末期医療について切り込む 「螺鈿迷宮」 海堂尊 [ミステリーを楽しみたいときに]
「螺鈿迷宮」 海堂尊 角川書店 2006年11月
前作「ナイチンゲールの沈黙」の1ヵ月後の出版である。
現在も勤務医であることを考えるとものすごいスピードだ。
今回は、残念ながら前2作に出てくるグッチーこと田口医師は表立っては登場しない。
しかし、官僚である白鳥氏が思わぬ形で登場し、さらにその部下がこれまた思わぬ姿で
問題の現場に潜入している。
海堂氏は喜劇的ともいえるオーバーな展開を借りて、実は現実的な医療問題に切り込んでいる。
今回は末期医療についてである。
もう直らない末期患者、身寄りのない長期入院患者に決してやさしくない医療制度。
もちろん病院自体もその医療制度に引きずられて結果的に患者を転院させようとすることも多い。
そうした医療現場の問題を、スピード感をもって
ハリボテにも見える奇妙な形のある架空の病院で語っていき、あばいていく。
そのことで、作者は問題提起している。
本当に問題なのは何か。
本当におかしいのはどちらなのか。
生と死の狭間で、火花が散る最後の応酬。
表向きの応えは決まっている。けれど、きれいごとで現実は語りきれない。
死を介在した見えない連鎖の中、登場人物たちがぶつかり合うこの作品展開は、
まるで舞台を見ているようである。
いままでの3作の中、一番舞台に向いているかもしれない。
できればシリーズの順番で読んでいただいたほうが、より楽しんでいただける作品である。
さて・・・今後作者はどんな舞台を用意して私たちの気持ちに切り込んでくるのか。
既に次作「ジェネラル・ルージュの凱旋」が発刊されているので楽しみである。
<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
コメント 0