心がキーンとする痛みを抱えて 「しずく」 西加奈子 [人生や物事について考えたいときに]
「しずく」 西加奈子 光文社 2007年
6編から成る短編集だ。
タイトルになっている「しずく」以外の5作は「小説宝石」に掲載されたものである。
「通天閣」でもそうだったが、このところ西加奈子氏は関西弁で書いているものが多い。
彼女自身関西の大学を出ているので出身なのだろうが、
そのことによって、何かパワーを感じる。
これらの6つの短編はどれもちょっとどきっとしたり、心がキーンと痛くなったり
何か「痛い」作品が多いのだが・・・
私が一番気になったのは「木蓮」という作品である。
なぜなら、なんとなく私が主人公の気持ちがわかるような気がしたから。
この作品には幼い女の子が出てくる。
その女の子は、今、主人公が付き合っているバツ一の男性の子で、
フライトアテンダントの元妻が長いフライトに行くことになると
主人公にも「1日預かってくれないかな」と彼の懇願がくる。
実は主人公は子どもが嫌いである。
でも恋人は手放したくない。
その板ばさみの果てに、結局その女の子を預かるのだが、
その子どもがまたひどく可愛くない。
これはたまらない。
しかし、あることをきっかけにこの主人公と子どもの関係は一変する。
そのきっかけは読んでのお楽しみとして・・・。
とにかく、いくら小さな子どもでも人間であること、個性があって、傷づく心があって、
親の離婚にもいくらタフに見えてもきつい思いをしているのだ。
ほかの短編にもそれらの「思い」は連なる。
どんな人にも、どんな猫にも、思い出があり、愛があり、辛さがあり、我慢があり、
哀しい過去もある。猫たちにはやや短い過去であったとしても。
そんなことに気づかせてくれる、短編集である。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
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