ったことではない。
ただ、その第一歩を踏み出す、それがその年代なのかもしれない。

自分の中学生時代を思い出しながら、熱い思いで読みきれる。
特に、クラブ等、何かに打ち込んだ記憶のある人ならば。
中学生が決して大人が思うほど幼くはないことを、自分の体験から
思い出すはずなのだ。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

バッテリー〈2〉

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  • 作者: あさの あつこ
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  • 発売日: 2004/06
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nice!(1)  コメント(3) 
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コメント 3

yworfutig

私は今、「バッテリーⅥ」を読んでいます。
「バッテリーⅡ・Ⅲ」の頃は、中学野球にぶつかっていくところだったんですね。思い出します。
巧。彼は変わっていかないようで、少しだけ変わっていきますよ。そこの所はお楽しみに。
by yworfutig (2007-05-20 23:16) 

ニライカナイ店主

クレマチスさんへ>
ご来店&コメントありがとうございます。ここから先も楽しみです。
一緒に時間をたどれるような、自分の昔を振り返るような、
不思議な作品だと感じます。
by ニライカナイ店主 (2007-05-24 19:13) 

ニライカナイ店主

春日さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。また遊びに来てくださいね。
by ニライカナイ店主 (2007-05-24 19:14) 

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