離れて得るもの、失うもの 「ニッポンの単身赴任」重松清 [人生や物事について考えたいときに]
「ニッポンの単身赴任」 重松清 2005年10月初版 講談社文庫
以前、同著者の「ニッポンの課長」を紹介した。
http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2005-12-06
今回は、家族を自宅に残して単身赴任している様々な仕事、環境の人々がルポされている。
青ヶ島に公募で教育長として選ばれた女性以外は、みな男性だ。
仕事人として、夫として、父として。
様々な事情からやむを得ず自宅を離れている人もいれば、
自ら選んでその地に赴いている人もいる。
イベントのように仲間と旅行やバーベキューをして「青春」を謳歌している人もいれば、
不倫に走ってしまう人もいる。
検事正を辞めて、「弁護士ゼロ地域」をひとつ減らすために、稚内に弁護士事務所を開く人もいる。
中国の成長に魅せられ、仕事に生きる人もいる。そして、南極を目指したとび職人もいる。
ここでは、大きく2種類のカテゴリーが2層構造で存在していると思う。
生活と家族の状況のために、やむを得ず単身赴任している人と、
自ら新天地を求めてそこへ赴いている人。
もう一つの構造は、それを楽しんでいるか、忍の一字で耐えているか、ということだ。
この狭い日本で、なぜ家族がバラバラにならなければならないのか。
少なくとも、望んでいない家族にとって、それは辛いことである。
多くの男性たちは、寂しい思いを何かで埋め合わせようとする。
それが楽しいことに転がるか、耐えるのか、不倫をするのか。それはその人の人間性による。
ただ、この作品を読んでいて、それぞれの関係を考え直す機会として前向きに捉え、
離れているからこそ絆を確かなものにしようとする家族もいることになんとなく救われる。
この文庫を発行するにあたって、巻末に「藤巻兄弟」(と言っても朝日新聞購読者でなければ
ご存じないかもしれないが)の弟、セブン&アイ生活デザイン研究所社長の藤巻幸夫氏との
対談がプラスされている。
ここで、最近の単身赴任、あるいは家族、夫婦、仕事人というものの状況や
コミュニケーションについて語られている。
やや藤巻氏はアグレッシブだが、重松氏とのバランスが絶妙で、これを読むだけでも
この文庫を読む価値がある。
その対談の中に、この作品の言わんとしているところが集約されているようにさえ思われる。
単身赴任している人も、その可能性のある人も無い人も、この本を読んで
「家族と仕事(あるいは生き方)との距離」を考えてみてはどうだろう。
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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。
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