またも加納マジック見たり 「ささら さや」 加納朋子 [ミステリーを楽しみたいときに]
「ささら さや」 加納朋子著 幻冬社文庫 2004年
一人目の男の子が生まれたばかりの3人家族。
ささやかな幸せは本当に短く、突然幕を下ろすことになる。
この作品の主人公、さやは、生まれたばかりの赤ん坊を抱いたまま、
目の前で夫を失い、ただ、立ち尽くすしかなかった。
一方、夫の姉夫婦が子どもがなかったことから、
その赤ん坊を養子にしたいという夫の実家からの強硬なまでの申し出に、
さやは恐怖を感じて昔伯母が残してくれた地方の一軒家に逃げるように移り住む。
「ささら」という静かな地方都市へ、まるで逃げるように・・・。
この頼りない主人公さやは、いつのまにか多くのささらの人々に支えられ、
いくつかの小さな事件に巻き込まれながらもおっとりと、でもしっかりと赤ん坊を育てていく。
しかし、その日常に起こる「本当に困ったとき」には、
ある秘密の助っ人が必ず現れるのをさやは知っていた・・・。
主人公は、ある意味ではとても強い人間なのかもしれない。
そして、人を信じ、人を巻き込むという大きな力を持っている。
しかし、そのことはもちろん本人は気づいていないことであって、
自分自身はとても頼りない存在だと思い込んでいる。
この作品はいくつかの小さな出来事からなる短編から成るのだが、
だんだんと主人公が強くなっていく姿が見えてくる。
一方、近くにいる一見迷惑そうに見える近所のひとたちにもいろいろな事情があり、
いろいろな人生があり、そして疑うことなく信じる主人公によって、
いつのまにかほんわかしたコミュニティがそこにできていくのである。
まさに、これは加納マジックの骨頂とともいうべき「ほんわかとした中にある悪意」であり、
「悪意の中にあるやさしさと真実」でもあるのだろう。
ちなみに、この「ささら」でその後起こる出来事が、以前紹介した「てるてるあした」
(http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2006-09-23)である。
ぜひ続けて手に取ってみて欲しい。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
私もてるてるあしたを先に呼んだのですがささらはまだ読んでいません。読んでみたいとおもってはいるのですが。
ニライカナイ店主さんの読後感をみてやはりよんでみたいとおもいました。
つい最近同じ作者の夢飛行を読みました。
by トム (2007-01-22 21:08)
ホシさんへ>
ナイス&ご来店毎度ありがとうございます。私も先に「てるてる・・・」を
読んでしまったのですが、その順番で或る意味でオーライだったと
思います。「てるてる・・」を読んでいれば、さらに味わい深く、両方の本が
共鳴すると思いますよ。最近読まれたのはもしや「魔法飛行」?
これもよかったですね。本当に加納朋子、まだまだ楽しみです。
最近書かれた「モノレール猫」も期待されます。「コッペリア」は実は読んで
記事も用意してあるのですが、ちょっと毒もあるのでこの店に置くか
悩んでいます。
by ニライカナイ店主 (2007-01-29 07:47)