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これぞ冒険モノ「エイレーネーの瞳シンドバッド23世の冒険」小前亮 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]

エイレーネーの瞳.jpg

「エイレーネーの瞳 シンドバッド23世の冒険」 小前亮 理論社

理論社のYA向きシリーズの一冊である。

シンドバッドは、その弟子たちの最も優れた一人に魔人を譲ってきた、という
設定。
今回のシンドバッドは若き女性である。
そして、まだ修行中の弟子のマレクと、昔シンドバッドとともに
22世のもとで修行してきたエンヴェルの3人が、依頼された秘宝探しのために
冒険に出るのだが、それは現シンドバッドが敬愛してやまなかった
謎の多い22世も突き止めようとして道半ばに倒れた冒険だった・・・

中央アジア、イスラーム史を専攻してきた著者が、その知識を駆使して描く
新しいシンドバッド像。
なかなか魅力的である。

最初はその世界観や時代、人間関係になれず進まないような気がするのだが、
それらが一度わかってくるとどんどん面白さが加速してくる。

特に、最後に22世の死に際しての謎がわかるあたりではぐっとくるものもある。

新しいタイプのファンタジーとして、もしかしたら次作もあるのか?と
期待させる終わり方もしている。
まだまだ登場人物の成長、秘密、知りたいことはある。
続編が出れば、きっと手に取ることになるだろう。楽しみである。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。


エイレーネーの瞳―シンドバッド23世の冒険 (ミステリーYA!)

エイレーネーの瞳―シンドバッド23世の冒険 (ミステリーYA!)

  • 作者: 小前 亮
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 単行本



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子供向けではないファンタジー?「黄金の羅針盤 ライラの冒険」フィリップ・プルマン [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]

黄金の羅針盤.jpg
「黄金の羅針盤 ライラの冒険」上・下 フィリップ・プルマン 大久保寛訳
 新潮社 2007年

最初、子供向けの児童文学かと思って読んだが、どうもすべての子供に読ませるには
アクが強いように思う。
物語のはじめに、ミルトンの「失楽園」からの引用があり、この意味も大人であっても
そうそう簡単に受け入れられる容易な内容ではない。
さて、この物語は誰のために書かれたものなのか。

冒頭に断り書きがあるように、この「黄金の羅針盤」は3部作の1作目であり、
私達が暮らす現実世界と似ているが、「多くの点で異なる」世界で起こるできごとである。
イギリスと思われる(実際、主人公ライラは、オックスフォード大の学寮で
訳あって暮らしている両親を事故でなくした少女、という設定である)土地から物語りは始まり、
そこからオーロラが空を彩る北方へと舞台を移す。

ライラは自由奔放で、いわゆる少女、というよりガキ大将といった様子なのだが、
ある世界にいくつもない大切なものを手に入れたことで変わっていく。
また、ライラの身の上もかなりややこしい状況であることもわかってくる。

こういうことは、大人はすんなり読み進められるが子供はどうだろう?
多くの童話がそうであったように、子供たちもそれらのことにこだわらず、
物語の先にあるものへの興味に引っ張られていくのだろうか?

下巻の最後にはスピード感が感じられる。
あるいは映画向きなのかもしれないが、見てみないとなんともいえない。

確かに、私達が暮らす世界と似ているけれど、全く違う世界。
同じ言葉ながら異なる意味を持つ言葉。

第一部だけではこの物語の意義をはかることはできない。
小さな子供たちに勧めるのは保護者が読んでみてからのほうがいいと思われるが、
これからの展開と出会ってからさらにこの物語の真意について語りたいと思う。

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黄金の羅針盤 上 軽装版 (1) (ライラの冒険)

黄金の羅針盤 上 軽装版 (1) (ライラの冒険)

  • 作者: フィリップ・プルマン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



黄金の羅針盤 下 軽装版 (3) (ライラの冒険)

黄金の羅針盤 下 軽装版 (3) (ライラの冒険)

  • 作者: フィリップ・プルマン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



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五感で中学時代を思いながら 「The MANZAI」1~3 あさのあつこ [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「The MANZAI」1~3 あさのあつこ
ピュアフル文庫 2005~2006年

