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クールなテレパス・七瀬 「家族八景」筒井康隆 [ミステリーを楽しみたいときに]


「家族八景」筒井康隆 新潮文庫 1975年初版

最近、宮部みゆきの「龍は眠る」、恩田陸の「光の帝国」と続けて超能力ものを読んだ。

ふと、私が超能力ものに始めて触れたのはいつ頃だったかを考えてみると、
小学生の高学年くらいのことだったと思う。

どこかにも書いたが、眉村卓、筒井康隆の作品で、テレパシーや瞬間移動、時間旅行の能力等
いわゆる「超能力」を持ち合わせる登場人物が出てくる作品に非常にひきつけられた。
両筆者いずれもそれぞれの魅力があったのだが、何故か筒井康隆の作品は「時を駆ける少女」
(文庫1976年)にしても、この「家族八景」を初めとする七瀬シリーズにしても、主人公は
少女あるいは若い女性である。

「時を駆ける少女」で筒井デビューをした(と思う)私だが、この七瀬シリーズは七瀬が18才の
住み込みお手伝いさんであり、テレパス(人の考えていることを読み取る能力がある人)である
ということ、その舞台が学校ではなく、様々な問題を抱える家庭であることから、
やや子供時代の私には刺激が強かったのでは?と今になってこそ思うが、
ショッキングな思いをした記憶は全く無い。

それよりも、テレパスである七瀬の不思議な能力と、人はいろんなことを考えているものだ、
ということについて子供ながらに夢中で読んでいたのだ。

この「家族八景」の七瀬は、登場時から既に自分の力をある程度コントロールする術を心得ている。
それなりに苦しみながらも、一般社会で生きていくために折り合いをつけようとしている。

時には、ちょっとしたいたずらをしてみたり、自分の力の秘密を知ろうとして危ない目に
あったりもする。

当作品の中で、「日曜画家」という作品があるが、ここに出てくる画家は、すべてのものが
幾何学模様として七瀬の精神の中に入って来る。その模様、色、形によってその相手や物事に
対して本人がどう思っているのかがわかるのだ。これは、大変面白い考え方だ。
七瀬も、やはりこれについて大変興味を持つ。

さらに、最後の作品では、七瀬は自分の能力があるゆえに、大変な岐路に立たされる。

もちろん七瀬の感情の起伏表現がないわけではないのだが、「龍は眠る」や「光の帝国」のように
その力を持ったことによる苦しみをあえてクローズアップせず、ごく淡々と七瀬の生活が
つづられていく。

この作品の後、「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」と七瀬シリーズが続く。
このシリーズが続くことによって、七瀬はいろいろな面で成長し、壁にも突き当たり、
その感情面もより深く描写されていくことになる。

ところで・・・
いずれにしても、これら学生時代に読んだと思われるほとんどの大切な作品が
閉じ込められているらしき実家の倉庫に、愛すべき本たちを救出に行かねば・・・と
毎日思ってはいるのだが。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

家族八景

家族八景

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1975/02
  • メディア: 文庫


家族八景

家族八景

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1989/06
  • メディア: 文庫


七瀬ふたたび

七瀬ふたたび

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1978/12
  • メディア: 文庫


エディプスの恋人

エディプスの恋人

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/09
  • メディア: 文庫


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コメント 8

トム

この作品NANASEってタイトルで山崎さやかさんがコミックにしていますよね。実は原作があるって知らなかったんですけど。読んでみたくなりました。
光の帝国借りてきました。
by トム (2006-03-02 06:09) 

七瀬三部作だと、ドラマ化されるのは必ず「七瀬ふたたび」だったりしますが、
私はこの「家族八景」が一番好きです。確かに派手でドラマチックなのは
「七瀬ふたたび」なんですが、ニライカナイ店主さん仰るとおり、日常が淡々と
進んでいくように見えて、実は非日常な世界を描いているのが好きでした。
嫌われ者のおばあさん?でしたっけ。妙に印象に残っています(特にラストシーン)。
by (2006-03-02 07:05) 

Shingo-Ringo

はじめまして、Shingo-Ringo と申します。
springsnow さんのブログ経由でたどり着きました。
と、思ったら、いきなり僕の大好きな「七瀬シリーズ」について書いてあるではありませんか!
いいですよねぇ・・・。七瀬。
全部好きなのですが、僕は実は「エディプスの恋人」が一番好きだったりします。
いかにも筒井康隆らしい、妥協を許さない、ある意味潔いラストが大好きです。
ハードボイルドですよね。マジで。
また覗かせてもらいます。よろしくお願いします!
by Shingo-Ringo (2006-03-02 19:14) 

YumYum

こんにちは。
実家の倉庫に、昔読んだ筒井康隆作品が眠っているなんてロマンチックですね。
筒井康隆と聞いただけで、懐かしくなりますが、
私の場合は学生時代読んだ本は、実家の引っ越しで、ほとんど処分してしまいました。
今、思えば、置いておけば良かったのに。
本というのは「単なる情報媒体」に終わらない、不思議なものですね。
『七瀬シリーズ』また買って読もうかな。
by YumYum (2006-03-02 22:57) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。当方はマンガ化されていることを
知りませんでしたよ。年代の違い??まあそれはいいとして(笑)、「光の帝国」、読後感想、聞かせてくださいね。楽しみにしています。
by ニライカナイ店主 (2006-03-03 02:31) 

ニライカナイ店主

springsnowさんへ>
ナイス&ご来店、ありがとうございます。確かに、テレビ化は「ふたたび」が
多いですね。立ち回り的な面白さがあるからでしょうか?
おっしゃっているのは最後の章ですか?これは凄かったですね。ぞっとしました。(違ったらごめんなさい)結構、この第1作目の七瀬は若いのに残酷だと思っています。それを淡々としちゃうところがまたいいんですけれどね。ただ、それは彼女が生きていくためのぎりぎりの手段であり、ストレス=エネルギーの発散なのだろうと思っています。
by ニライカナイ店主 (2006-03-03 02:36) 

ニライカナイ店主

Shingo-Ringoさんへ>
初のご来店、ありがとうございます。
私も、結構第3作が印象に残っています。ただ、こうして冷静に並べてみると、
七瀬の齢とか、経験などに沿って、いろんな七瀬の面を筒井氏は描こうとしていたのかな、とも思います。それを淡々とした筒井氏の表現で綴っているところがまたいいんですね~。これからもご愛顧ください。
by ニライカナイ店主 (2006-03-03 02:40) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
ナイス&ご来店、ありがとうございます。
私も、実家から独立するときに、実は一度ブック○○さんに来てもらって、
500冊くらいさばいたんです。本当にそのころ好きだったものだけ持って家を出ました。(村上春樹や宮部みゆき、加納朋子、北村薫等の主にハードカバー)最初独立して住んだところがスペースが限られていたため、やむを得ずそうして売ったわけですが、それでも諦め切れなかった本を実家に預けていたことをすっかり忘れていました。母も、「あれだけ売ったんだから、残ってないんじゃない?」と電話で言っていました。でも、あの本を売ったり、まして捨てたりしたはずはない・・・と考え直し、実家の母に頼んでもう一度見てもらったのです。そうしたら・・・3箱発見。多分、この中に海外もの、眉村卓等、なぜか急に流行りだした岡嶋二人あたりも入っていると思われます。それらの本との再会がひじょーに楽しみです。さて、何が出てくるやら・・・。
by ニライカナイ店主 (2006-03-03 02:50) 

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