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アースシーの道標 「ゲド戦記 外伝」 [ゲド戦記]


「ゲド戦記 外伝」 ル=グウィン作 清水真砂子訳 
岩波書店 2004年初版

この作品は、1997年から2001年に作者が発表したゲド戦記にまつわる短編を
まとめたものである。しかし、ただの付随する話ではなく、あるいはこちらにこそ
ゲド戦記を流れる真実が語られているような気もするのだ。

最初に著者のまえがきにより、ゲド戦記とのかかわりが説明され、
「カワウソ」「ダークローズとダイアモンド」「地の青」「湿原で」「トンボ」という短編のほか、
著者による「アースシー解説」が掲載されている。

著者の前書きでは、ゲド作品の流れ、なぜ4巻目を『最後の書』としたのかが説明されている。
著者いわく、「その時」が「現在(いま)」だと思ったのだ、という。

「その時」には、テハヌーの物語はまだ語るにいたらず、ゲドとテナーの物語が
「ふたりはいつまでも幸せに暮らしました」という表現に落ち着く段階だったと
思い込んでいたのだという。

今、時間軸をずらしながら読み進めてきた私達と、著者の違いがそこにあるのかもしれない。
私達は既に、「その時」を「現在(いま)」とは捉えて納得することのできない現実に
生きていたらからだ。だからこそ、4巻目が最終巻であることに違和感を覚えた。

著者は、自分としては最終巻であったつもりの4巻目出版後、
7、8年たってから関係者に声をかけられ、その時代にたって考えてみたとき、
アースシーではいろいろなことが起きていたという。
そして、それを見極めるために魔法使いやローク島について、さらに竜たちについて、
もっと自分自身が知りたくなった。

この外伝は、「帰還」(4巻目)と「アースシーの風」(5巻目)をつなぐ橋として存在する。
実際、私は読む順番が5巻目、外伝と逆になってしまったが、
それもまた良かったと今読み終わって思う。

この外伝には、古代からの魔法について、あるいは「暗黒の書」、「知恵の書」について、
そして当時の魔法使いたちの生き様が描かれている。

特に、「カワウソ」、そして「アジサシ」と呼ばれた男、そして女の魔法使いたちがかかわり
ローク島に魔法学校の基礎が作られる顛末も描かれている。
そう、おどろくべきことに、魔法使いには、実は男も女もなかったのだ。

さらに、「地の青」には、あのオジオンの若き頃の姿が描かれる。
これはゲド戦記ファンにはたまらないものとなるであろう。
オジオンの存在が、ゴントの島でどんなものとなっていったのか、これを読むとよくわかる。

そして・・・大賢人の頃のゲドも現れるのだ。

この作品で、いろいろな謎が解ける面白さは、筆舌にしがたい。
ゲド戦記の旅を最後までたどり着いたものだけに与えられる至福である。

アースシーについての著者による竜との関係、
アースシーの歴史や魔法についての考え方についても「解説」で語られ、
特にいわゆる魔法使いがなぜ男だけになってしまったのか、という点についても
詳しく書かれている。

ル=グウィンはフェミニズムにも切り込む作家であるが、その点も含めてこうして
アースシーの歴史、流れをを読んでこそ、
ゲド戦記全体がすっきりと体の中に流れ込んだような気がするのである。

それにしても、指輪物語(もう昔なのでここでは紹介してないが)、ゲド、ナルニアと旅して、
次はどこへ旅しようかと少しとまどっている私だ。

※ゲド戦記のカテゴリーを左のバーに作りました。ぜひご覧ください。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ゲド戦記外伝

ゲド戦記外伝

  • 作者: Ursula K. Le Guin, アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/05/28
  • メディア: 単行本


ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝

ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝

  • 作者: アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/05/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


ゲド戦記外伝

ゲド戦記外伝

  • 作者: アーシュラ・K. ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 単行本


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今度こそ最後?「ゲド戦記5 アースシーの風」 [ゲド戦記]


「ゲド戦記5 アースシーの風」 ル=グウィン 清水真砂子訳
岩波書店 2004年3月初版

もう終わり?と思っていたら、続編が出版されていて驚いた。
4巻目が1993年翻訳出版であり、11年後のことである。原作も同じ時を経ている。
しかも、4巻目には、「TEHANU-The Last Book Of Earthsea」となっていたのだから、
こちらもびっくりである。

しかし、ゲド4の読後感想(http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2006-02-06)でも
書いたように、なんだか尻切れとんぼというか、何か大切なものが足りないような気持ちがあった。
「これで終わってもいいのか?」という疑問。
ここまで掘り下げておいて、その穴においていかれたような失望感。
そんな気持ちがなかったとは否定できない。

この5巻目(これこそ、外伝を除いては最後だと思うが)を読んで、
その心につかえたものが、かなり溶けていくのを感じた。
また、竜と人との関係と約束、そしてその約束に関する人の住む地域(人種とでも言おうか)
による解釈の違い・・・。
現在にも通じる様々な問題が明らかになる。

さらに、4巻目で息を引き取る直前にオジオン(ゲドの最初の師匠)が言った、
「何もかも変わった。変わったんだ。」という言葉の意味も、ここに生きてくる。

何が、変わったのか。
そう、アースシーの世界で何もかもが変わろうとしていた。
登場人物たちはその変化にどう対応するのか?変化を食い止めようとするのか?
中心になる登場人物たちは、悩みや傷を抱えつつ、それぞれの力と勇気を振り絞って
その変化に立ち向かおうとする。

それは、まるで今の世界の私達のようではないだろうか?

