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最後は読者に渡されるバトン 「玻璃の天」北村薫 [ミステリーを楽しみたいときに]


「玻璃の天」 
北村薫 文藝春秋 2007年

久しぶりに北村薫の新作ミステリーを読んだ。
あとから分かったことだが、この作品には前作があり、「街の灯」という作品が
既に文庫ででている。
こちらを読まずに本作を読んでも、ほとんど違和感はなかった。

舞台は昭和十年代のややきな臭い香りのしてきている日本である。
ある商事会社の社長令嬢であり、有名女子校の「後期」(今で言うところの高校あたりにあたる)生徒である主人公と、その運転士、それも秘密めいた女性である別宮女史という
コンビが登場する。

なんでも知っている控えめな、しかし何か分けありのような女性運転士と、
何にでも曇りのない目で世の中を見ようとする、好奇心旺盛の令嬢。
この2人を取り巻く3つの事件。
いずれも、何が本当に正しくて、何が間違いなのか・・・
それぞれの登場人物の立場で異なってくる。

この、答えは一つではない、という考え方は、著者のどの作品にも一貫している。
ただ、モラルという意味では、一本筋は通っているのだ。
その上で、常に物語の終わりは読者が「ううむ」と唸ることとなる。

物語も、最後まで語りつくすことはなく、本当の顛末は読者に任せて・・
というところであろうか。
そこがまた北村薫氏らしい、にくいところである。

昭和初期の銀座などの様子、様々な上流階級の風習がまた楽しませてくれる。
資生堂パーラーの「クロケット」、鳩居堂の封筒など、昔も今も、女性の心をくすぐる
描写もある意味ではリアルタイムで出てくるのだ。

北村氏は、「空飛ぶ馬」の女子大生シリーズから始まり、常に最後まで答えを
書ききるよりも、どこか読者に「さて、あなたはどう考えますか?」という
余白を残していく書き方をする作家のように思われる。
そこがついやみつきになってしまうのだが・・・
著者がどう書くつもりだったのか聞いてみたい気もするが、
それは野暮というものだろう。
そこにこそ、著者の作品にこめている想いがあるのだと思う。

そう、最後は読者のものだ、というサービスであり、哲学であり、
自分が書くべきことはもう書ききっているのだ、という自信・・・というよりも
納得なのかもしれない。

かくて、読み終わった後も何度も気になって本を手に取ることとなる。
もちろん、「街の灯」もすぐに入手に行くつもりである。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。


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いや~おもしろかった 「まんまこと」 畠中恵 [ミステリーを楽しみたいときに]


「まんまこと」 畠中恵 文藝春秋 2007年

いや、おもしろかった。
素直にそう思える一冊だった。

「しゃばけ」シリーズで江戸ものの面白さを書き続けてきている著者だが、
この作品はまた新しくシリーズ化しそうな予感がする。

主人公は江戸時代、神田の代々続く名主高橋家の跡取り息子、麻之助は
いまや22歳の若者なのだが、16歳までは生真面目でまともな評判の良い
青年だったものを、なぜかその後は「お気楽」が枕詞につくほどの、
のん気で遊び好きな若者になってしまった。

悪友の同じく名主の息子、女性にはまめで
人気の清十郎とつるんではいつも「お気楽」に町を流している。
さらに、幼なじみの同心見習いの吉五郎と三人で、なにかと起きるいろいろな
ものごとに首をつっこんでいく。

というのも、昔は奉行所にあげるまでもない小さないさかいは、
その町をしきる名主が自宅の玄関口で関係者を呼んで裁定していたからなのだ。

しかも、この「お気楽」麻之助の父、名主の宗右衛門が腰を痛め、
麻之助が名主代理としていくつかの持ち込まれた揉め事を
裁定しなければならなくなった・・・
という筋書きである。

まずは、江戸時代の言葉がいろいろ出てきておもしろい。
名主の玄関を「げんか」と呼んで、そこで揉め事の裁定をしていたということや、
つまらなく執着することをタイトルにした「こけ未練」など、
江戸の言葉が新鮮で、またそれがそれぞれの短編の中で生きている。

