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ホラー苦手な方はご注意を「禁断のパンダ」 拓未司 [ミステリーを楽しみたいときに]

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「禁断のパンダ」 拓未司 宝島社 2008年

第6回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
著者は1973年生まれ、調理師学校を卒業後、飲食業に従事、
現在はアルバイトとのことである。(奥付より)


本作は、小さいけれど、人気のビストロをきりもりする若きシェフと身重の妻が
ある結婚式をきっかけにおどろしい事件に巻き込まれていくサスペンス。

・・・とはいいながら、多くの選者が評しているように、その大半は
主人公のシェフと、神戸一といわれるレストランで出される料理の味の
すばらしさ、そしてワインとの取り合わせ・・・など、グルメ表現の
豊かさで展開していく。

そんな中、主人公の妻の昔の友人が結婚式をあげることになり、
少々訳有のその式に夫婦で出席したときから、二人は知らず知らずに
身の毛もよだつような罪を犯すものたちに目をつけられていくのだ。

読後感としては、あまりいいものではない。
途中、グルメ的な展開部分は確かに楽しめるものだが、
想像していた以上にホラーな部分があり、最後はホラーに弱い私としては
うーん、と皆さんに薦めることをためらう部分もある。

しかし、タイトルにかかわる部分に関しては、著者の目のつけどころに
今後の期待感はあり、この部分をもっと深く掘り下げるべきだし、
あまり猟奇的な、あるいはオカルト的なものを追求するにはまだ
ひねりが足りない気もする。

次作、どうでるか、というところを見守りたいところである。

ちなみに、妊婦の方、ホラーや過激な表現をお望みでない方は
避けたほうが無難である。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

禁断のパンダ

禁断のパンダ

  • 作者: 拓未 司
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2008/01/11
  • メディア: ハードカバー



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さあ、旅立とう!「つばさよつばさ」 浅田次郎 [エッセイやマンガでリラックスしたいときに]

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「つばさよつばさ」 浅田次郎 小学館 2007年

この旅のエッセイ集は、JALの機内誌に連載されていたものを
加筆・修正したものである。

たまに飛行機に乗ると、この作品と機長のコラムはいつもなんとなく
眺めていたが、読み流していたのか「これは記憶にある」という作品は
なぜか無かった。

本人が「旅先作家」と述べているように、海外を書くにしても、
旅先で書きたい、と思っても、海外でなにやら講演やらイベントに
出演するにしても、この人はささっとエッセイに書き上げるらしい。
家で「うーむ」と頭をひねるよりも旅に向かう機内のほうが
筆も読書も進むタイプらしい。

海外に出かけるとき、もちろん一般人とは違ってゆったりした席に
座っているのだろうから、書き物も読書もゆるりとできるのだろう、と
思ってしまうのはうらやみ意外のなにものでもないけれど。

旅先の食事について、旅先でのアクシデント、世界各地の習慣の違い、
そして海外で見る日本人の姿について。
様々な光景を切り取った短編が並べられている。
ははは、と笑って流せるものもあれば、むむむ、と考えさせられる
ものもある。
そして、時にほろっとするものも。

こういう本は、旅に行くときに読むというよりは、
旅に出たいけれど出られない時にこそ、眠る前に少しずつ読むのがいいかもしれない。
今度はどこに行こうか、としばし翼を広げて考えることは
誰にも与えられた自由である。

気軽に読める作品なので、肩の凝らないエッセイを探している方、
ぜひ手にとってみてはどうだろうか。

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つばさよつばさ

つばさよつばさ

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/09/27
  • メディア: 単行本



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現代社会での成熟とは「思春期ポストモダン 成熟はいかにして可能か」斎藤環 [人生や物事について考えたいときに]

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「思春期ポストモダン 成熟はいかにして可能か」 斎藤環 幻冬舎新書 2007年