ああ、中学時代、こんなことがあったなあ、とふと思った。
テンポよく進んでいく物語の中で。

もちろん、状況も家庭環境も違うのだ。

でも、中学時代、友達を信じるということ、
なんの損得も無く、血縁関係もない人間と
ここまで強く結びつくことができるのだ、ということ、
そしてそんなみんなと一緒に何かをすることが「気持ちいい」と
感じたあの頃の感じ。

その感じは、「匂い」のようなものだ。
こうこうで、こうだから、としっかり説明できるようなものではない。
まさに、五感の中で感じ取った過去の記憶である。

この作品の主人公、歩は、舞台になる中学に転向してくるまで、
一度は自分を見失い、それが間接的なきっかけとなり、家族を失っている。

転向してきた学校では、贖罪のようにひたすら「普通でいよう」と
真面目に黙々と通学している。

そんな歩に「なんで、ふつうじゃないとあかんのや」と正面から言い放ったやつがいる。
それが同級生になった秋本だ。

彼はサッカー部のエース的存在にもかかわらず、歩と漫才をしようとする。
相棒、と心に決めたのだ。

なぜ運動もできて女の子にももてて、それ以上なにがある?というような
中学生活を送っているようにみえる秋本が歩に
「お前しかいない」と熱烈に繋がろうとしているのか。
それがこの物語の根底を流れるテーマになる。

この作品に出てくる中学生たちは様々だ。

でも、結構気のいい連中といえるだろう。
それは、だれがどう、というものでなく、みんなで繋がろうという
求心力のようなものをみんなが本当は求めていて、
家庭の問題や受験など中学生の直面する
自分の居場所を揺さぶる不安をもさらけたり、
蹴散らしたりするパワーをもつものなのだろう。

そんな仲間に引きずり込まれた歩も、かたくなだった心が、
徐々に外に向いてくる。

それは、自分だけのことを考え、
自分が無事に立っていることが精一杯だった状態から、
かなり荒っぽい外からの力がかかったにせよ、
自分以外の人間のことを考えたり、
自分が自分自身であることを隠さないで済むように変わっていくのだ。

そう、人間は変わっていくのだ。

もちろん、変わらなくていいものもある。
でも、変わってもいいし、ほかの人間ともともと違っていて当然なのだ。
それをこの物語は中学生の姿を通して語りかけてくれる。

辛い過去があっても、ややこしい家庭環境であっても、
友を初めとする他人の助けを借りたとしても、
自分らしく生きるために変わることができるのだろう。

ちなみに、文庫の2巻目には重松清氏と作者の対談が、
3巻目には加納朋子氏の解説が掲載されている。
それぞれ興味深い内容であるのでぜひ併読されたい。

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The MANZAI 1

The MANZAI 1

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2005/12/01
  • メディア: 文庫


The MANZAI 2

The MANZAI 2

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2006/03/02
  • メディア: 文庫


The MANZAI〈3〉

The MANZAI〈3〉

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫


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読後の満足感だけで・・・「バッテリー」Ⅳ~Ⅵ あさのあつこ [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「バッテリー」Ⅳ~Ⅵ あさのあつこ 角川文庫 2005~7年

「バッテリー」、とうとう読み終わった。

野球もの、少年もの、児童文学・・・いろいろな枠組みがあるのだろうが、
これは何か枠にはめてどうこう分類したい、という気分にはならない。

この読後の満足感だけでいいのかもしれない。

Ⅳからは主にライバル校との駆け引き、特に心理的な描写が多い。
その心理描写も巧と豪を中心にしながらも、巧たちのキャプテンの海音寺や、
相手校の中心人物たち、そして巧たち1年生の仲間たち一人ひとりのキャラクターも
際立ってくる。

その誰かに自分が似ているような気がするし、「こういうこと、昔あったな」という
やりとりもある。

私達大人世代にとって、この作品は若い時代を振り返りながら、
忘れていた何かを目覚めさせ、もう一度そのことを考え直させるような気がする。
あの頃わからなかった何かを。
あの頃忘れてきた疑問の答えを。

試合の結末がⅤの巻末にある「THE OTHER BATTERY」にもどっていくし、
巧の性格形成の元となる一端はⅣの「空を仰いで」の中に、祖母の面影とともに
描かれている。

これらすべてを抱えて、この一つの物語を思うとき、私は何故か最後に「巧の物語」
ではなく、実はその周りの人々の、特に「豪の物語」だったのではないかとさえ
思えてくる。