さらに、持ち込まれる様々な揉め事が、人間の心のちょっとしたひっかかりや、
ひがみ、執着、心のひだに関わるものだからこそ、それを見抜き、誰もが納得する
裁定を名主がしなければ後がわるくなる・・・と奮闘し、考える主人公には、
「お気楽」者とは別の顔が見え隠れする。

また、麻之助がなぜ16歳から急に「お気楽」になったのか・・・

それも推測ながら、その心中が最後には分かるように描かれている。
「お気楽」に生きざるを得なかった、そんな道しか己に与えられまい、と
思っていた若者が、名主代理として思わぬ活躍、名裁定をしてしまうところが
スカッとする。

江戸の風習や風物詩もなかなか楽しめる。

ちなみに、本のタイトルにもなっている「まんまこと」とは、
本当のこと、の意である。
さて、麻之助の「まんまこと」はいったいどうしたものやら・・・と
考えながらも、シリーズ化されることを期待したい。

追伸:「しゃばけ」がドラマ化されるらしい。CGも(もちろん)つかってとの事だが、
少々キャスティングの一部が・・・と思っているのは私だけだろうか・・・。
しかし、「しゃばけ」原作にたどりつく人が多くなれば、より楽しい世界を知ることに
なるに違いない。そう考えると悪くはないのだが・・・。
「ガリレオ」も微妙なのでついハラハラしてしまうのである。

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まんまこと

まんまこと

  • 作者: 畠中 恵
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/04/05
  • メディア: 単行本


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スピード感ある医療ミステリー 「ジェネラル・ルージュの凱旋」 海堂尊 [ミステリーを楽しみたいときに]


「ジェネラル・ルージュの凱旋」 海堂 尊 2007年 宝島社

現役勤務医である著者が、2006年のデビュー以来、
書き続けている医療ミステリーの4作目である。

なぜ仕事をしながらこれだけのものが書けるのか・・・と思うよりは、
現役の臨床医だからこそ、こういうものが書けるのだろう、という印象のほうが強い。

今回の主役は、「チーム・バチスタの栄光」でも舞台となった大学医学部付属病院の
ICU部長、速水である。

彼は救命救急センターという一分一秒を争う戦場に身を置きながら、
出来る限りぎりぎりの瀬戸際まできている命を救うため、ありとあらゆる手を尽くしている。

その手腕は誰もが認めるものであり、それはセンタースタッフの中にも浸透している「はず」だった。

一方、救命救急センターとともに小児病棟を含む病院新棟は「赤字」の温床として
病院事務局長からは目の敵にされていた。

速水が強く望んでおり、新棟にその設備もあるドクター・ヘリは
自治体の費用負担も病院側の予算もかなわず実現していない。

そう、彼の神のような手腕に対する羨望とも憎しみともとれない敵視の渦が病院内には溢れていた。

そんなとき、一つの密告文が「あの男」に届けられる。

そう、万年講師、又は昼行灯、グッチーこと不定愁訴外来の田口医師のもとへ。


その差出人の名もない手書きの密告文が、平穏な田口医師の日々はまたも
迷宮の扉を嫌々ながらも開けざるを得ない状況に追い込んでいくのだったが・・・

一時はやられっぱなしだったグッチーもリスクマネジメント委員長としてすっかり成長?が見られる一方、
医療現場の戦場の状況、そして病院経営という相反するもの、大学病院という伏魔殿で
いったい「正義」とはなんなのか・・・考えさせられる重い内容を含んでいる今作である。

今回はそういった部分が大変分かりやすく、エンターテイメント性を保ちながらも、
読者もその場に関係者として臨席して問題と対峙いるかのような錯覚におちいる「しかけ」だ。

これは、短い間ながら著者の腕が上がった、ということでもあるのかもしれない。

そして、速水の大学時代からの同級生で、マージャン仲間でもあったグッチーが最後に下した裁定とは?