著者は思春期・青年期の精神病理学等を専門とする臨床医でもある。
そんなところから、よく引きこもりについて紙面やTVで名前を見かける方も
多いだろう。

その斎藤氏が今回この作品で書いたのは、引きこもりや不登校、ニートと
いわれる若者(・・・といってもその年齢は徐々に上がってきているのだが)
についての個々の問題だけでなく、もっと大きな社会現象だ。

そう、現代社会が、日本が成熟すればするほど、人間が成熟しがたくなる、
という事実である。

そういわれれば、いろんなことに納得がいく。
なぜ、モラトリアム期間がどんどん延びていくのか、
なぜ、大人もすぐにキレるのか。

作家は言う。「いわゆる『若者論』は典型的な『ニセの問題』だ」と。
さらに、「かんじんの次世代を育てるのは、当のどうしようもない
『現代の若者たち』ではないのか?」とも。

確かにそうだ。
いつの時代にも「イマドキの若者」とか、「若者の乱れ」ということは
いわれてきた。
著者に言われてみれば、いつも若者という期間の間には
そういう「大人」には理解できない、としてしまう動きや問題、時に犯罪が起きる。
それは今に始まったことではない。

そう考えていくと、最初の著者のテーマ、
「成熟はいかにして可能か」というところに戻っていくのである。
成熟した人間を大人というのなら、成熟するとはどういうことか。
そしてそれは今の時代に果たしてどのように可能なのか。

思うに、それはとても難しいことだ。
一人の人間の中にも、成熟した部分とそうでない部分もある。
そして、その成熟していない部分がダメなのか、といえば、
そう言い切れるのか。
私にはわからない。

作者がカテゴライズするように、ネット社会が浮き彫りにした
「自分探し系」と「引きこもり系」という二つの若者像は、若者だけでなく
あるいは大人といわれる年齢にも当てはまるのかもしれない。

そう考えると、引きこもることが必ずしも根本的にだとは言い切れなくなる。
また、自分探しをすることが、必ずしも結果的に成熟へのルートだとも言い切れない。

大人とは、成熟とは。

大人、といわれる世代こそがそこをしっかり見つめ、考えていかなければ
若者が道にとまどうのもしかたがないのだろう、とため息をつく。

それでいい、ということではない。
みんなでどうしたらこの社会環境で心地良く譲り合って気分よく生きていけるか。
それを率先して考えるのが、大人の役目ではないだろうか。

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思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か (幻冬舎新書 さ 4-1)

思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か (幻冬舎新書 さ 4-1)

  • 作者: 斎藤 環
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 新書



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いつか朝はやってくる「その後のツレがうつになりまして。」細川貂々 [落ち込んだときに]

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「その後のツレがうつになりまして。」 細川貂々 幻冬舎 2007年

前作「ツレがうつになりまして。」が話題になってその後、
「どうしているんだろう?」と思っていた頃にちゃんと報告があった。

前作がツレの症状と貂々さんのとまどいを中心に、
「うつとはどんなことか、うつと付き合って生きていくということは?」
という部分について描かれていたのに対し、今回はそのうつを抱えながら
ツレがどのように生き方を変えていったか、に重きがおかれている。

うつは、そう簡単に完治するものでもないし、だからといって
いつまでも人を縛るものではない・・・のかもしれない。

しかし、この本を読んでいると、もともとはやはり賢かったツレさんが
いつ再発するかわからないうつからひとつ階段を上がるように自分を変えることで
距離をおきながら、無理なく新しい自分らしさを構築し始めていることがわかる。

これはきっと、うつで苦しむ人とその家族には希望になるかもしれない。

みんな、うつになる可能性をはらんでいる。

そして、それは一度なったら浮かび上がることのできない
足のつかない海で立ち泳ぎするような苦しさばかりがクローズアップされるが、
このツレさんのように、苦しみながらももっと楽な生き方へと自分をシフトさせること、
苦しまないでも自分が生きていることを一日一日実感していけると
いう気持ちをつかむまでを、貂々さんの視点から、そして
今回はツレさん自身のコラムから受け取ることができる。

