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まずはデビュー作から 「六番目の小夜子」 恩田陸 [ミステリーを楽しみたいときに]


「六番目の小夜子」
恩田 陸 1998年8月初版 2002年2月文庫初版 新潮社

実は、初めてきちんと読む恩田作品である。
いつもの「みんなが読んでいるものは私が読まなくてもいいか」病で、様子を遠巻きに見ていた
作家である。
村上春樹氏や宮部みゆき氏のように、ほとんどデビューと同時に読み始め、読み続けている
作家達と違い、乗り遅れるとなかなか近寄れない臆病なところが私にはある。
ただ、だいたいの作品はハードカバーで出されると気になって立ち読みをしていた。

読むならスタート地点に立ち戻って、とこの本を選んだ。

端的に言えば、一気に読ませる力がこの作品にあった。
ただ、この作品をホラーとして読むか、高校生の青春群像ものとして読むか、
あるいはミステリーとして読むかによって、かなり私の思いもかなり違う。

まず、最もすぐれていると評価するなら、「青春群像もの」として、である。
高校3年生という特別な時期にあって、魅力的な転校生が現れ、さらに受験、学園祭、友情、
淡い恋などが描かれる。この面では、かなり引き込まれたな、と感じる。登場人物一人ひとりが
非常に個性的で、目に見えるようにうまく描かれている。
特に、主人公の一人である秋は魅力的な人物だ。こういう青年がいたら、やはりもてるのだろう、
と想像がつく。

次に評価できるのは、ホラーとして。
こうした面から見れば、いくつかある疑問点、つじつまの合わない点もこだわらないで済む。
逆に、はっきりわからないことがその怖さを更に演出している場面もある。

最後に、もし、ミステリーとして読むなら。
この点に関しては、やや疑問が残る。先生、沙世子の父、秋の父。いろいろあやしい人物は
多いが、煙に巻かれてしまう。さらに、何故学校に火までつけなければならないか、そのあたりも
疑問が残る。

更に。これは私がマヌケなだけかもしれないが・・・。
プロローグから入るこの物語だが、私は「鍵をわたすだけのサヨコ」がいることがはっきりとわかる
まで、数字が合わないので悩みつつ読み進んでいた。
最初の説明だけだと、サヨコは卒業生から在校生に毎年引き継がれる。なのに、なぜ3年に一度
しかサヨコが現れないのか。その説明がかなり後にならないと出てこない。その間、ずっと私は
いろいろ余計なことを考えてしまった。これがもっと早く説明されていたら・・・と思う。

というわけで、おそらくファンの方や、何度も読まれている方は気がつかれるかもしれない
いくつかの点で、とまどったのは事実である。
それをおいても、「歌声喫茶 みぞぐち」など、具体的な高校生らしい面白いエピソードを入れる
など、たくさんのポケットを持った作家なのだろう、と想像した。
今後、他の作品を読んでいくのも楽しみだ。

あとがきに、「NHKの少年ドラマシリーズへのオマージュとして書いた」と著者が述べている。

このドラマシリーズをご存知なのは、マニアでなければ、ある程度の年齢以上の方だろう。
その多くの原作を書かれた眉村卓氏の「謎の転校生」や「ねらわれた学園」(おそらく「未来からの
挑戦」)、筒井康隆氏の「時をかける少女」(タイムトラベラー)、「七瀬ふたたび」を初め、その辺りの
ミステリーから文庫本の世界に入った私にとって、それらの原作を思い出させ、さらに、何十年も前
の作品にも関わらず、それらの作品たちがいかにすばらしく、私達に夢を与えてくれたかを思い出
させてくれた。

何年たっても良き本は様々な形で受け継がれていくのだな、とうれしく思った。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

六番目の小夜子

六番目の小夜子

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 文庫


nice!(3)  コメント(10) 
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コメント 10

武田のおじさん

こんばんは。ハード・カバーですか?高いし、場所を取るから、よほど気に入らなければ買わないかも?なんと言っても、一度読み出すと止まらないおじさんは何処でも持ち歩ける文庫本サイズが好きです。
ホラーは苦手ですけど、サスペンスは好きかな。でも、猟奇的なのは嫌いですが・・・。
わたしが初めて本を読むことに目覚めたのはコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」でした。おもしろかったな~。(^-^)
by 武田のおじさん (2006-02-05 00:03) 

トム

これNHKのドラマになりましよね、鈴木杏と栗山千秋が小夜子役をやっていました。これは有る意味恩田さんも本望なのかもしれませんね。
ドラマを見てから原作を読んだのですが、大分アレンジされていてラストにはちょっと戸惑いました。
by トム (2006-02-05 07:17) 

