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舟に乗っていずこへ 「星々の舟」村山由佳 [人生や物事について考えたいときに]


「星々の舟」 村山由佳著 文春文庫 2006年1月初版

2003年の芥川賞受賞作だそうだ。
読んでみると案外一気に読めた。

この話は6つの短編の連作になっており、実はある複雑な家族の3代に渡る物語になっている。

短編が続くにつれて、家族の複雑なつながりや思いが見えてくる。
それは、それぞれの短編によって主人公=視点を変えることで多面的にその一家の出来事や、
ひととなりが見えてきて、それが最後に一つになる。

最後に、一番年長である「父」の物語が語られ、そこでは戦争の話もあるのだが、
これはちょっとつけ足したような感じがあって、それまでの流れが非常にさらさらと
流れていただけに惜しかったような気もする。
テーマとしては、大変思い内容なだけに、バランスが気になるのだ。

あとがきに、著者の父がシベリアに捕虜として収容されていたことが書かれていて、
それならもっと・・・というのは欲かもしれない。
その思いが強すぎたのか、それをストレートに出すまいとするあまりに、
ややほかの短編とのバランスが崩れたような気がした。

また、その部分については戦争に関わるだけに、中途半端な書き方では
許されないところまでつっこんでいるし、若い読者なら知らなかった、ということもあるから
さりげなく、というわけにも行かなかったのだろう。
ただ、いろいろ訳はあるにしても、力が入りすぎたため、連作の中でそこだけやや浮いてしまった。

もう少しそれとなくでよかった。
それでも十分「父」に残った戦争の影はわかるはずだ。
でも、それでいいのか?とも思う。
これがあってこその芥川賞受賞だったのかもしれないが・・・。

あえて、ここに焦点を絞ってもっとバランスを取り直すか、別の物語として
連作にするかにしたほうが力が入れられたような気もするのだが・・・。

いずれにしても、優れていたのはそれぞれの登場人物の心情表現である。
その人の視点からぶれずに焦点を合わせ、読者を引き込む力が大変強かった。

あとがきで、著者は「人が人として幸せであるために、最低限必要なもの」として、
「自由であること」と答えをだしている。
それは、もちろんシベリアに捕虜とされていた父の話から実感する
戦争の影響も大きいのだろう。

しかし、今生きている私達には、また違う戦いがある。
「自由であること」をつきつめれば「孤独であること」にも耐えなければならない、と
著者もあとがきで書いている。
また、最後の短編でもそれと同じことを象徴的なことばで「父」が語っている。

「父」の罪が引き起こしたある一家の物語。
その罪を罪と考えるかどうかは読者次第である。
もちろん、作品には罪とは書いていない。
ただ、もとをただせばそこに戻らざるを得ない不幸がある。
それを「戦争体験のため」という以外の説明はなく、そこに集約させている。
それでいいのだろうか?

もうひと踏み込みするか、もっと大きく包み込むかすれば、さらによきものになったはずだ。
そう思うのは私だけだろうか。読者のわがままとはわかっているのだが。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

星々の舟

星々の舟

  • 作者: 村山 由佳
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 文庫


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