さらに読後の率直な感想として思ったことは、「人間は他の生き物と比べて、ちっとも優れてなんかいないんだ」ということであった。
かえって、欲を持ち、分を知らず、限られた生にしがみついている。
そのことが、この5巻目で浮き彫りにされたと思う。

それは当たり前だ、という声もあるだろう。
しかし、ファンタジーとはいえ、これだけ人間とは何なのかということを考えさせられたシリーズは
そう無かったと思う。
人間を、人間界の中でだけ考えるのではなく、他の生き物、太古の力等々、
もっと大きなくくりの中で考えられること。
そのことによって、より人間の本質が見抜けるということ。
それが良質のファンタジーの醍醐味なのだと思う。

ちなみに、この最後の巻の原題は「The Other Wind」である。
さて、この新たな風は誰に吹くのだろうか。
ぜひ、ご自分で確かめていただきたい。

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アースシーの風  ゲド戦記5

アースシーの風 ゲド戦記5

  • 作者: Ursula K. Le Guin, アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/03/17
  • メディア: 単行本


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戦いはかたちを変えて 「ゲド戦記最後の書 帰還」 [ゲド戦記]


「ゲド戦記最後の書 帰還」
ル=グウィン作 清水真砂子訳 1993年3月初版 岩波書店

とうとうゲド戦記、まさに最後の一冊である。
ただ、私はやや戸惑った。

今回は、ひどい仕打ちを受け、大やけどをした少女を育てている、ある女性を主役として
物語が進む。この女性こそ、ゲド戦記Ⅱで名前をとりあげられ、闇の世界に生きていた
あの少女なのである。ゲドと共に平和をもたらす腕輪を見つけ出したあの少女である。
少女のその後は、確かにⅢには描かれていなかった。

その長い間に、少女はゴントの農家の嫁となり、子を産み育て、
その頃の多くの女性と同じ人生を歩んでいた。

その女性のもとに、ゴントの大魔法使いオジオンから使者がやってきて、物語は回り始める。

ゲドの行方、オジオンの言葉、やけどを負った少女の存在、そして、女性の葛藤。
最後の書では、今までの冒険や戦いとは違う、現実社会での戦いや駆け引き、
そして女性の生き方、魔法の力の本質が問われていく。

私の戸惑いとは、作者が最後に何を残したかったのか、ということだ。
魔法は力、そして力は男を象徴する。女はその力を持たない代わりに、地に根を張って
命と言葉を伝えていく。何度かそのような表現が繰り返される。

フェミニズムに関しても詳しい著者のこと、最後は女性の本来持っている力について
語りたかったのだろうか。さらに、男も女もなく、同じ人間なのだ、ということを。
ただ、それは私の個人的な感想でしかない。

この作品はやや大人向けの表現がある。いくつくらいからならそれを受け止められるのかは
個人差があると思うが、もし小学生高学年のお子さんにお薦めになる場合は、
保護者の方が読まれて判断されてからの方がいいのでは、と思う。
これも個人的な考え方で、小学生でも軽々とクリアしていく子供もいるのかもしれない。

最後に、この作品の原題は「テハヌー」という、やけどを負った少女の「本当の名前」であり、
ゴント島から美しく見える白い星の名前でもあったことをお伝えして読了報告としたい

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帰還―ゲド戦記最後の書

帰還―ゲド戦記最後の書

  • 作者: アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 単行本


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これは誰のために書かれたのか?「ゲド戦記Ⅲ さいはての島へ」 [ゲド戦記]


「ゲド戦記Ⅲ さいはての島へ」
ル=グウィン 清水真砂子訳 1976年12月初版 岩波書店

ゲド戦記Ⅰでは、まだ幼い少年だったゲドがおそろしい誘惑と恐怖に打ち勝って
成長していく物語が語られた。

この「さいはての島へ」では、ゲドはすでに十分年をとり、老成した者として
アースシーの北にある国からやってきた王子と共に、世界の魔法が弱まってきた理由を求めて
旅を始める。

この本を読んでいくと、魔法というのは私達の手の届かないものではなく、
人間も持っている、本当の賢さなのではないかと思われてくる。
その賢さを人々は、人間にとって最も恐ろしいことから逃れるために手放していく。
世界に、恐ろしい暗い「穴」が開いているのだ。

この物語は誰のために書かれたのだろうか、と私は再び思う。
まさに、今の日本、そして世界の姿をなぞらえているのではないか?と。

私はゲドのように落ち着いては居られないかもしれない。
しかし、人間にとって避けられない運命、そしてそれを受け入れた上で
できる限りの力を尽くすということ、それが今世界の倫理として求められているのだろうか。

