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やはりすごかった!「クライマーズ・ハイ」横山秀夫 [人生や物事について考えたいときに]


「クライマーズ・ハイ」 横山秀夫 文春文庫 2006年

2003年に文芸春秋から単行本化されたものである。
読後感は、「すごい」、この一言である。

すごい、という話は最初に発行されたときから聞いていたが、いままで読む機会がなかった。
しかし、今でよかったような気がする。
読み時、というものにはまった。

ご存知のとおり、この作品は85年の日航機墜落事件を題材に、
墜落地の地方紙の記者の生きざまを描いている。

当時の地方紙新聞社の混乱と興奮、仕事への執念、意地、落胆、社上層部の権力争い・・・。
そして、時間は主人公の一記者を中心に、現在へ、過去へと行き来する。

山を登るとき、その苦しさがピークを通りすぎた時、ふっと感じる快感にも近い「楽」な状況、
苦しさからの解放・・・そういうものをクライマーズ・ハイというのだとすれば、
仕事も、日々の生活の中にある苦しい出来事も、すべてあるところまで
夢中になって取り組んでいるうちに、そういう一瞬がおとずれるのではないか。

問題は、その一瞬に浸るのではなく、そこからどう「現実」に戻るかなのかもしれない。

それが、「下りるために登る」という、主人公の亡くなった友人が残した言葉に
象徴されるのかもしれない。

登ろうとすることは誰にでもできる。

そして、難しい場所までたどり着き、晴れ晴れと頂上に立つことは
ある程度力のある人ならできるのかもしれない。

しかし、いかに下りるか。
その下り様に実は人の本当の生き様が現れるのではないか、と思わされる。
下り方は引き際とも、身の処し方、あるいはその人そのものとも言えるかもしれない。

新聞社の熱っぽい雰囲気は、著者が上毛新聞記者であった経験から生々しく伝わってくるし、
新聞社内の抗争もリアルである。

その中で、駆け引きや友情、信頼と裏切り、落胆、そして筋を通すということ。
これらのことは、一新聞社のことでありながら、未曾有の出来事を相手に、
どう対処していくのか、という点でどんな会社にでも起こりうることである。

リアルさと人と人との関係。
それを浮き彫りにするような描き方の秀逸さ、言葉選びの的確さは
本当に優れた作品であることを示しているのだろう。

一読すればわかる。
こういう作品にはなかなか出会えない。
その一冊に久々に出会った気持ちよさが残った作品である。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 文庫


nice!(3)  コメント(5) 
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コメント 5

歩林

これは、年末年始にじっくりよめそうですね!
・・・・メリークリスマスです☆
by 歩林 (2006-12-24 18:48) 

ニライカナイ店主

歩林さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
ぜひ読んでみてください。読み応えありです。
ちょっと遅いですがメリークリスマス・・・でした!
by ニライカナイ店主 (2006-12-26 20:41) 

ニライカナイ店主

thisisajinさんへ>
初のご来店&ナイスありがとうございます。先ほどそちらにおじゃまして
きました。アートされている方なんですね。私にはできないことなので
すごい、と思いました。また気楽にご来店ください。
by ニライカナイ店主 (2006-12-26 20:43) 

yworfutig

この作品勘違いしていました。単なる日航機墜落事故のドキュメンタリーだとばかり思っていました。確かに難題に夢中に取り組んでいる時に峠を越えるとふっと楽になります。そこからどう現実に戻るか。ここのところがよくわかりませんでした。読んで理解してみたいと思います。ちょっと話は違いますが、私も山は少々登ります。下りのほうが大変だったりすることって実際あるんですよね。
by yworfutig (2006-12-26 22:02) 

ニライカナイ店主

クレマチスさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
確かに題材としてはあの事件を取り上げているのですが、実際に中心に
なるのはそれを取り囲むマスコミの状況、また、それに対して取り組んだ
一人の取材記者の身の振り方を描いています。山をやっているかたなら
きっと共感するところも大きいかもしれませんね。こだわりと引き際。
そんなものを考えさせられる作品です。
by ニライカナイ店主 (2006-12-27 08:07) 

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