きっと、いろんなことに悩み、「もうだめかも」と追い詰められている人も、
この本を読むことで何か糸口が見つかるような、
かなり実践的な一つの例である。

そして、何より、うつの夫によりそった貂々さんの変化や感じたことも
貴重な体験である。

自分がうつになった(あるいはそうかも・・・?と思った)方はもちろん、
家族の中に「もしかして・・・」という人がいて、
心配している方がいたならば、一読してみてはどうだろうか。

イラストも非常に「うつ」の一つの特徴をよく表していると思う。

人は、社会や家庭で生きるにあたって、一つしか役割がないわけではなく、
いろんな選択や、その時々の過ごし方、役割があるのが普通であり、
変わっていくことはわるいことでも、おかしなことでもない。
そんなことを実感させられる続編であった。

ちなみに、「ツレうつ」と「その後」の間に「イグアナの嫁」があるのだが、
こちらはまだツレのうつが発覚する前にイグアナのイグちゃんを飼い始め、
その成長やイグちゃんの生態などを中心に書かれているのだが、
それに沿って作者の「マイナス思考クイーン」ぶりや、ツレがうつになるまでの
過程やその頃のツレの回顧録が書かれている。

マイナス思考クイーンぶりがこれまた物凄いものがあり、こちらもつられて
おちこみそうになる。しかし、クイーンはそういう状態になると寝てしまうし、
だらだらして多分底まで落ち込まずにすんできたのだろう。
そして、ツレがうつになる。

もちろん、そのことについての作者の悔恨、ツレの気持ちも書かれていて、
ある意味「ツレうつ」や「その後」より生々しく辛い。

よって、時系列なり、なにかのタイミングで「イグアナの嫁」を読む場合、
かならず後に「その後のツレがうつになりまして」で明るい光を用意してから
読んだほうが精神衛生的にはいいのだろうか・・・と個人的には思うのである。

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その後のツレがうつになりまして。

その後のツレがうつになりまして。

  • 作者: 細川 貂々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本





イグアナの嫁

イグアナの嫁

  • 作者: 細川 貂々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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中学生が急に医大生になる?「医学のたまご」 海堂尊 [ミステリーを楽しみたいときに]

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「医学のたまご」 海堂尊 理論社 2008年

「チーム・バチスタの栄光」(2006・1)
「ナイチンゲールの沈黙」(2006・10)
「螺鈿迷宮」(2006・11)
「ジェネラル・ルージュの凱旋」(2007・4)
「ブラックペアン1988」(2007・9)
「ジーン・ワルツ」(2008・3)
・・・と多作の海堂氏である。

しかも、病理学者という職を持ちながらの執筆はさらに続き、
「死因不明社会」のような現職からの訴えも
(主にAi=オートプシー・イメージング・死亡時画像病理診断)
著作していて話題になっている。

そんな中、「日経メディカル」に2007年2月から1年間連載されていた小説が
単行本化されたのがこの「医学のたまご」である。
ヨシタケシンスケ氏のとぼけたイラストもあって、なんだか気楽に手に取れる
一冊なのだが、内容はなかなかのハード・ボイルドだ。
ただし、主人公は中学1年生なのだけれど・・・。

あるとき、実力ではなく「ある理由」から
文科省の行ったテストで全国一位になってしまった中学生がいた。
しかもその中学生は「あの」桜宮市立中学に通っていた。
そう、あの一連の作品の舞台となった東城大学付属医大のある桜宮である。
そして、彼は中学2年生の春から、なんと中学生でありながら、
医学部で研究をするはめになってしまうのだった。