もちろん、おなじみ白鳥氏といつのまにやら登場し得意技を披露する姫宮嬢、
コーヒー担当実は裏の総師長藤原看護師、ネコこと猫田師長も登場する上に、
このシリーズにはめずらしくロマンスもあるので、連読されている方はお楽しみに。

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ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2007/04/07
  • メディア: 単行本


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初期の出色ミステリー 「噂」 荻原浩 [ミステリーを楽しみたいときに]


「噂」 荻原浩 新潮文庫 2005年(2000年初版加筆修正・講談社)

荻原氏続きで・・・

久しぶりにあっという間に読み倒した。

荻原浩のミステリー、なかなかのものである。

話は渋谷の女子高生にある「噂」を流して欲しいという意味をふくんだ
アルバイトを発端に、まったく関係のないような事件とクチコミ=「噂」の
伝播力の強さ、マイナスのエネルギー、警察組織のいびつさ・・・等々、
いろいろな要素を巻き込んで進んでいく。

最後に何がどうなるのか。
事件の犯人は誰なのか。
最後まで本当にわからない。

しかも、携帯やネットをかけめぐるマイナスのエネルギー・・・
そう、いじめやいやがらせなど、今考えると2000年当時、よくこのようなことを
想定して書けたなあ、とおどろくようなことばかりである。
なぜなら、多くのことが実際にここ数年のうちに実際に起こっているからだ。
もちろん、事件自体は類似事件は起こっていないが、そのきっかけとなるアルバイト、
そしてネット社会のゆがみはまさに現在をいいあてている。
匿名性を悪用したいやがらせ、無責任な「~らしいよ」というクチコミ・・・噂。

そんな中で、なんとかまっとうに生きようとする
二人の刑事の姿だけが救いである。

このコンビは最初はギクシャクとしてとても不似合いなのだが、
やがて最強のコンビとなる。

お互いがお互いを補い、お互いを認め合う。
しかし、そんなコンビを警察の組織はばらしてしまう。
でも、2人はそれぞれ心の中では固い絆を相棒同士としてもちながら、
それぞれの持ち場で事件をおいつめていく。

悲惨で無責任な事件のすべてが明らかになったとき、
支えになるのは、この2人の刑事の絆だけなのである。

正義と、命を守ろうと、功名も上司への媚びも売らず、
淡々と真実に迫っていく姿こそ、このセンセーショナルなミステリーの核心なのかもしれない。

なにもかもがいやになったとき、この作品を読めば、
もしかしたらこの世の中にも何かいいことが一つくらいはあるかもしれない・・・と
思う・・かもしれない。

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噂

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 文庫


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夏にお薦めのスリラー短編集 「押入れのちよ」荻原浩 [ミステリーを楽しみたいときに]


「押入れのちよ」 荻原 浩 新潮社 2006年

ちょっとぞくっとするような9作のスリラー短編集である。

本当におぞましいものもあれば、最後に大笑いしてしまうものもあり、
しみじみしてしまうものもある。

タイトルの「押入れのちよ」は、ご想像のとおり、
借りた部屋に少女が住んでいた・・・という話なのだ。

最初は不気味で迷惑に思う主人公は、現在失業中、
彼女との仲もうまくいっていない。
焦っているそんな中、「ちよ」が登場する。

しかし、ちよが持つある特別な能力がその後主人公の人生を変えていく。
主人公は、そんなちよのために最後は供養をしてやろう、と思い立つのだ。

どの作品も、人間の心の内側を描いている作品である。
思っていることを普段は押し込めているが、それが外に出るとどうなるか。

読んでいて、怖いような、しかし一方的に非難できないような気もする。

後味が悪いものもある。
しかし、しみじみとさせる作品もあり、
思わぬ展開に大笑いの「殺意のレシピ」などはすっきりした終わり方である。

人間、やはり本音でまっとうに生きたいものだ、と思わされる作品集である。

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押入れのちよ

押入れのちよ

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05/19
  • メディア: 単行本


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擬似江戸ワールド2 「金春屋ゴメス 芥子の花」西條奈加 [ミステリーを楽しみたいときに]