最終巻の最後に、筆者が「原田巧という少年の物語」とはっきり書いているにも
かかわらず、やはり私は「巧という少年を取り巻く少年たちと人々の物語」だと
思えてしまう。

それが、巧という天才肌の少年よりも、悩み、苦しみ、努力を重ねることで
巧とともにバッテリーを組むことを決心した豪や、巧の背後で守る先輩たち、
巧の野球仲間たち、一人ひとりがいとおしくてたまらないからだ。

もう既に大人の駆け引きの第一歩を踏み出しているようなキャプテンの海音寺や
相手校の中心人物、瑞垣でさえ、自分たちの思いを抱えながら、野球部という
集団を動かしながらその中で自分以外の部員を思い、時に憎しみに近い妬みを
隠している。
その暗い思いの部分でさえ、いとおしく感じる。
それは、いつかの、あのときの自分が見えるからかもしれない。

中でも、巧とバッテリーという特別な関係を組む豪にとって、
自分の進路や力の限界におびえながら、そして巧との考え方、野球との距離に
違いを感じてうろたえ、また、そのことを他人に指摘されながら、
最後には答えを出す。

苦しんで、苦しんで、苦しみぬいた後に、とうとう豪は答えに達する。
そして、天才肌ゆえに、投げることしか考えられなかった巧も、そんな豪の
姿を見ながら、彼ならではの言い方で豪に自分の思いを伝える。
それは、豪に比べればつたない言葉なのだが、本当に飾り気の無い、
素直な気持ちだった。


こうして、少年達の物語は終わりを告げたのだが、巧の弟、青波のことが
やや語りつくされていないような気がする。
もしかしたら、またいつかあの少年達が、いつか目の前に現れてくれるのかも
しれない。
その時は、きっと目を見張るような更にたくましい姿になっていることだろう。

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バッテリー〈4〉

バッテリー〈4〉

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫


バッテリー〈5〉

バッテリー〈5〉

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 文庫


バッテリー 6 (6)

バッテリー 6 (6)

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫


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若だんな旅に出る! 「うそうそ」 畠中恵 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「うそうそ」 畠中恵 新潮社 2006年

みなさん、しばらくお久しぶりです・・・
しばし事情がありアップが遅れておりました。
これから山のようなストックからまた皆さんに楽しい本、お薦めしたい本、
ちょっとひっかかった本など、取り揃えてカフェを開いていきたいと思っています。

まずは、いつもご来店くださるねこばすさんがはまっている、と書いてくださった
シリーズから・・・。

                        *****


「しゃばけ」以来の若だんなシリーズである。
今回、なんとあの回船・薬問屋の若だんなであり、
妖の血を引く体の弱い若だんなが箱根に湯治にいくという。

そんな、江戸時代の旅が、
あの虚弱体質の若だんなにできるとは思えないのだが・・・
問屋の両親や妖の兄やまで乗り気である。
それは、なぜか若だんなが変な夢を見たり、
江戸にも地震がおきる妙な時節でもあったのだが・・・。

さて、この旅が無事な湯治で終わるはずがない。
若だんなシリーズ始まって以来の大立ち回りである。
いろんな新たな登場人物、その者がいったいどんな立場のものなのかも
見方なのか敵なのかもわからず、物語は二転、三転する。

若だんなも、今回は同じような立場の少女と出会い、その心の内を知りながら
心を開くことの出来ないもどかしさや、
少女の背負った運命の重さにともに悩む。
(私はここにいる。・・・でも誰かの、何かの、この地の役に立っているんだろうか)
・・・と。

江戸でも抱えていたこの思いが、さらにこの箱根の地の混乱の中で
若だんなの胸を騒がせる。

しかし、この気持ちは、実はいつも寝たきりの身体の弱い若だんなだけではなく、
今の時代を生きる私達も時として感じることなのではないだろうか?