そのドタバタの中で、医学部研究室や研究発表の内情、権力闘争、
友情、若者なりの仁義の切り方などなど、どう話が展開していくのか
最後ははらはら。

そんな笑ってしまうようなありえない設定とドタバタの中に、
人としての生き方とか、譲れないもの、医学とは何なのかということを
ふと考えさせられる場面が横切る。

そして、海堂ファンにたまらないのは、舞台が数年後の東城大学医学部なので
早々たるメンバーが時に立場を変えて登場するのである。
それは読んでみてのお楽しみだ。

どうもこの作品には続編の可能性もあるらしい。
それもまた、多作の作者ゆえの楽しみである。

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医学のたまご (ミステリーYA!) (ミステリーYA!)

医学のたまご (ミステリーYA!) (ミステリーYA!)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 2008/01/17
  • メディア: 単行本



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本との付き合い方が変わるかも?「図書館が教えてくれた発想法」 高田高史 [肩の力を抜いて読書したいときに]

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「図書館が教えてくれた発想法」 高田高史 柏書房 2007年

いつもお世話になっている図書館だが、タイトルだけを図書館蔵書のHPで見て
「どんな本なんだろう?」と思っていた。
実際手にしてみると、タイトルと簡単な本の紹介だけで考えていたハウ・ツーもののイメージはなく、
もっとぐいぐいと読者を引っ張っていく面白さのある本だった。

タイトルにあるように、「図書館を使った発想法」あるいは「図書館の資料を使った
発想法」というようなものを私たちにソフトに教えてくれる内容なのだが、
まったく堅苦しいところがない。

初めてアルバイトとして図書館を内側から見ることになった「彩乃ちゃん」に、
その指導係のような存在である中堅の司書「伊予さん」が図書館ワールドについて
仕事の合間に少し時間を取ってレクチャーしていくような体裁で話は進んでいく。

図書館ってどんな風に本が並んでいるの?ということから、
何か調べたいことがあるときにどんな風に探していけばいいの?とつながり、
最後はいわゆるレファレンス、図書館の質問・調査に関することや解決方法について・・・
と階段を上がるように読み進めていける。

図書館に行っても好きな小説や同じコーナーばかり見ていたのでは
宝の持ち腐れになってしまう、もっといろんなコーナーに足を運ぼう、という気になる。
更に、何か調べることがあったとき、ネットにばかり頼るのではなく、
もっと深く、確実な情報を得るために図書館を活用しない手はないな、という
考えも浮かんでくる。

また、図書館と限らず、物を考えたり、調べたりすることの筋道やシステムとして、
こういう方法があるのか!と感心する点も多々ある。

かなり読みやすい内容になっているし、イラストも楽しい。
また、架空の図書館である「市立あかね図書館」の面々もいかにも居そうな
図書館職員たちだし、主人公の小さな秘密も最後にはわかる、という
物語性もこの作品のいい味付けになっている。

著者は県立図書館の職員であり、そのあたりにも具体的な事例が用いられている
ヒントがあるのだろう。

図書館に興味のある方、調べ物に苦労している方(お子さんの宿題の手伝いを含め)、
司書に興味のある若い方、そして本を愛する方、だれが読んでも得るものがあり、
楽しめる内容である。

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図書館が教えてくれた発想法

図書館が教えてくれた発想法

  • 作者: 高田 高史
  • 出版社/メーカー: 柏書房
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 単行本



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人生の節目で織り成される物語 「冠・婚・葬・祭」中島京子 [人生や物事について考えたいときに]

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「冠・婚・葬・祭」 中島京子 筑摩書房 2007年

冠婚葬祭、つまり元服にあたる成人式、婚礼、葬儀、祖先の祭祀としてお盆の行事を
それぞれの物語の鍵とした、4つの短編から成り立っている。

ひねっているものあり、比較的わかりやすいものあり、
不思議な物語あり。
短編であり、短く読みやすいながら、
奥深く、後々まであれはどういう意味だったんだろう、と考えてしまう作品が多い。