「金春屋ゴメス 芥子の花」 西條奈加 新潮社 2006年

現代日本に共存する異国、江戸を舞台にする「金春屋ゴメス」シリーズの2作目である。

シリーズ1作目のように、「今の日本の中に江戸がある」という
ややこしいながら刺激的な始まりと異なり、2作目は1作目の続きのような感じで
始まるので気分が乗るまでやや時間がかかるかもしれない。
しかし、新たな仲間が長崎奉行であるゴメスの裏金春に現れる。
その御仁も「いまどきの江戸」らしい人物である。

タイトルにもあるように、芥子の意味する阿片・・・麻薬の闇取引が
今回の最大のテーマでもあり、たくましくなった主人公の一人である
「日本」から1作目にやってきた辰次郎もたくましくなっている。
最近では棒術なども身につけようとしている。

また、今回の作品では、さらに「江戸」のシステムがよくわかるように
説明されていて、それが物語の謎を解く鍵にもなっている。
本当の江戸時代の武家システムとこの虚構江戸世界の改良版武家システム。
比べて考えるのも楽しい。

昔の日本=江戸にあって、日本になくなった義理や人情、助け合いというものが
このゴメスワールドにはある一方、やはり変わりなく存在する人間の心のいやしさや
名誉欲、金銭欲、そして悪いことを考えるヤツがいる、ということは
いつの時代も変わらないのだ、と思わせられる。
その人間のマイナスのエネルギーが、この虚構の世界の中でより明確に浮き上がる。

全般的には前作にひきつづき、楽しく読める娯楽作品になっている。
今回は「島流し」も登場する。ゴメスワールドの「島流し」とは?
そんなことを考えることもまたこの虚構世界の楽しみである。

今回の一件で、この現代の「江戸」についてやや暗い影も見え隠れする。
次作ではそのあたりがクローズアップされるかもしれない。
鎖国されても現代につながっている「江戸」。
さて、次回はどのような難問がゴメスたちを待ち受けているのだろう?

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芥子の花

芥子の花

  • 作者: 西條 奈加
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09/21
  • メディア: 単行本


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既成概念を破るファンタジー! 「金春屋ゴメス」西條奈加 [ミステリーを楽しみたいときに]


「金春屋ゴメス」 西條奈加 新潮社 2005年

金春屋、と書いて「こんぱるや」と読む。
第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品である。

物語は、現代の日本にできた「江戸」という閉鎖された地域を舞台としている。

これは、読んでみないとわかりにくいかもしれないが作品によれば、
当初はある実業家が始めた老人向けタウンがいつのまにか江戸そっくり再現され、
街並みだけでなくそのしきたりや、人々の暮らし、着物、食べ物、すべてが江戸時代どおり・・・
という地区にエスカレートしてしまい、最後には独立を宣言、鎖国政策をしいている、
というシステムがベースになっている。

そう、日本という国のある地区にありながら、
そこだけは異国のように、さらには時代がタイムスリップしたような2重構造になっている。

その国へは、簡単には出入りができない。
人口を調整するために、出国した分しか入国できなくなっていて、
最近では居心地がいいせいか、出国者が少なく、
入国は何度も応募して運がよければ何十回目でやっと・・・というような具合である。

そして、原則、一度出国したものは再入国でいないことになっている。

しかし、主人公辰次郎は、たった一回の応募で入国許可が下りてしまう。
しかも、どうも彼は子どもの頃、一度「江戸」にいたことがあるらしい・・・

こんな風に始まるこの物語は、
現代でありながら過去のシステムを取り入れた「江戸」が現代日本に並存し、
そこに生きている人々ももとは日本から入国してきた者が多い、
という非常にややこしいながら、よくできたパラレルワールドを舞台にしているのだ。

だから、物語は核になる部分がまるで時代劇のように擬似江戸でのなりゆきになる一方、
そこに現代日本との深いかかわりがからんでくる。

一見ややこしそうだが、慣れてくるとどっぷりとその世界につかり、
面白い!と思える上手い体裁と話はこびである。

さて、あらすじの続きだが、
「金春屋」とは美味くて評判の一膳飯屋なのだが、
主人公辰次郎がひきとられたのはその地続きの「裏金春」と呼ばれているある場所だった。
そこは・・・

