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読み応えあり!「ヒストリアンⅠ・Ⅱ」 [ミステリーを楽しみたいときに]

   
「ヒストリアンⅠ・Ⅱ」 エリザベス・コストヴァ 高瀬素子訳
NHK出版 2006年2月初版

久しぶりに、いろいろな意味で読み応えのある作品と出会った。

とにかく、1巻目に関して・・・というよりは、この物語の中に入り込むまでは、
1ページを読み進めるのにこんなに時間がかかる作品は久々で、
自分の読書力に自信をなくしそうになる。
しかし、それは物語の導入部分を丁寧に書いてあるということでもあり、
まして、決して内容が面白くないとか、展開が悪いとか、そういうことではない。

あくまで、この物語を緻密なものにしようとしている著者の細やかな筆致によるものである。

また、最近の本にめずらしく、2巻構成にしたとしても、1ページの文字数が
多いのではないかと思う。
翻訳者の方には本当に頭が下がるほどの大作であり、描写が詳細だ。

冒頭におけるそういった様々なことを乗り切り、頭に叩き込むと、
1巻目の後半の頃から急速に物語は自ら回転し始める。
2巻目などは様々な資料がパズルのように各地で集まり、一つの姿を形づくり始めるのだ。
それは物語だとわかっているからこそ受け入れられる、長い時代に渡る恐ろしい姿であった。

この物語は、いくつかの年代とその主人公となるべき人物により、
おおきく3つの部分が時を得て交代しつつ現れる。

訳者あとがきにもあるように、
一つ目は1930年代、若き日の切れ者の歴史学者がある奇妙な本の謎を追うパート、
2つ目は1950年代に、その歴史学者の愛弟子である大学院生がある事件をきっかけに
恩師の足取りと同じ謎を追うパート、
そして、最後に1970年代、、「平和民主主義センター」を設立して外交活動をしている
かつての大学院生を父に持つ16歳の娘が、父の失踪の謎を追うパートの3つだ。

これらが本当にバランスよく、時代を超えて物語を回転させ、私達をその世界にのめりこませる。
どんな年代の人が手に取っても、どこかの世代に自分を投影することも可能だ。
やや最後の終結が急がれて描かれているようにも感じたが、それは長い長い物語の最後に
心臓破りの丘を駆け上っていくようなもので、3つのパートに別れて進められていた物語の
すべての謎がそこで一度に解けるように構成されたスピードに私が引きずられた感もあり、
読者によって感じ方は様々であろう。
確かにあそこでかえってじらされるよりも、良い選択だったのかもしれない。

この話はドラキュラ伝説にまつわる話だ。
さらに、ひろく冷戦時代のヨーロッパ(トルコまで含む)の地理、そして教会や宗教、
それこそ戦争や侵略、支配を中心にした広い意味での過去の歴史を知っていたほうが、
より面白く読みこなせるはずである。

西洋史や地理に弱い私など、この作品によってうちのめされながらも、
かなり勉強になったと思う。
さらに、もっとこういった背景を学ばねば、と身が引き締まる思いがする。

そういった広い背景さえも、著者の伝えたいことなのかもしれないし、
吸血鬼に3度かまれると生きずして死にざるものになる、という伝説について、
そして人種や民族の問題など、
幅広く考えさせられることが読後の心地良い疲れの中に宿題として残されているのだ。

そんな暗い物語の中でも、ヒストリアン(歴史学者)たちの横の連携の強さ、
そして強く結ばれた愛情、友情、友愛には国境や宗教はないのかもしれない、との希望も感じ
最後のページを閉じた。

確かに時間はかかるかもしれない。
しかし、ただのオカルトではなく、広い意味でのヨーロッパの歴史を背景にした
サスペンスそしてロマンスとしてぜひ手にとって挑戦してみてほしい。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ヒストリアン・I

ヒストリアン・I

  • 作者: エリザベス・コストヴァ
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: 単行本


ヒストリアン・II

ヒストリアン・II

  • 作者: エリザベス・コストヴァ
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: 単行本


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コメント 4

歩林

わあ。今日、本屋さんでてにとりました。1ページ読んでおもしろそうと思いつつ、あまりの厚さにおいてしまいました。
やっぱり、買おうかな。
by 歩林 (2006-04-29 17:31) 

ニライカナイ店主

歩林さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
結構、読むのに根性がいりますが、1巻目の後半から急に次へ次へと
自分をせくようになります。そこまでが忍の一字ですね・・・。
もし、図書館ですぐ借りられるようなら、借りて期限内で読む、というのも
一つ自分を追い込む手ではあります。ただ、何度か他の資料を参考にしながら
読んでいくと、もっと面白いだろうなあ、という気持ちもあり、私は今回
図書館で借りましたが、多分文庫化されたら買うと思います。
by ニライカナイ店主 (2006-04-29 19:53) 

こんにちわ。
外国の作品で日本の書店に並ぶような作品って
なぜか上下巻や分冊など、ボリュームがある作品が多い気がします。
もともと外国の作品にわりと偏見を持っていたのですが
この間読んだ「ダ・ヴィンチ・コード」で厚めの外国作品も読めるものだなぁと
認識したので是非チャレンジしてみたいですね。
作品の展開や背景が気になるところですし。
ただ読書のメインが通勤と職場でのお昼休み時間の私としては
ハードカバー上下って言うのが厳しいところですね。
文庫になるまで待ってしまうかも。。。
by (2006-04-30 08:51) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
今私はその「ダ・ヴィンチ・コード」の文庫本をゆるゆる読んでいます。
やはり、「ヒストリアン」がしぶとかったので、こちらは結構早めに
進んでいます。
確かに、持ち歩きには適していませんね。文庫化されても多分3分割、しかも
1冊が結構重くなるかもしれません。でも、ぜひ読んでみてください。
できれば、その間に、14~16世紀くらいのキリスト教、西洋史をガイド的に
軽く読んでおくとさらに面白いかも。もちろん、「ドラキュラ」そのものを
読むのもいいかもしれません。
by ニライカナイ店主 (2006-05-03 14:43) 

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