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鑑識視点の警察小説 「臨場」 横山秀夫 [ミステリーを楽しみたいときに]


「臨場」 横山秀夫 光文社文庫 2007年

警察小説、それも鑑識からの視点で事件を割り出していく物語の短編集である。
いずれの短編も、同じ県警の話であり、「終身検視官」といわれている
異例だが長年捜査一課調査官として鑑識の仕事を続けている倉石、という男が登場する。

一つひとつの短編、そして事件は、警察の中の人間や警察付きの記者たちに
何かの形で深く関わる形を取っている。

普段は事件を外側のこと、ととらえながら対象としている彼らにとって、
それが他人事でならないとき、彼らはどうするのか。
どう思うのか。

倉石の「臨場」=現場への出動、あるいは長年の経験による判断により、
事件は思わぬ一面を見せることになる。

私たちはこれらの短編により、警察やそれを追いかける記者たちが
決して一塊の組織ではなく、一人の人間であることにあらためて気づかされる。
彼らもそれぞれの過去を持ち、迷い、苦しみ、日々戦っている。
本人達でさえ忘れかけていたそんな事実を、事件が掘り起こしていく。

それぞれの短編は少しずつ繋がれている。
前に関係者だった記者や刑事たちも再度ふとした場面で現れる。

それにしても異彩を放つのは警視でありながら鑑識畑で事件の背景を
現場から見抜く鋭い目と頭脳を持つ倉石だ。
彼自身のことは多くは語られないが、事件の見立てが彼自身、
そして彼の人生を浮き彫りにしている。
その生き方に羨望を覚える読者も多いだろう。

女性に関する記述がやや女性読者にはどう受け取られるだろう?と
思う場面はある。
しかし、人間を描く、という観点からはやはり優れたところのある
作家だと思う。これからも補足していきたい。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

臨場 (光文社文庫 よ 14-1)

臨場 (光文社文庫 よ 14-1)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/09/06
  • メディア: 文庫


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はっこう

はっこうではなく、人生の伴侶の趣味ですね、横山さんは(^^)
by はっこう (2008-03-17 15:43) 

ニライカナイ店主

はっこうさんへ>
ご来店&コメントありがとうございます。
そうなんですか・・・ご伴侶さんの趣味で。横山さんの根強いファンは
案外いるのです。私ももっと深く読み込みたい・・・と思いつつ、
多くの本が溢れている状況であちこちに目がつい行ってしまいます。
でも、このカフェにはなくてはならない存在の作家さんです。
by ニライカナイ店主 (2008-03-22 08:13) 

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