「魔女の宅急便」その3 キキともうひとりの魔女 角野栄子 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]
「魔女の宅急便その3 キキともうひとりの魔女」
2000年10月初版 福音館書店 角野栄子著
本気で魔女になることを心に決め、空を飛ぶこと以外にも
自分の魔法の世界を広げようとしているキキは16歳になった。
仕事も、町で一人で暮らすことも、すべてうまくいきそうに見え、大切な人たちとの関係も
強くなり、広がりかけていたそんな時、あやしい影がキキの周りにまとわりつくようになる。
それは、ケケという12歳の変わった女の子。
何か魔法のようなものを使えるのか、その子のまわりでは不思議なことが都合よく起こり、
町の人たちやキキのボーイフレンドのとんぼさんまでケケと仲良くするようになる。
キキは、今まで一生懸命築いてきた自分の世界や人間関係をケケの存在によってかき回され、
我を失っていく・・・。
この巻を読んでいると、とても「子供向けの本」と片付けることができない。
カテゴリーも、「人生や物事について考えたいときに」に入れてもいいくらいだ。
キキが体験する辛さは、大人でもよく立たされるのと同じ辛い状況だ。
自分が切り開いてきた道、誠意で築いてきた人とのつながり、
自尊心と責任をもって続けてきた仕事。
それらのことが、たった一人の苦手な人間の出現、あるいは小さな出来事がきっかけで
すべてかき回されてしまう。
生真面目な人間ほど、その混乱は大きく自分の核を揺さぶるに違いない。
子どもはどのようにこの作品を受け止めるのだろうと思う。
しかし、子どもの世界もシビアなようだから、きっと子どもは子どもなりに
自分の経験に重ね合わせるのだろう。
自分について考える、ということは一生続く作業なのだから。
この作品は、「自分はどうしたいのか、何が好きなのか」ということを真剣に突き詰めたとき、
最後にどのような「明日」が来るのかが描かれているように思える。
順風満帆だった船が、急に嵐に巻き込まれ、明日が見えなくなったとき、ぜひ手にとって
16歳の少女とともに考えてみたい1冊だ。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
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