自分の器の大きさを推し量り、目の前の現実になんとか立ち向かおうとして
でも、何もできないかもしれないと虚無感にかられる・・・。

そうした若だんなのさらなる精神的成長をうかがわせるとともに、
神々とそれを守るものたち、人間の欲望、そして良心、
さらに妖の世界がうずまいて、
今回は非常におもしろいエンターテイメント作品に仕上がっている。

ぜひ、しゃばけシリーズを読んで、
この作品までたどりついていただきたいと思うのである。
そんな読み甲斐のある作品であった。

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うそうそ

うそうそ

  • 作者: 畠中 恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05/30
  • メディア: 単行本


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キキの大人の魔女への道「魔女の宅急便その5 魔法のとまり木」 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「魔女の宅急便その5 魔法のとまり木」 角野栄子 福音館書店 2007年

「魔女の宅急便」シリーズももう五作目である。
キキは19歳の女性として登場する。

が。

冒頭からほうきでアクロバティックな飛行を我々に披露してくれる、
相変わらずおてんばなキキである。

一方、ジジはちょっと最近変なのだ。
普通の猫のようなしぐさや鳴き方をするようになってしまう。

そんなジジのことや、遠くの学校に通っているとんぼさんとなかなか会うことも
できず、イライラしてばかりのキキ。

そんなキキにこれまでに無かったある異変が起こってしまう。

宮崎駿氏の映画の中では凝縮して表現される部分も、
原作ではもっとゆっくり、じっくりとキキの成長と歩調を合わせるように描かれていく。
この「魔法のとまり木」は、キキが大人の魔女として、
乗り越えるべき心の壁が描かれている。

映画ほど激しくはないが、普通の女の子としての心の揺れと、
魔女として成長しようとしているキキの思いがしみじみと伝わってくる。

そして、最後には次のキキの姿を想像させる楽しみを残し、
物語はキキのほうきのようにぴょーんと高く飛翔してこの巻を終えるのだ。

さて、それがどんな楽しみなのかは読んでのお楽しみだ。



私が今回この物語の中で一番好きなシーンは、キキが二十歳になる瞬間だ。

キキは、たった一人でその瞬間を迎える。
その光景が孤独と自由と自立、という日本の本来「成人」という意味での
二十歳にも通じるような気がするのだ。

普通の若者ならば、多くの友だちに囲まれてお祝いしてもらったり、
家族に囲まれて暖かい成人の時を迎えるということもあるだろう。
中には愛する人と2人で祝う人もいるだろう。

しかし、キキはたった一人、夜と朝の間に漂いながら、魔女として二十歳の時を迎える。

それは、きりりとした大人の女性として生きていこうとする前向きな「生」の姿だ。
その美しく、やさしく、潔い表現に、ふと自分が二十歳を迎えたときを思い出そうと
してみるが、なかなか思い出せない。(まあ、その程度のものだったのだろう)

キキの物語も、次回は大きく飛躍を遂げる。
さて、どんな物語に大きく成長するのか?
満月の夜にはふと思い出しながら、楽しみに待っていたい。

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魔女の宅急便 その5 (5)

魔女の宅急便 その5 (5)

  • 作者: 角野 栄子
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本


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少年たちを見守りながら 「バッテリーⅡ・Ⅲ」 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]

☆「バッテリーⅡ」 あさのあつこ 角川文庫 2004年 

遅まきながら、味わってこのシリーズを楽しんでいる。
この作品もやはり教育画劇から刊行されたもの(1998年)を加筆・訂正し文庫化したものだ。

ピッチャー巧はキャッチャーの豪と同じ中学に進む。
いや、豪がその道を選んだといえるのかもしれない。

ふたりは「中学野球部」という枠、そして壁にぶち当たる。それもとても激しく。
そうだ、あの巧がそれをうまく通りぬけて何事もない、などと誰が思おう。

苦しいながらも、潔い生き方と、迷いをもちつつ、その生き方を信じようとする二人の相棒。
相棒、と思っているのは果たして豪だけなのか?そんなことさえ考えさせられるシーンもある。

「バッテリー」のときも思ったのだが、作品自体も面白いのだが、あとがきにひかれる。
このⅡの時には、ちょうどバッテリーシリーズを書き終えたときの「あとがき」が
あさの氏によって書かれている。このあとがきにジーンときてしまった。

あさの氏は、10年前に「少年をわたしの手で生み出してみせる」・・・
「若い未熟な魂に稀なる才能をつぎ込まれ」「過剰な自負と他者への希求を持て余す
ほどに有する」少年を・・・そう、10年前には「生み出してみせる」と書き手として
思いを抱いていた。
しかし、こうしてシリーズを書き終わって「今は、ない。満足感も充足感も、安堵感もない。」
といい、「書ききれなかった」と述べている。「ついに、捉え切れなかった」と。

