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既にタイトルに謎がある 「名もなき毒」 宮部みゆき [ミステリーを楽しみたいときに]


「名もなき毒」 宮部みゆき 幻冬舎 2006年

大会社のグループ広報誌を作っている小さな部署で働いている「私」は、
実はその大会社の会長の血を引く女性の夫であり、
財産や経営には全く関わらないという約束で妻と結婚しているのではあるが、
そのことを少なからず意識せずにはいられないこともあり・・・
「私」はそんなやや気を使う出自の妻と小さな一人娘を持つ男である。

その小さな広報誌をつくる部署で新たに雇ったアルバイトの女性が、
あまりに仕事ができず、その一方言動が激しくコミュニケーションにも問題があるため、
解雇しなければならなくなる。
彼女は「今にみてなさいよ」というような言葉を残して去っていったかに見えた。
ところが・・・。

一方、あるコンビニにいつも犬の散歩の途中でよる老人が、
毒入りの烏龍茶を飲んで亡くなってしまう。

このふたつの事件に、「私」はまたも巻き込まれていくことになる。

「またも」というのは、実は「私」は宮部氏の作品『誰か』で、
ある出来事の解決に尽力した「私」でもあるからだ。

そう、この作品は『誰か』の続編でもある。

普通のサラリーマンでありながら、大会社社長の本妻の子ではないが血を引く妻と
たまたま出会い、いろいろもめながらも結婚し、一粒種の愛娘にもめぐまれ、
原則として会長である父とは関わらないという約束で家庭生活を送っているのだが、
勤めている部署も会長である義父の条件としてしがない出版社から転職するように言われ
勤めている義父の関連会社であり、会長から何かしら依頼されて雑事をこなすこともある。

この作品は、毒殺という事件を描きながら、実は誰もが持っている悪意のようなもの、
そう、言い方によれば「毒」ともいえるものを浮き彫りにしている。

普通の人々がその悪意に巻き込まれ、振り回され、苦しんでいる様を読んでいると、
とても人事とは思えない。
平穏な生活と悪意にふりまわされる生活は本当に紙一重なのだ、とひやりとしたものを感じる。

さらに、罪の重さということも考えさせられる。
その罪が重いから、それを犯した人間がそれだけ悪者かという割り切りはできない。
手を焼かせて大騒ぎしたり、人を困らせて自分の気を晴らし、
しかしその一瞬の気晴らしが終わるとさらに落ち込んでよりパワーアップした悪意を抱き、
それを敵とみなした相手にしかけようとする人種もいる。残念ながら。

この作品も今までの宮部作品に負けずいろいろと読了後に考えさせられる作品である。
自分にもその「毒」がまったくないと誰がいいきれようか。
周りに思いやりや暖かさ、愛、そして自負があるから人間はなんとか生きていける。
それがすべてなくなったとき、人はどうなるのか。

宮部氏の問いが、最後に静かに残されている。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

名もなき毒

名もなき毒

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本

誰か Somebody

誰か Somebody

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/08/20
  • メディア: 新書


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コメント 2

yworfutig

初めてコメントさせていただきます。
ニライカナイ店主さんの紹介文に引き込まれて、「誰か」と「名もなき毒」すごく読みたくなりました。
宮部みゆきさんの本は「ドリームバスター」と「ブレイブ・ストーリー」しか読んだことがありませんが、「孤宿の人」とか「ぼんくら」とか「模倣犯」とか興味のある本はたくさんあるんですが、難しそうな印象があって読んでいません。
“ちいさん”→“madoccoさん”経由でここへたどり着いたんですが、いい本探すのにブログってとっても役に立ちますね。
by yworfutig (2006-12-11 23:22) 

ニライカナイ店主

クレマチスさんへ>
初のご来店&ナイスありがとうございます。私も宮部さんの本は昔から
いろんなジャンルで楽しんでいます。最初の頃のサイキックもの(このブログ
でご紹介した「龍は眠る」など)も楽しいですよね。時代物の読書は最近少し
お休み中ですが、「震える岩」などは読みやすいかもしれません。これも
シリーズ化されています。
今回ご紹介したシリーズは最初は日常的なできごとから始まるのですが、
それが実は大きな謎や人間の本質を垣間見る結果になる、という
宮部さんならではのとっつきやすい作風になっています。ぜひ、『誰か』から
読んでみてくださいね。また気軽にあそびにきてください。お待ちしています。
by ニライカナイ店主 (2006-12-15 07:56) 

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