そういう意味であっさりとした体裁ながらも、いろいろなことに
想像を馳せることのできる面白みの豊かな短編集である。

特に、「婚」にあたるお見合いの世話をしてきた女性を通して、
縁というもの、結婚へのきっかけを考えさせられる『この方と、この方』は
視点がいくつかあって、楽しく読むことができた。

全体的にとぼけた面白みと、断言や限定的な描き方をあえて避けたような
ぼんやりした描写が、かえって読者の想像力を書きたてるのかもしれない。

冠婚葬祭、と普段何気なく使っている言葉の深い意味を
読者それぞれの生活にひきつけて考えるきっかけになるに違いない。

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冠・婚・葬・祭

冠・婚・葬・祭

  • 作者: 中島 京子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



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豪華作家の共演を楽しもう!「小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所」大沢在昌ほか [肩の力を抜いて読書したいときに]

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「小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所」
 大沢在昌、石田衣良、今野敏、柴田よしき、京極夏彦、逢坂剛、東野圭吾
 秋本治原作 日本推理作家協会監修 集英社 2007年

おなじみ、漫画「こち亀」をベースにした
日本推理協会メンバーの精鋭による短編集である。

普段からなじみの作家が多いのだが、
まさか新宿鮫こと鮫島警部と両さんの共演?が実現するとは思わなかった。

トップバッターの大沢氏のたくみな絡みからして引き込まれ、
今をときめく石田衣良も惜しみなく「池袋ウエストゲートパーク」のマコトを登場させ、
妙な格好の両さんと協力して・・・などとこれはもう
ミステリー&コミックファンにはたまらない。

さらに、それぞれの作家が「こち亀」ワールドというハチャメチャの
楽しい世界に得意技を駆使して、新たな味付けをしていく。

そして、逢坂剛のこれでもか!という警察ドタバタコメディの後、
トリはまさに、今旬の東野圭吾がヒットを飛ばしながら
なかなか賞がとれなかった自分の思いを笑いに変えて、
乱歩賞に両さんがトライする、という奇想天外なストーリーを展開、
スッキリと締めている。

あとがきで大沢氏が推理小説という分野で「こち亀」の世界を描く、という
制約を与えられた「お遊び」だからこそ、作者は真剣だ、と述べている。

さらに、その作品がミステリー作家仲間と並べられるわけだから、
これは手を抜くわけにはいかないのだろう。

この企画は、「こち亀」の少年ジャンプ掲載30周年、
日本推理作家協会設立60周年を記念してのものである。
さらに、初出は創刊40周年という週間プレイボーイに
2006年秋から連載されたものを加筆・修正してまとめた短編集である。

この大人の遊び心に満ちた世界で、ぜひ日頃のストレスを発散したいものである。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

小説こちら葛飾区亀有公園前派出所

小説こちら葛飾区亀有公園前派出所

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/05/24
  • メディア: 単行本



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石井桃子さんご逝去を悼む

今朝、NHKのニュースで、
石井桃子さんのご逝去を知った。

去年は朝日賞を受賞され、今年は101歳になられていた。
児童文学界の大おかあさんのような、大きな存在だったように思う。

心から哀悼の意を表したい。

ご存知のように、石井さんは
「クマのプーさん」シリーズ(A.A.ミルン 岩波書店)
「うさこちゃん」シリーズ(ディック・ブルーナ 福音館書店)
などの翻訳者、そして日本への紹介者として有名である。

そのほか、ご自分の作品
「ノンちゃん雲に乗る」(福音館書店 現在は他出版社からも発行)によっても
多くの子供たちにいろんなことを伝えてきた。

さらに、家庭文庫のはしりとして、
東京子ども図書館を松岡享子さんとともに立ち上げ、
今でも多くの子供たちが楽しい良書と出会う場となっていると
やはりテレビで報じられたばかりであった。