ニライカナイ店主

武田さんへ>
コメントありがとうございます。
これは文庫本です。これは別に猟奇的ではないので、ホラーの分類
だとしても心理的ホラーに近いかもしれません。
シャーロック・ホームズシリーズ・・・面白いですよね。
何作か心に残っています。やはりいろんなミステリーが出ていますが、
あのスタイルはコナン・ドイルが作り上げたものかもしれませんね。
by ニライカナイ店主 (2006-02-05 11:42) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイスとコメントをありがとうございます。
ドラマになったことは知っていたのですが、見ていませんでした。
栗山千秋・・・合うかも・・・。
確かに、恩田さんはうれしかったでしょうね。
私は実は昔のシリーズもドラマを見る前に本を読み、再放送で見ているものも
多いんです。やっぱり、先に読んでおいてよかったと思う作品が多かったです。
やはり、ドラマだと時間枠が限られていること、ターゲットにわかるように
作らねばならないこと、などなどがあります。
ちなみに、ドラマではどのような違いがあったのでしょうか?
私は少々自分の中でつじつまが今だ合わない点があるので、
実はこの作品にまだこだわりがあります。
by ニライカナイ店主 (2006-02-05 11:46) 

こんにちわ。
「六番目の小夜子」読んで見たいと思ってるんですよね。
私自身、本格的に恩田陸さんを読みだしたのは
ブログを初めてから読んだ「夜のピクニック」からで
昔の作品で気になっている作品も多いんですよねぇ。。。
この手の作風は個人的に好きなほうなので是非読んで見たいです。
by (2006-02-07 00:29) 

ニライカナイ店主

norizoさんへ>
ナイスありがとうございます。
あっという間に読んでしまいました。
ちょっとひっかかるところは引きずりながらも、それだけの「芽」がある作品
だったんだと思います。私はこの作品を読んで、逆にある程度その先の
恩田作品を安心して読んでいけるかな?と思いました。
ぜひ、また読後感想を聞かせてくださいね。特に、誰が沙世子の転校をうながしたのか、ぜひ意見を聞かせてください。(もしかしたらわかっていないのは私
だけ??)
by ニライカナイ店主 (2006-02-07 10:38) 

YumYum

こんにちは、いつもお世話になっています。
いや〜興味を引く作品ですね〜。
名前だけは知っていましたが、こういうプロットとは知りませんでした。
こういう風に紹介してもらうと、読みたくてウズウズしてきますよ。
うまいなぁ〜。

それと、少年ドラマシリーズですか、ん〜んっ懐かしい!!
あっ、年がばれましたね(汗。)
by YumYum (2006-02-07 21:39) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
ナイス&初ご来店、ありがとうございます。
大丈夫、多分年齢層は同じですよ(あまり励ましにならない?)。
この作品を読む前から、私の文庫本デビューのあたり(たまたま少年ドラマ
シリーズと重なっているのですが)を再読しようかと考えています。
既に実家からも姿を消しているらしいので、なんとかオフさんにお世話に
なって、眉村卓、筒井康隆の初期作品をさらってみようかという気になりつつ
あります。あのあたりにやはり今活躍しているミステリー作家さんの原点は
あるし、私自身の読書ルーツがあるので。それに安部公房とカフカあたりを
プラスして、ハヤカワ・創元につなげて・・・読書ルーツたどりも楽しいかな、と。
マセた変な子供だったといまだに思いますが・・・。また遊びに来てくださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-02-08 09:31) 

YumYum

眉村卓、筒井康隆、懐かしい響きがありますね。
それに加えて、小松左京、星新一、半村良、豊田有恒。横溝正史、
森村誠一、都筑道夫、山田風太郎などなど、こうやって書いていくと、
つぎからつぎから名前が出てきますけど、
少しくミーハー気味ではありますが、お気に入りの作家を見つけては、
全作品を読みまくったあの頃が思い出されます。
『産霊山秘録』なんて読み返してみたくなりました。
by YumYum (2006-02-08 23:55) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
半村氏ですね。そこは父の領分でしたね。今思えば、読んでおけば良かった。
小松左京、星新一、豊田有恒、森村誠一あたりはよく読みました。
特に、近未来ミステリーも好きでした。「日本沈没」、テレビを見てから(あっ、
完全にトシバレ)その後原作を読みましたが、苦しかったですね。
本当にそんな日がくるのかな、って子ども心に思っていました。
その時、私達家族はどうなるんだろうか・・・と。
だから、今でも日本は近隣諸国と仲良く(笑)やっていかねばならないはずだ、
とニュースを見ては思っています。
森村氏は確か元ホテルマンでしたよね?それを生かした場面が妙にリアルで
やはり人間は想像よりも体験に基づいたものが強いんだな、としみじみ
思ったのも・・・結構子供の頃でした。
北杜夫も星さんと合わせてよく読んだ頃がありました。ああ、なつかしい。
横溝正史・・・何冊か読みましたが、やはり惨殺シーンが必ずあるので
読後感が・・・でも、その背後にある昔の恨みや血族問題などの書ききりは
はあ~と感心(失礼かな)したものです。結局怖いのは人間の恨みなんですね。
by ニライカナイ店主 (2006-02-09 10:48) 

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