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結末までの過程を楽しむ 森絵都 「カラフル」 [人生や物事について考えたいときに]


「カラフル」 森絵都 理論社 1998年

森氏の作品を何か読みたいと思っていたら、
友人の中学生の娘さんが「カラフル」がいいんじゃない?と薦めてくれた。

なにかの罪を犯して死んだはずの「ぼく」は、いいかげんな天使の
「抽選にあたりました!」の声で自殺したある少年の体に入り込み、
そこであることを達成すればまた輪廻のサイクルに戻ることができると告げられる。

そのためには、自分がなんの罪を犯したのか、その罪の大きさに気が付けばいいのだという。
それまでは、その少年の体を借り、少年の家庭や環境に「ホームステイ」することになる。

やけにやさしい父、何かにおびえたような母、内心何を考えているかわからない兄、
そして学校にいけば微妙な立場にいるその少年。

入れ物としてその少年の姿を借りながら、「ぼく」は自分らしさを徐々にさらけ出しながら
日々を乗り越えていくのだが、その果てに見えてきた真実とは・・・。

児童文学の続き、いわゆるヤングアダルト文学に属するともいえるこの作品は、
天使が下界におりるにあたって「ぼく」にいきなり箇条書きでレクチャーするのだが、
そのあっけらかんとしたわかりやすい設定が、かえって「カラフル」ワールドに
読者を結果的に引き込むことになる。
なぜなら、その箇条書きが「カラフル」ワールドそのもののルールでもあるからだ。

そして、「ぼく」が他人であるはずの少年の体に入り込む、という異物感によって、
読者はまるで「ぼく」と同質化したような感覚で読み進むことができる。
それは、とてもうまい構成だと思う。
やがて、「ぼく」が最後に自分の罪に気が付くときに、結局、読者がこうあってほしい、
という願いと固く結びつくまでに物語にのめり込んでいくのである。

実は、ちょっとカンのある人が読めば、初めから最終的にどんな結末になるかは
わかるのではないかと思う。特に、ある程度の年齢以上の方には。
わかっていても、その過程がどうなるのか、それがなかなかおもしろかった。

また、結末のゆくえが全く想像付かなければ、
もちろんさらにはらはらしながら読み進むことになる。

いずれにしても、今を生きる中学生、そしてそれを取り巻く家庭、学校のなど
広く考えれば社会の環境がいかに少数派の人間、言い換えれば個性というものを
つぶそうとしているかを読者は思い知らされる。

父は父として、母は母としての役割においつめられ、
個人としての個性や思い、生き方は許されない。
また、学校という集団でうごめく組織は、異質なもの、少数になるものをはじきとばすために
常に多数決をしているようなアメーバーのようなとらえどころの無い場所かもしれない。

そういう場所で、自分の居場所を確保することのいかにむずかしいことか。
それは実は学生時代だけの話ではないのだけれど、特に学校という場所、
そして家庭に属さねば生きていけない中学生という存在のいたたまれなさを痛いほど感じる。

しかし、やはり人は生きてなんぼ、の存在なのかもしれない。
どんなにきつくても、どんなに孤独でも。
読者はそれぞれの立場と年齢で、そんな思いをこの作品で何かの形で感じるに違いない。

誰でも何かしらやり直したい、という気持ちが心の底にあって、
それをどうリセットすればいいのか悩んでいるのかもしれない。でも、人は実は
自分の気持ちの持ちようでいかようにも自分をリセットしてやり直すことができるのだ。

作中で、少年の父が「ぼく」に、
「いいことがいつまでもつづかないように、悪いことだってそうそうつづくもんじゃない」
という場面がある。

子どもにとっても、子どもと大人の間の人にとっても、もちろん、実は一番大人にとって
このセリフは案外心の支えになるのかな、と思うのだ。
大人になるまえの人たちは「そんなものなのかな」と思い、
既に長く大人をしている人たちは自分の人生を振り返り、少し顔を上げてこれからのことを
少し思いながら。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

カラフル

カラフル

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 1998/07
  • メディア: 単行本


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コメント 4

こんにちは(^^)
わたしはカラフルを読んで森絵都さんが好きになりました。
でも、この本を読んだのは結構前なのでさらにもう一度読んでみたくなりました(最近再読したい本が増えてきてます…笑)

 >「いいことがいつまでもつづかないように、悪いことだってそうそうつづくもんじゃない」

この言葉すごく深いですね。
by (2006-12-02 14:33) 

トム

森絵都さんですね、風にまいあがるビニールシートを読みましたが、そのときはそれほど印象的ではなかったのですが、好評ですね。図書館で借りてこようかな。
by トム (2006-12-03 07:24) 

ニライカナイ店主

madoccoさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。私もこの本を最初に紹介してくれた
彼女に非常に感謝しています。でも、若い時に読んでいたらどんな風に
感じただろう、と思うとちょっと残念・・・。きっとお父さんの言葉の深さとは
違うところにもっと共感したかもしれません。本との出会いもこうなると
一期一会なのかもしれませんね。
by ニライカナイ店主 (2006-12-08 17:25) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。私も話題作から入りたくなかったので
あえて著者がもともとターゲットにしていた年代層の読者に聞いてみたのです。
結果、もしかしたらよかったのかもしれません。結局「風に・・・」はまだ
読んでいませんが・・・。
by ニライカナイ店主 (2006-12-08 17:27) 

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