SSブログ

恩田陸デビュー10周年記念短編集?「図書室の海」 [肩の力を抜いて読書したいときに]


「図書室の海」 恩田陸作 新潮文庫 2005年

この文庫には、10編の短編が収録されている。
初出は1995から2000年、そしてタイトルになっている作品は
2002年にこの短編集のために書き下ろされている。

この10編の作品達の多くは、後日の長編、又は別の物語のよく言えばエピローグ、
ぶっちゃけた話としては予告編または番外編(作者談)となっている。
それは、特に「ピクニックの準備」(私は本編は未読で立ち読み程度)でははっきりと
著者本人から「『夜のピクニック』の予告編」と名唄われていて、
ここまであっけらかんとなるとまたそれもいいのだろうか、という気になる。

デビュー10年目としての短編集として、あえてこういうものを出した、
というのは読者へのサービスなのか、自分の作品の流れを確認するためなのか、
担当編集者の思惑なのか。
いずれにしても、これを借りたのではなく買ってしまったとしたら、
少々しょんぼりするところかもしれない。
しかも、文庫でなく、ハードカバーで。
熱烈なファンだったら、そうでもないのだろうか?微妙な気持ちがする。

ただ、恩田氏についてあまり詳しくない新参者(私を含め)にとっては、
良いガイド的存在にはなるかもしれない。
そうやって割り切って読めば、次にどれを読んでみようかとか、
この路線はいかがなものかとか、あたりはつけやすくなる。

このところ、たまたま短編集、しかも女性作家のものを続けて読んだので、
ついそれと比べて辛口になってしまうのは勘弁願いたい。
キャリアも違うし、短編に対する姿勢もそれぞれ違うのだ。

それにしても、タイトルになっている「図書室の海」は、あの「六番目の小夜子」
(これはこのブログでもご紹介済http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2006-02-04
にとって、どんな意味を持つのかな、とふと思った。

「小夜子」という存在の意味を深める、というよりは、誰を小夜子に指名するのか、
というところに焦点は合わせられているのかもしれない。
一番大きいことは、「小夜子」を読んだときにあるブロガーさんがこの本の存在を
教えてくれたように、最初から本編に入ったのではわからない
「鍵を渡すだけの小夜子」がいる、という事実を知ることができるという点だ。

「小夜子」本編が98年作、このタイトル作が2002年の書き下ろしで、
「小夜子」の文庫化も2002年であったことを考えると、ややこのタイトル作が
本編のフォロー的役割を果たしている可能性もある。
(それは本編から読みきれなかった自分の負け惜しみかもしれない)

そういったことをすべて考慮外にすれば、私自身、高校時代の古い図書室は
やはり好きなスペースであり、その中でもお気に入りのコーナーがあった。
だから、「図書館の海」のイメージは、単独で読んでも悪い感じはしない。

私のそれは、岩波のアーサー・ランサムの全集などに取り囲まれた奥まった一角で、
調べ物だけしかしない人や図書室にあまり興味のない人には
わからないような場所だったかもしれない。

4人掛けくらいの重そうなテーブルと、ぎしぎし言う木の床。
角なので、両側に小さな窓がついていた、と思うが、なにやら薄暗いスペースだった。
そこで、一人で読んだ岩波の少年向け作品のシリーズの数々、ちょっとした調べものや
宿題を片付けたこと、仲のよかった友人とのとりとめない小声での語らい。

「図書室の海」は、「小夜子」の番外編としてではなく、そんなことを私に思い出させてくれた、
という意味で懐かしさを感じる作品であった。

私達が卒業する年、その図書室は全面改築され、まったく見知らぬ空間となった。
在学生は新しい図書室をとても喜んでいるようだった。確かに今までがボロすぎたのだ。
しかし、内容物は入れ物に負けず、ボロであっても
今も私の読書の基礎になってくれている本たちだったことに変わりはない。
図書室の学校内の位置も変わり、窓からの景色も変わった。

高校時代の私が今にも傾きそうな図書室の一角で過ごした本との時間は、
永遠に、記憶の中だけに葬られている。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

図書室の海

図書室の海

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/06
  • メディア: 文庫


nice!(2)  コメント(6) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 6

偶然ですー!!!
わたしも今「図書室の海」の記事をアップしたところなんです!
「図書室の海」はすごく印象的な物語でした。
わたしは「六番目の小夜子」は未読でしたが単独でもわりとすんなり読めたと思います。
図書室の空気とかいいですよね。
今度「小夜子」を読んでみようと思います!
by (2006-05-28 19:10) 

ニライカナイ店主

madoccoさんへ>
正しい?順番で読めて、「小夜子」についてはすんなり行くと思いますよ。
私は逆に読んだ(というかやはりデビュー作から読んだ)ので、実は
すごくこの点で悩んだんです。だから、「図書館の海」を読んでからの方が
すんなりいけるはずです。これがもしなかったら?とちょっと想像してみて
ください(笑)。madoccoさんのブログも拝見しました。すごい偶然でしたね。
私も、恩田さんはいろんな引き出しがまだまだあるんだろう、と思いました。
合う、合わないはどうしてもありますね。
宮部みゆきさんとどうしても比べてしまうので、(年齢、本人の写真等が
似ている?)どうしても得意分野が恩田さんにははっきりしているんだろう、
とふと思うのです。madoccoさんはどう思いますか?
by ニライカナイ店主 (2006-05-29 09:54) 

こんにちわ。
なるほど。。。こういう本が出ていたんですね。
確かにハードカバーだと自分で購入する分には
厳しい内容ですが、仰るとおり入門編?的な位置づけで読めば
面白そうですね。
私もまだまだ恩田さんの本を読みきれていないので
図書館で借りて読んでみて、他の本を読む際の参考にしてみたいです。
by (2006-05-30 07:33) 

「夜のピクニック」とか「光の帝国」はすっごくハマったのですが、
「ライオンハート」がどうも合わなかったのを覚えています(゚ー゚;)
「夜のピクニック」→「ライオンハート」って順番で読んだときギャップがあってすごくびっくりしましたね。。。
恩田作品は数冊しか読んでいないのでまだまだなのですが、
恩田さんの描く学校の雰囲気は好きですねー(^^)
by (2006-05-30 21:56) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
恩田さんのメニュー表的に考えても良いかもしれません。
もちろん、その後時間もたっていて、力量もさらに上がっているでしょうから、
参考としてはいいのだと思います。編集者(あるいは出版社)の意向も
あったのかもしれませんね。
by ニライカナイ店主 (2006-06-03 13:03) 

ニライカナイ店主

madoccoさんへ>
確かに学校描写はうまいし、リアルですよね。ついつい自分の学生時代を
思い出してしまうような・・・それが、今の若者世代(現学生)にも通用して
いるから、図書館のヤングコーナーにも入っているのでしょう。
ライオンハート、読んでいないのですが、逆に興味が出てきましたね~。
by ニライカナイ店主 (2006-06-03 13:06) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。