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五感で中学時代を思いながら 「The MANZAI」1~3 あさのあつこ [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「The MANZAI」1~3 あさのあつこ
ピュアフル文庫 2005~2006年

ああ、中学時代、こんなことがあったなあ、とふと思った。
テンポよく進んでいく物語の中で。

もちろん、状況も家庭環境も違うのだ。

でも、中学時代、友達を信じるということ、
なんの損得も無く、血縁関係もない人間と
ここまで強く結びつくことができるのだ、ということ、
そしてそんなみんなと一緒に何かをすることが「気持ちいい」と
感じたあの頃の感じ。

その感じは、「匂い」のようなものだ。
こうこうで、こうだから、としっかり説明できるようなものではない。
まさに、五感の中で感じ取った過去の記憶である。

この作品の主人公、歩は、舞台になる中学に転向してくるまで、
一度は自分を見失い、それが間接的なきっかけとなり、家族を失っている。

転向してきた学校では、贖罪のようにひたすら「普通でいよう」と
真面目に黙々と通学している。

そんな歩に「なんで、ふつうじゃないとあかんのや」と正面から言い放ったやつがいる。
それが同級生になった秋本だ。

彼はサッカー部のエース的存在にもかかわらず、歩と漫才をしようとする。
相棒、と心に決めたのだ。

なぜ運動もできて女の子にももてて、それ以上なにがある?というような
中学生活を送っているようにみえる秋本が歩に
「お前しかいない」と熱烈に繋がろうとしているのか。
それがこの物語の根底を流れるテーマになる。

この作品に出てくる中学生たちは様々だ。

でも、結構気のいい連中といえるだろう。
それは、だれがどう、というものでなく、みんなで繋がろうという
求心力のようなものをみんなが本当は求めていて、
家庭の問題や受験など中学生の直面する
自分の居場所を揺さぶる不安をもさらけたり、
蹴散らしたりするパワーをもつものなのだろう。

そんな仲間に引きずり込まれた歩も、かたくなだった心が、
徐々に外に向いてくる。

それは、自分だけのことを考え、
自分が無事に立っていることが精一杯だった状態から、
かなり荒っぽい外からの力がかかったにせよ、
自分以外の人間のことを考えたり、
自分が自分自身であることを隠さないで済むように変わっていくのだ。

そう、人間は変わっていくのだ。

もちろん、変わらなくていいものもある。
でも、変わってもいいし、ほかの人間ともともと違っていて当然なのだ。
それをこの物語は中学生の姿を通して語りかけてくれる。

辛い過去があっても、ややこしい家庭環境であっても、
友を初めとする他人の助けを借りたとしても、
自分らしく生きるために変わることができるのだろう。

ちなみに、文庫の2巻目には重松清氏と作者の対談が、
3巻目には加納朋子氏の解説が掲載されている。
それぞれ興味深い内容であるのでぜひ併読されたい。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

The MANZAI 1

The MANZAI 1

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2005/12/01
  • メディア: 文庫


The MANZAI 2

The MANZAI 2

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2006/03/02
  • メディア: 文庫


The MANZAI〈3〉

The MANZAI〈3〉

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫


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コメント 1

ニライカナイ店主

春日さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます!
この作品も不思議な魅力のある筋書きでしたが、
あの頃なにかに打ち込んでいた頃の気持ちをふと
思い出させてくれる物語でした。
春日さんはどう思われましたか?
by ニライカナイ店主 (2007-08-16 14:02) 

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