私自身、「クマのプーさん」や「ノンちゃん雲に乗る」は
夢や楽しい世界、そして子供なりに考える場として、
今でも心の中の秘密の部屋に
大切な宝物として残されている。

そして、個人的には最も絵本の中で好きだった
バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」(岩波書店)も翻訳者は石井さんだった。

今、とても淋しい思いで春の空を見ている。




ちいさなうさこちゃん (子どもがはじめてであう絵本)

ちいさなうさこちゃん (子どもがはじめてであう絵本)

  • 作者: ディック ブルーナ
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2000
  • メディア: -



クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))

  • 作者: A.A.ミルン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ノンちゃん雲に乗る (福音館創作童話シリーズ)

ノンちゃん雲に乗る (福音館創作童話シリーズ)

  • 作者: 中川 宗弥
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 1967/01
  • メディア: 単行本



ノンちゃん雲に乗る

ノンちゃん雲に乗る

  • 作者: 石井 桃子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/12/02
  • メディア: 単行本



ちいさいおうち

ちいさいおうち

  • 作者: ばーじにあ・りー・ばーとん
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1965/12
  • メディア: -



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これからの日本経済を思う 「バイアウト」幸田真音 [人生や物事について考えたいときに]


「バイアウト-企業買収」 幸田真音 文藝春秋 2007年

元米国系銀行や証券会社で債券ディーラーなどを経験してきた著者ならではの
リアリティに満ちた企業買収劇である。

あるファンドが目をつけた音楽事務所の銘柄。
そのファンドのリーダーと共に大きな仕事をしたいと狙っていた証券会社に
勤める女性。
彼女には、その音楽事務所に買収・・いや、買収に名を借りた復讐ともいえる
報復をしたい理由があった・・・。

                     *****

様々な業種でのTOB、そしてファンドという組織について、
いまや日本でも非常に身近な言葉となった。
株を介してのマネー・ゲームともいうべきものがどういう結果を引き起こすのか、
といういくつかの実例も近い過去に見てきた。

私が初めてM&Aのなんたるかを知ったのは、
映画「ワーキング・ガール」を劇場で見たときだった。
学歴がないために上司に企画を利用され、チャンスを失いそうになる
若い向学心のある女性が、大きなM&Aを成功させるサクセス・ストーリーだ。
もうはるか昔の話になるが、あの時でもちゃんとそのしくみを
理解していたとはいえなかったかもしれない。



その頃から長い時を経て、日本でもM&A、TOBという言葉が
普通の生活をしている我々にも具体的にイメージが湧く経済状況となった。

そうした状況を背景に、この作品は
「会社、そしてその会社の使命・財産はなんのために、誰のためにあるのか」ということを
最後に私たちに宿題として残すこととなる。

それは、読み進める最中には気がつかないほどの静かな複線としてしくまれている。

一件、このところ日本でも良くも悪くも定番となった投資・株式売買等マネー・ゲームが
受ける会社、仕掛ける会社、そしてその間で立ち回ろうとする仲介者たちによって
どのように繰り広げられるのか、という経済サスペンスのようにも思えるこの作品。

しかし、最後にきっと読者の多くがたどりつくものは、
マネー・ゲームとは違う、何か人間的な、もっと基本的なもののような気がする。

この企業買収に関わる人々の顛末や、人生、そして最後の腹のくくり方。
すべて、経済のあり方、社会のしくみ、会社という組織・・・と様々な存在を
私たちに考えさせるものがある。

それは、私たちにこれからの日本経済のあり方を問いかけているようにも感じるのだ。

最初はやや登場人物の多さや専門的な動きにとまどうこともあるかもしれない。
しかし、それにトライするだけのゴールをこの作品はちゃんと用意してくれている。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

バイアウト―企業買収

バイアウト―企業買収

  • 作者: 幸田 真音
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本


ワーキング・ガール

ワーキング・ガール

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2008/01/18
  • メディア: DVD


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