既成概念はもう通用しない今に 「幸福な食卓」瀬尾まいこ [人生や物事について考えたいときに]
「幸福な食卓」 瀬尾まいこ 講談社 2004年
映画はみていないが、ずっと気になっていた本作をそれをきっかけに読んでみた。
このところ瀬尾まいこを続けて読んでいる。
意識的にではなく、偶然もかさなった結果ではあるが。
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という
あまりに有名でショッキングな一文で始まるこの作品は、初版当時から話題になった。
家族の崩壊と再生を女子学生の目線から見た物語。
あまりに話題になりすぎて、当時は立ち読みしたにとどまった。
今、落ち着いて読んでみると著者が既成の概念ではもう枠にはまらなくなった
この世界を若者の視線で捉えていることがよくわかる。
「温室デイズ」でもよくこのようにリアルにかけるなあ、と関心していたが、
「幸福な食卓」執筆の時点で、中学校の現役の国語講師であることがわかった。
なるほど、である。
その現場を目の当たりにしていたのだから、その視線はおのずとリアルになるだろう。
しかし、この崩壊と再生については、大人と大人になろうとしている少女、青年、
いろんな立場から描かれていて、いずれも破綻がない。
疲れた大人の姿も、やや理想的にではあるが、「これもありではないか」というように
軽々と新しい道を描き出している。
著者が提示してくれているように、中年になってしまった追い詰められた者が
簡単には新たな生き方や、やりなおしや、再生に向かえるかどうかは
その人間の資質にかかっていると思うので誰でもそうだとはいえないが、
小説には希望が必要だとも思う。
特に、若い世代に読まれる可能性のある作品には、希望が少しでも残されていてほしい。
さらに、著者の後の作品につづくいじめや人間関係、
生きづらい世の中にどう生き延びるかというテーマにつながる蕾が
こめられているともいえる。
やっと過去の話題作であり、今も話題作として残っている本作を読んで、
この作品はきっとこれからも長い間語り継がれていくかもしれない、と思った。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
家庭でも学校でも、だれもが何かを演じているんですよね。
それを辞めたくなる時、ふっと自由になってみたくなる時、ありますよね。
by yworfutig (2007-06-13 20:34)
クレマチスさんへ>
ご来店ありがとうございます。確かに誰もがいろんな場面でいろんな役割
をつとめているのかもしれません。それが重荷になったとき、その役割に
よって簡単に辞められるものと一般常識として辞めにくいものがあるのかも
しれません。その辞めにくいものこそ、実は一番その人の「枠」になって
いるといえましょう。その枠から外れてみたい、というのは大きな誘惑で
あり、時にはそれによって本当に解放されるのかもしれません。でも、
ある程度大人になってしまうと枠からはずれた自分を再構築するのは
結構辛い大変な作業になるのでしょう・・・と想像しています。でもそれが
本人や周囲の人たちを実は本当に自由にするのかもしれませんね。
by ニライカナイ店主 (2007-06-15 19:59)