この部分にぐっときてしまう自分は、何ものなのか、とふと考えてしまう。
やはり、少しは文章を書くことを目指し、日々少しずつ努力している者としての共鳴なのだろうか。
魂の共鳴・・・。そんな感じがした。自分までが落ち込むような、そんなあとがきなのである。

しかし、もう少年たちは一人歩きを始めている。
作家の手を離れ、多くの人を驚かせ、感動させ、共感させている。
もちろん、作品としての比較や意見は作者を追いかけて続け、いつかは捉えるのだろう。
しかし、この作家には、そこから立ち上がりさらに先に進もうとする力がさらに感じられるのだ。
こうした一人の作家のあからさまな心のささやきに、私達は未来への光を
見出すのではないだろうか?

その光が多くの少年や、少年のこころを持つ大人、
そして少年たちを見守る人々に降り注ぐことを祈りたい。

☆「バッテリーⅢ」 あさのあつこ 角川文庫 2004年
(2000年教育画劇発刊後加筆修正発行)

あの巧と豪は同じ公立の中学に進み、とうとう中学の野球部という「枠」に
踏み込んでいく。
今までの野球だけで結びついていた関係から、学校の部活動という枠に囲まれた
壁が巧の前に立ちふさがる。
教育としての部活動、そして先輩と後輩という関係。
巧は決して自分の立ち位置をぶらさない。
どんなことがあっても。

そして、バッテリーを組む豪の心理もその繊細さがより明らかになる。
天才肌ピッチャーとその球に惚れたキャッチャーの心理。
まさにキャッチャーが女房といわれるように、豪の巧に対する思い、
巧の自分への信頼について、非常に神経質になっていることもあからさまになる。

チームとしてなんとかまとめようとするキャプテン海音寺、そして監督。
みんな野球を愛している。
でも巧は?・・・と考えさせられるシーンが何度も繰り返される。
巧が求めているもの、愛しているものは一体何なのか。
それは中学の野球部の中で存在しえるものなのか。

青波の成長もこれから気になるところである。

作中に、「制服の下に、ユニフォームの下に、誰もが、
それぞれの身体と意志と誇りを潜ませている」という一文がある。

これは、中学生に限ったことではない。
ただ、その第一歩を踏み出す、それがその年代なのかもしれない。

自分の中学生時代を思い出しながら、熱い思いで読みきれる。
特に、クラブ等、何かに打ち込んだ記憶のある人ならば。
中学生が決して大人が思うほど幼くはないことを、自分の体験から
思い出すはずなのだ。

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バッテリー〈2〉

バッテリー〈2〉

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/06
  • メディア: 文庫


バッテリー 3

バッテリー 3

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/12/26
  • メディア: 文庫


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厚さ5センチの超大作 「エラゴン」 [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「エラゴン 遺志を継ぐ者 ドラゴンライダー1」 クリストファー・パオリーニ著
大嶌双恵訳 ソニー・マガジンズ 2004年

まず、この本を見たときにその厚さにおどろく。
約5センチ。これを15歳から17歳までの間にある少年が書ききったとは。

物語は、確かに『指輪物語』や『ゲド戦記』、『ナルニア物語』の影響、そして一部は
RPGの影響を受けているかもしれない。
しかし、それらをよく斟酌し、破綻のない筋、あきさせない展開、
しかも、読み終わると読者に「これから何かが始まる」と思わせる。

作中の主人公、エラゴンはちょうど著者と同年代である。
それだけに、心の成長が重ねられるように伸びていくのがまた面白い。

ドラゴンであるサフィラとライダーである主人公の絆も深い。
こうした絆があることを今の若者には知ってほしいと思う。
また、有り余る力を持っていても、使い方を間違えると自分にも周りにも
大変なダメージになることや、自分をコントロール・・・つまり、律するということを
エラゴンは学んでいく。

ハリポタよりももしかするとその点ではこちらの方がリアルなのかもしれない。
次作が楽しみである。

<Amazon.co.jp へのリンク>
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エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈1〉

エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈1〉

  • 作者: クリストファー パオリーニ
  • 出版社/メーカー: ソニーマガジンズ
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本


エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈1〉

エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈1〉

  • 作者: クリストファー パオリーニ
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本


エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈2〉

エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈2〉

  • 作者: クリストファー パオリーニ
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本


エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈3〉

エラゴン 遺志を継ぐ者―ドラゴンライダー〈3〉

  • 作者: クリストファー パオリーニ
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本


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今更ですが・・ 「バッテリー」 あさのあつこ [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「バッテリー」 あさのあつこ著 角川文庫 2003年

おそまきながら、話題の作品を読んでみることにした。
1巻目を読み終わって、素直な感想としてこのあとを読んでみないとわからないなあ、
という気持ちとともに、この頃の年代の一人の少年、しかも特別な能力をもつ少年の内面を
ここまで丁寧に書ききっていることに話題になるに足るものを感じる。

きっと、親たちの年代は、自分達の子どもの頃を思い出すとともに、
今自分の子どもの考えていることに思いをめぐらすのかもしれない。
あるいは純粋に、内容のおもしろさを楽しむかもしれない。

私は、実は角川文庫版になったときの著者のあとがきに最も心が揺さぶられた。

何故あさの氏がこのような作品を書くにいたったのか、
なぜここまで主人公の巧や弟の青波の心を細かいところまで私達に語ろうとしているのか、
それがそのあとがきを読むと良くわかる。

あさの氏は子ども時代に抑えてこんできた何かを、その思いを、
主人公やそのほかの少年達に放ったのである。

それが本当の意味で気持ちを昇華することにつながるのかわからないながらも
その気持ちを書かずにはいられなかったのかもしれない。

さらに続いていくこの物語だが、そもそもは1996年に教育画劇という出版社から
出版されたものである。
当時の社会背景を考えるとまさにその時、この物語を書かねば、と思った
著者の気持ちがわかると共に、今この時代の中でもなお、
別の多くの問題を背景にもちながら生き生きと主人公の生き方が浮かび上がってくるのだ。

著者をして「屹立したたった一人の少年」といわしめた少年。
それがどんなに集団、社会・・・特に学校という枠の中で波紋を起こし、摩擦を起こすものか。
しかし、それをもかまわず嵐の中を一人歩いていくような・・・。

予定調和、というものを排したと著者本人が書いている時点で、
既にこの作品は児童文学の枠にはあてはまりきらないのかもしれない。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

バッテリー

バッテリー

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫


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ほのぼのさの中の闇 「プラネタリウムのふたご」 いしいしんじ  [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]


「プラネタリウムのふたご」 いしいしんじ著 講談社 2003年

何か不思議な感じのする1冊であった。

物語のような、昔話のような。

タイトルにもあるように、ある町のプラネタリウムに双子の男の子が置き去りにされる。
プラネタリウムの解説員が、なりゆきから二人を育てることになる。
その町にはパルプ工場があり、プラネタリウムの主なお客はそこの工員なのだが、淡々と過ぎる星々の回転のように、二人も成長していく。

やがて、二人は星については誰にも負けないくらいくわしい子どもになる。
なにしろ、プラネタリウムを毎日見ているのだから。

でも、あることをきっかけに二人は離れ離れになり、全く別の人生を歩むことになる。

この物語は、本当に暗い闇について書かれた本のような気がする。
宇宙に広がる本当の闇。
街中に住む人間には想像もつかない、何もかも吸い込むような漆黒の闇。

それは考えもしないところに潜んでいる。

まるで児童文学のような、そう、宮沢賢治のような文体のせいだろうか、そんな感じがするのだが、とても小さな子どもに読み聞かせる内容ではない。
別の作品で坪田譲治文学賞を取っているので、それは子どもも共に共感できる作品なのかも
しれないが、この作品に関しては少々きつい表現があることと、この虚無にも近い闇、
しかし、誰ものすぐ近くにさりげなく存在する闇をあまり小さな子どもに教えることがどうなのか、
私は判断しかねる。

まるでおとぎ話のように始まるのどかさが、あるとき一転して恐ろしい現実にすげ変わる部分に
関しては、本当に手品を見ているような鮮やかさがある。
その魅力の一方、暗闇に耐えられ、理解し、さらにその穴におちいることの恐ろしさを
読み取れる年齢になってからのほうがいいのかもしれない。

余計なお世話、といわれればそれまでなのだが。

とにかく、現実的な面を持ちながらも、不思議な世界を垣間見させてくれる一冊であった。

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プラネタリウムのふたご

プラネタリウムのふたご

  • 作者: いしい しんじ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/10/14
  • メディア: 文庫


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