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壮大な中国の女性たちの物語 「ワイルド・スワン」ユン・チアン [人生や物事について考えたいときに]


「ワイルド・スワン」 ユン・チアン 講談社文庫 1998年

中国のことが知りたくなった。
そんな時手にしたのがこの作品である。

物語は著者の祖母が生まれるあたりまで遡って描かれている。
1900年初頭、まだ清朝の末期だ。
祖母は子供の時に足の骨を砕かれ、纏足をされる。
それが良家の女子には必要な時代だった。
そのため祖母はその父の政略結婚の道具にされ、
しかも初めての結婚でいくつも年が上の男の妾とされてしまう。
もちろん、そこに祖母の意思など関係はない。

そんな切ない部分から始まる事実にもとづくこの話は、
清朝の終焉、国民軍の反乱、そして中国共産党の統制へと変遷するとともに、
主人公も祖母から著者の母へと移っていく。

母は共産党員となりながらも、元ブルジョワで満州にいたことから
日本との関係、混乱期の国民軍との関係をしつこく疑われ、
さらに最初はお互いに認め合って結ばれたはずの夫が
党に忠臣を尽くすがために行う数々の冷たい仕打ちに心を砕かれていく。

その後、文化大革命を中心とした国の施策は主人公一家をふくめ、
多くの人々の人生も生活も振り回し、
焚書や文化遺産の破壊に象徴されるように、
それまでの中国の文明の遺産ともいえるものまでに大打撃を与えた。

物に対してだけではない。
人に対する不信感、常に誰かに密告されることの恐怖・・・。
今の私達には考えられないことである。

そうした祖母、母、娘三代に渡る中国での嵐のようなできごとを、
著者の家庭を中心にみごとなリアルさで綴っている。

考えてみると私自身もおどろくことに、
これらのことは1970年代まですぐ隣の国で起こっていたことであり、
さらに私達の国がそれらに無関係ではないのだ。

この作品を読むことで、大国の1世紀にわたる変遷と、嵐のような出来事、
それらがみな人への猜疑感や不信感、私怨、保身など、
人間の根底に潜んでいる恐ろしい感情から発していることを学ばずにはいられない。

そして、その一端に私達の国も関わってしまっていたことを、
過去のことではあってもよくよく考えなければならないとあらためて思うのである。
なぜなら、私達の国がどんなことをしたかということを、
中国はその国の視点で若者達に教えている一方、
当のわが国ではできるだけ事実でさえさけて通ろうとし、
何も知らない子ども達、若者達がほとんどであるからだ。

この作品では、日本人を直接避難することはしていない。
しかし、20世紀に起こった中国の様々な出来事の中で、
日本が第二次世界大戦当時に行ってきた出来事が
その後の中国の混乱の原因の一端をなしていることは
この作品を読むと良くわかるのである。

本当に「事実を知る」ということがどれだけ大切か。
それを様々な側面から思い知らされる大作であった。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ワイルド・スワン〈上〉

ワイルド・スワン〈上〉

  • 作者: ユン チアン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 文庫


ワイルド・スワン〈中〉

ワイルド・スワン〈中〉

  • 作者: ユン チアン, Jung Chang
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 文庫


ワイルド・スワン〈下〉

ワイルド・スワン〈下〉

  • 作者: ユン チアン, Jung Chang
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 文庫


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