・・とその先は、ぜひ皆さんご自身で読んでいただきたい。

現在の何でも便利になり、科学・化学に頼ろうとする日本と、
まさに江戸時代の知恵としきたりを踏襲する独立国「江戸」。

その違いを比較して、果たして今の便利な生活が本当によいのか、考えさせられる。

たとえば、時間の話。
江戸時代は正確な時間の区切りはなく、あくまでもおてんとう様に合わせて朝が来て、
そこから明るい時間を割り返して「○○の刻」と言っていた。
だから、季節によって、同じ時間でも夏の方が長いことになる。

しかし、その一方、時間のきまりはゆるやかで、忙しいときには働き、
何もないときにはいつまでもお昼や午後の一服の時間が続いたりもしている。
まさに、必要と体のリズムに応じた時間が流れているのだ。

それは、時間に管理されているような今の私達の生活とは全く異なる世界であり、
時間や回りのシステムに振り回されている我々としてはややうらやましい点もある。

しかし、まずは難しいことは後にして、このパラレルワールドを楽しんでみてはどうだろう。
日ごろの自分の生活を省みて、「江戸」に出国したくなるかもしれない。

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金春屋ゴメス

金春屋ゴメス

  • 作者: 西條 奈加
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 単行本


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末期医療について切り込む 「螺鈿迷宮」 海堂尊 [ミステリーを楽しみたいときに]


「螺鈿迷宮」 海堂尊 角川書店 2006年11月

前作「ナイチンゲールの沈黙」の1ヵ月後の出版である。
現在も勤務医であることを考えるとものすごいスピードだ。

今回は、残念ながら前2作に出てくるグッチーこと田口医師は表立っては登場しない。
しかし、官僚である白鳥氏が思わぬ形で登場し、さらにその部下がこれまた思わぬ姿で
問題の現場に潜入している。

海堂氏は喜劇的ともいえるオーバーな展開を借りて、実は現実的な医療問題に切り込んでいる。
今回は末期医療についてである。

もう直らない末期患者、身寄りのない長期入院患者に決してやさしくない医療制度。
もちろん病院自体もその医療制度に引きずられて結果的に患者を転院させようとすることも多い。
そうした医療現場の問題を、スピード感をもって
ハリボテにも見える奇妙な形のある架空の病院で語っていき、あばいていく。

そのことで、作者は問題提起している。
本当に問題なのは何か。
本当におかしいのはどちらなのか。

生と死の狭間で、火花が散る最後の応酬。
表向きの応えは決まっている。けれど、きれいごとで現実は語りきれない。

死を介在した見えない連鎖の中、登場人物たちがぶつかり合うこの作品展開は、
まるで舞台を見ているようである。
いままでの3作の中、一番舞台に向いているかもしれない。

できればシリーズの順番で読んでいただいたほうが、より楽しんでいただける作品である。

さて・・・今後作者はどんな舞台を用意して私たちの気持ちに切り込んでくるのか。
既に次作「ジェネラル・ルージュの凱旋」が発刊されているので楽しみである。

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螺鈿迷宮

螺鈿迷宮

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/11/30
  • メディア: 単行本


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理系出身作家が気になる 「容疑者Xの献身」 [ミステリーを楽しみたいときに]


「容疑者Xの献身」 東野圭吾 文芸春秋 2005年

理系出身の作家が最近気になる。
東野氏の電気工学科出身で、エンジニアの仕事をしながら小説を書いていたという。

この作品は、「探偵ガリレオ」でおなじみ、物理学者湯川助教授と大学時代、
その同級生で同じクラブにいた捜査一課にいる草薙刑事が登場する。

しかし、今回はいつも変わり者扱いの湯川教授の人間的な一面を垣間見ることの出来る
味わいのある作品になっている。
ただ、謎解きのヒントを草薙刑事にさりげなく示すいつものスタイルではなく、
自分から動く湯川助教授の姿に、今までになく親近感を感じるのだ。

