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映画化!ぜひ原作も 「夕凪の街 桜の国」 こうの史代 [人生や物事について考えたいときに]


「夕凪の街 桜の国」 こうの史代 双葉社 2004年

以前からご紹介したいと思っていた作品だった。

漫画アクションに掲載された「夕凪の街」、「桜の国(一)」と、書き下ろしの
「桜の国(二)」が収録された単行本である。

戦中、原爆投下、被爆、戦後という時代と、
それを下敷きにして存在している現代という二つの時間から
「原爆」を描いている漫画である。
やわらかなタッチがハードな内容とはうらはらに、最初から読むものをひきつける。

映画化されることがわかり、ぜひ映画とともに、いやできれば映画を見る前に、
原作の漫画を読んでいただきたくて。

広島出身ながら直接原爆での無縁、と思っていた作者が、「ヒロシマ」と向き合った
作品である。

あとがきで「広島市に育ちはしたけれど、(中略)原爆はわたしにとって、
遠い過去で、同時に『よその家の事情』でもありました」と作者が書いているように、
今まで目を無意識のうち背けようとしてきたテーマに正面から取り組み、
女性ならではの視点から原爆の根深さを見事に描いている。

特に、「被爆者」「被爆体験」を一塊のできごととしてとらえるのではなく、
一人ひとりの人間にとって、それがどのような残酷なできごとであったか、
死んだ者だけでなく、生き残った者にとっても逃げ切ることができない
根深い傷であったかをやわらかい画で綴ることで、かえってその残酷さ、
辛さが読んだ者の心中に彫りこまれるような気がする。


「わかっていたのは『死ねばいい』と誰かに思われたこと」
「十年たったけど 原爆を落とした人はわたしを見て『やった!またひとり殺せた』と
ちゃんと思うてくれとる?」
というセリフの一つひとつ・・・生き残った被爆者の思い。


そして、被爆しなかった者にとっても、戦後の子どもたちにとっても、
原爆はまた逃れきれない悲しみを伴うものであった。

戦争について、多くの本を読み、話を聞いてきたつもりであったけれど、
ここまで「心」を描いたものは少なかったかもしれない。
漫画という手法によって、ここまで鮮やかに、
まるで追体験するかのように
「原爆」の現実を、
「原爆」は終わっていないということを伝える作品があったとは。

今だからこそ、この作品が多くの人の心に命の物語を、
戦争の、原爆の哀しさを、
消すことの出来ない苦しみを、
そしてそれが今だ続いている、という事実を
伝えてくれれば・・・と願わずにはいられないのだ。

                     *****

映画は7月下旬上映予定で、「半落ち」の佐々部清監督、
戦中・戦後のヒロインを麻生久美子、現代の主人公を田中麗奈が演じる。
いずれも期待できるキャスティングである。

映画については下記の公式HPをご覧いただきたい。
http://www.yunagi-sakura.jp/

この原作ができるだけ多くの今まで原爆を知らなかった人たちに、
そして原爆について知ろうとしてきた人たちの心に届くことを祈りたい。

夕凪の街桜の国

夕凪の街桜の国

  • 作者: こうの 史代
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 単行本


nice!(1)  コメント(3) 
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コメント 3

yworfutig

ダ・ヴィンチで紹介されているのを見て、これは私も読みたいと思っていた1冊です。
そうですか。映画化されるんですか。これは原作を読まないといけないですね。
by yworfutig (2007-06-20 20:15) 

トム

私も以前この本の記事を書いた事がありますが、ニライカナイさんの記事をみて私が書きたかったのはこういうことなんだと感じさせられました。
映画化期待しています。
by トム (2007-06-20 21:33) 

ニライカナイ店主

クレマチスさんへ>
ご来店ありがとうございます。多分、出版されたときにダ・ヴィンチで
取り上げられていたと思います。私は友人の紹介で読んだのですが
ちょっと不思議な感覚にとらわれました。登場人物の誰かに自分を
重ねることのできる不思議な感覚になると思います。
そのことがより内容の理解に繋がったように感じます。

ホシさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。久しぶりにそちらに遊びに
行ったら雰囲気が変わっていてびっくりしました。結果、楽しませて
いただきました!共感していただけてうれしいです・・・というよりも、
そういう力をもっている作品なのだと思います。
私も映画楽しみにしています。
by ニライカナイ店主 (2007-06-23 22:55) 

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