ゲドは決して無理はしない。さらに、危ういと知りながら、若者に任せるところは任せ、
いざというときには自らが盾になる。

学ぶところの多い、重みのある作品であった。

<参考>ジブリの次回作品は、この作品を基にして製作されることになったそうです。
詳細は下記をご覧ください。
http://www.ghibli.jp/top.html

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さいはての島へ―ゲド戦記 3

さいはての島へ―ゲド戦記 3

  • 作者: アーシュラ・K. ル・グウィン, 清水 真砂子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1977/01
  • メディア: 単行本


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少女の目から見た影と光 「ゲド戦記Ⅱこわれた腕輪」 [ゲド戦記]


「ゲド戦記Ⅱ こわれた腕輪」
ル=グウィン 清水真砂子訳 1976年12月初版 岩波書店

この作品を読み始めたとき、あれ、1作目の話とはどう続くのだろう、と思った。
ある少女が登場し、その少女の名は奪われる。
そして、その少女は何者かに「喰らわれて」しまう・・・という展開。

この作品では、1作目からしばらく後のアースシーの世界が一人の特別な少女の目から
見た状況としてつむがれていく物語となっている。黒装束、墓所、暗闇・・・。
このあたりから、1作目との関連が読者にはだんだんと予測されてくるだろう。
この少女の心の動きが見事に、丁寧な筆致で表現されている。

この物語は最後にまるで割れた皿が一枚に戻るように1作目から続く流れが
読者にもわかるように構成されている。
さらに、1作目で語られた「本当の名前」の大切さ、「本当に自由であることの重さ」が
少女を通して私達に実感として伝わってくる。

「本当の名前」=ものの本質をしっかりともち続けることの大切さ、
そして自由であるということは実は重荷を背負って生きていくということであるということを、
改めてかみしめて最後の扉を閉じた。

さて、3作目はどのように展開していくのだろう?

まだ若く幼い人たちには、わくわくする冒険の物語として、
少し経験を重ねた方たちにとっては真実あるいは自分の生き方を考える作品となるかもしれない。

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こわれた腕環―ゲド戦記 2

こわれた腕環―ゲド戦記 2

  • 作者: アーシュラ・K. ル・グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 単行本


ゲド戦記 (2)

ゲド戦記 (2)

  • 作者: 清水 真砂子, Ursula K. Le Guin, アーシュラ・K. ル・グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


ゲド戦記全6冊セット

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  • 作者: Ursula K. Le Guin, アーシュラ・K・ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/05/28
  • メディア: 単行本


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倫理と生き方とは?「ゲド戦記Ⅰ影との戦い」  [ゲド戦記]


「ゲド戦記Ⅰ影との戦い」 ル・グウィン 清水真砂子訳 
岩波書店 1976年翻訳(写真は「物語コレクション1999年発行)

この作品は、アースシーといういくつもの島々からなる世界の小さな小島に生まれた少年が、
魔法使いとして成長し、最初の大きな試練を乗り越えるまでの物語である。

少年の名前は、少年期はダニーといわれ、その後ハイタカと呼ばれるようになる。
名付け親と自分、そして、本当に信頼する人にしか告げてはいけない「本当の名前」が「ゲド」だ。

この物語の世界では、「ものの本当の名前」というものが大変重要な意味を持つ。
「本当の名前」とは、そのものの本質であり、それを知ることは魔法使いが力を活かすために
不可欠なことなのだ。
ただ、ゲドを正しく導こうとする指導者たちは、その力が世界の均衡を崩す恐ろしい力をも
持っていることをゲドに何度となく伝えようとする。
さらに、「聞こうとするならば黙っていなければ」と学ぶ姿勢の大切さ、観察することの重要さを
教えようとする。

しかし、簡単にそれを受け入れられず、自分の力を試そうとするのが少年だ。
その秘めている力が強ければ強いほどその誘惑に打ち勝つことは難しいだろう。
大きな力に伴う正と邪、その邪の恐ろしさにゲドはまだ気が付かなかった。
指導者達の声に耳を傾けていなかったのである。

ゲドは自分の力の強さのあまり、様々な策略により、自ら闇の世界から「影」を呼び出してしまう。
それによって受けた心身の傷の大きさ、失ったものの大きさ、常に付きまとう不安に
ゲドはさいなまれる。
しかし、その「影」と向き合い、戦うのは自分自身でしかできないことだった。

この「影」とはどんな存在なのか。影とゲドとの戦いは、私達の日々の戦いに他ならない。
少年・少女たちだけではなく、大人の私達にもその生き方を問う内容になっている。

この作品は全4巻である。今後のゲドの成長とともに、物語とその中にある真実を読み解いていきたい。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

影との戦い―ゲド戦記 1

影との戦い―ゲド戦記 1

  • 作者: アーシュラ・K. ル・グウィン, 清水 真砂子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000
  • メディア: 単行本


影との戦い―ゲド戦記

影との戦い―ゲド戦記

  • 作者: アーシュラ・K. ル・グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1992/03
  • メディア: 新書


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