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せっかくシーズンなので 「Sydney!」村上春樹 [エッセイやマンガでリラックスしたいときに]


「Sydney!」 村上春樹 2001年1月初版 文藝春秋

先日、ある本を探して本の山に埋もれていたら、村上春樹氏の「Sydney!」を久々に見つけた。
ハードカバーとは言わないな、丈夫な紙で折り返しがついたタイプの初版本だ。
ところが、さらに探している本を求めていたら、なんと文庫(しかも上下巻)の「Sydney!」も
姿を現した。
我ながら、その頃の読書姿勢を反省すると共に、「これは・・・読め、ということだな」と思った。
トリノも始まるし。

・・・というわけで再読して、やはり面白かったし、この時期に読むにはぴったりなので
お勧めの意味をこめてご紹介。

この作品は、シドニーオリンピックをプレス席から、および時には実際コースを走ったりもして、
オリンピックをいつもとは違った見方をした村上氏のシドニーオリンピック報告および、
オリンピック考である。

しかし、最初の章は1996年7月のアトランタ、ある女性のマラソン中の独白から始まる。
言うまでもなく、有森裕子氏である。そこから始まることに、この本の本質がある。

村上氏はプレス席で時に暑さと戦い、バイクやマラソンコースを実際に走ってみたり、
原稿の入ったパソコンを盗まれ、そして23日間オリンピックを見つめ続ける。

彼は自分でもマラソンを走る市民(とは本人の弁)アスリートでもある。
その目から見たオリンピックは、「とてもとてもクォリティーの高い退屈」だったと言う。
しかし、「ある種の純粋な感動は限りない退屈さの連続の中からこそ」生まれてくるのだとも
語っている。

これは、オリンピックやスポーツだけでなく、他のいくつかのことにも当てはまる言葉ではないか?

退屈、といいながら、日々の競技(時には退屈な)も村上氏の筆にかかると何かしらの意味が
そこに現れる。
さらに、キャシー・フリーマンに象徴されたアボリジニーの問題、途中でリタイアした犬伏自身と
監督のインタビュー、さらに、2000年のNYマラソンでは有森氏へのインタビューも果たし、
もちろん村上氏自身も「幸福そうな市民ランナーに囲まれて」走りながらも、
先頭を行っているはずの有森氏を想う。

選手たちには、あたりまえだが様々な人生がある。
それは、オリンピックという大舞台一つに集約されて結果を評価される、という残酷性を持ちながらも、本当は日々の「退屈な」練習の繰り返しと、プレッシャーと折り合いをつけるための精神力を身につけるための戦いを続けながら、「そこ」に立っているのである。

この本を読むと、暖かい部屋でTVを見ながら「あーあ、予選落ちじゃん」などということは、言えなくなると思う。多分。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

シドニー!

シドニー!

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 単行本


シドニー! (コアラ純情篇)

シドニー! (コアラ純情篇)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2004/07
  • メディア: 文庫


シドニー! (ワラビー熱血篇)

シドニー! (ワラビー熱血篇)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2004/07
  • メディア: 文庫


nice!(4)  コメント(8) 
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コメント 8

こんにちわ。
村上 春樹さんも未だ読んだ事が無い作家さんなんですよね。。。
つくづく昔はミステリばかり読んでいたんだなと。^_^;
デビューする時は「ノルウェイの森」あたりでと思っていたのですが
ご紹介されてる本も面白そうです。
by (2006-02-12 22:54) 

トム

こんにちわ
この記事をみてシドニーを借りに行きました(図書館に)がおいてありませんでした貸し出し中か蔵書にないのか。
村上さんはnorizoさんと同じくよんだことないと思ってましたがテレビピープルなるものを読んだことがあることが昨日判明しました。
内容はあまり覚えていませんが。
by トム (2006-02-13 06:57) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
デビューに「ノルウェイ・・・」は微妙なような・・・。
ご本人もあれがあんなに話題になるとは・・・とどこかで書いていました。
それならば、ちょっと混乱する部分もあるかもしれませんが、カフカのほうが
いいかなあ、と思います。あとは、先日ご紹介した昔の短編ですね。
「中国のスロウボート」は入り口としてはいいと思いますよ。
by ニライカナイ店主 (2006-02-16 16:31) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&ご来店、ありがとうございます。見つからず、残念。私はやはり
オリンピックにしても、テニスにしても、マラソンにしても、この本をよく
思い出します。今はカーリングを見ています。
うちの文庫、近ければお貸しするのに。
唯一の本が「TVピープル」というのも、なんというか・・・・。
まあ、懲りずに波長の合う作品と接触してみてくださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-02-16 16:34) 

YumYum

こんにちわ。
このあいだ『カンガルー日和』を衝動買いしてしまいました。
村上春樹さんはやっぱり言葉の使い方がうまいですね。
いい勉強になります。
by YumYum (2006-02-17 22:52) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。村上春樹氏は創作、翻訳、エッセイで
うまくバランスを取っている、というインタビューを見たことがあります。
「カンガルー日和」もほのぼのでしたね。そのラインでいくと、「やがて哀しき
外国語」なんかもいけますね。JAZZの話も載っています。エッセイにもいくつか
ラインがあるので、結構楽しめますよ。
by ニライカナイ店主 (2006-02-17 23:16) 

「とてもとてもクォリティーの高い退屈」
この言葉を使える人は、限られていますね。
私はまだまだ、到底使えそうな人間ではなさそうです。^^;

トリノもオープンしてから、メダルが取れないって
メディアではそればかり・・・
本当に、「それまでの努力」があることを忘れてはいけないんですよね。

フィギアの高橋選手の演技をみて心から感動しました。
自己を表現することが難しい日本人が
ここまでダイレクトに感情を出せるなんて・・・・

努力の賜物であり、高橋選手の感性の素晴らしさですね。
「みんな頑張っています」

ニカライナさんの言う通り
暖かい部屋でTVを見ながら「あーあ、予選落ちじゃん」などということは、言えなくなると思う。
と思う!
by (2006-02-19 14:47) 

ニライカナイ店主

ねこばすさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。退屈、という表現。村上氏らしいなあ、と
思います。怖くて、なかなか使えない言葉です。これは、あることを極めた人
だからこそ使えるのかな、と私も思います。結局、日々の「退屈な」、でも
ハードな、プレッシャーの中での地道な積み重ねは結果に必ず結びつくとは
限らない、ということを伝えたいのだと思います。レベルや対象は違っても、
私達の生活の中にも少なからず重なるものがあるのかもしれませんね。
ただ、その積み重ねがなければ結果を出せない、ということも多くの場合に
当てはまるのだろう、と再読して思っています。
by ニライカナイ店主 (2006-02-19 18:48) 

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