話は推理物なので詳しくは書かないし、もう冒頭から犯人は分かっているいわゆる
「コロンボスタイル」で読み進める形になる。

ある男が指の指紋を消され、顔もわからない状態で殺されてしまった。
その元妻が最重要参考人として容疑をかけられる。
彼女は殺された元夫とは離婚していたが、離婚後も居場所を執拗に追いかけられ、
二度と会いたくないと身を隠して娘と二人、生きてきたという過去があった。
容疑をかけられるには十分な動機。
しかし、彼女には鉄壁のアリバイがあった。

一方、いつものように研究室にやってきた草薙刑事から、
湯川は自分の知っている大学時代の同級生がその容疑者の住むアパートの隣に
住んでいることを聞かされる。
湯川にとって、深い印象に残っていた彼。
湯川は自主的に彼に会いにいくことになるのだが・・・。

論理的思考が思わぬ展開を用意している。
しかし、その論理も人の心の底の底までは読みきれなかったか?

最後の最後まで楽しめる推理物だといえよう。

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容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/08/25
  • メディア: 単行本


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映画化間近 ダン・ブラウン「天使と悪魔」 [ミステリーを楽しみたいときに]


「天使と悪魔」 ダン・ブラウン 越前俊弥訳 角川文庫 2006年 
(単行本初版2003年)

「コンクラーベ」といえば、皆さん記憶にまだ新しいと思う。
2005年、前教皇ヨハネ・パウロ2世が亡くなられたときにも行われた、
バチカンにおける新教皇の互選会であり、「決まれば白い煙」が立ち上るのだが、
それまでは延々と各地から集められた枢機卿たちが互選をくりかえす、というものである。

「ダ・ヴィンチ・コード」で原作・映画によって2006年の日本でブームを起こしたダン・ブラウンは
父は数学者、母は宗教音楽家という境遇にあり、
まさに科学と宗教の狭間で育ってきた作家である。

レオナルド・ダ・ヴィンチをキーに、シオン修道会に秘められた謎と
それを守ろうとした人々の戦いに巻き込まれた、
宗教象徴学の専門家であり大学教授のロバート・ラングドンは、
今回はローマ、そしてバチカンというカトリックの総本山を舞台に
「科学と宗教」の狭間で引き起こされたテロにまたも巻き込まれる。

この「天使と悪魔」は2000年にかかれたものなのだが、
「ダ・ヴィンチ・コード」と比べ、ローマという閉じた地域の中で
大昔のある大物哲学者の遺品・・・書物の中から事件のヒントを得ていくのだ。
この展開は非常に明確であり、象徴する意味もわかりやすく、
その謎解きは読者をひきつけ、最後までつかんではなさい。

さらに、簡単に物事は終わらない。
人間の欲望、神への思い、科学への嫌悪・・・
すべてのものがなだれ込み、最後には思わぬ展開が待っている。

「ダ・ヴィンチ・コード」よりも原作としては最後まで飽きずに読みきれるし、
ローマのちょっとした観光案内にもなっているのではないかと思う。
行ったことのある方は、その場所を思い浮かべながら読まれることと思うし、
ローマに行って見たいがまだ、という方は想像しながら資料片手に読まれるのも楽しい。
ただ、相変わらず凄惨な場面は出てくるのだが・・・。

この作品も映画化が決まっているのだという。
キャスティングが見ものだが、うまく作れば「ダ・ヴィンチ・コード」よりも
スリリングでスピード感のある作品になるのではないか、と思う。
映画鑑賞の前に原作を読まれて、
カトリックの歴史とローマの遺産に触れておくことで
結果がわかっていても、より映画を楽しめるかもしれない。

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天使と悪魔 (上)

天使と悪魔 (上)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/06/08
  • メディア: 文庫


天使と悪魔 (中)

天使と悪魔 (中)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/06/08
  • メディア: 文庫


天使と悪魔 (下)

天使と悪魔 (下)

  • 作者: ダン・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/06/08
  • メディア: 文庫


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