スピード感ある医療ミステリー 「ジェネラル・ルージュの凱旋」 海堂尊 [ミステリーを楽しみたいときに]
「ジェネラル・ルージュの凱旋」 海堂 尊 2007年 宝島社
現役勤務医である著者が、2006年のデビュー以来、
書き続けている医療ミステリーの4作目である。
なぜ仕事をしながらこれだけのものが書けるのか・・・と思うよりは、
現役の臨床医だからこそ、こういうものが書けるのだろう、という印象のほうが強い。
今回の主役は、「チーム・バチスタの栄光」でも舞台となった大学医学部付属病院の
ICU部長、速水である。
彼は救命救急センターという一分一秒を争う戦場に身を置きながら、
出来る限りぎりぎりの瀬戸際まできている命を救うため、ありとあらゆる手を尽くしている。
その手腕は誰もが認めるものであり、それはセンタースタッフの中にも浸透している「はず」だった。
一方、救命救急センターとともに小児病棟を含む病院新棟は「赤字」の温床として
病院事務局長からは目の敵にされていた。
速水が強く望んでおり、新棟にその設備もあるドクター・ヘリは
自治体の費用負担も病院側の予算もかなわず実現していない。
そう、彼の神のような手腕に対する羨望とも憎しみともとれない敵視の渦が病院内には溢れていた。
そんなとき、一つの密告文が「あの男」に届けられる。
そう、万年講師、又は昼行灯、グッチーこと不定愁訴外来の田口医師のもとへ。
その差出人の名もない手書きの密告文が、平穏な田口医師の日々はまたも
迷宮の扉を嫌々ながらも開けざるを得ない状況に追い込んでいくのだったが・・・
一時はやられっぱなしだったグッチーもリスクマネジメント委員長としてすっかり成長?が見られる一方、
医療現場の戦場の状況、そして病院経営という相反するもの、大学病院という伏魔殿で
いったい「正義」とはなんなのか・・・考えさせられる重い内容を含んでいる今作である。
今回はそういった部分が大変分かりやすく、エンターテイメント性を保ちながらも、
読者もその場に関係者として臨席して問題と対峙いるかのような錯覚におちいる「しかけ」だ。
これは、短い間ながら著者の腕が上がった、ということでもあるのかもしれない。
そして、速水の大学時代からの同級生で、マージャン仲間でもあったグッチーが最後に下した裁定とは?
もちろん、おなじみ白鳥氏といつのまにやら登場し得意技を披露する姫宮嬢、
コーヒー担当実は裏の総師長藤原看護師、ネコこと猫田師長も登場する上に、
このシリーズにはめずらしくロマンスもあるので、連読されている方はお楽しみに。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
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