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泣いても最後まで読んでほしい 「風の耳たぶ」灰谷健次郎 [人生や物事について考えたいときに]


「風の耳たぶ」
灰谷健次郎 2002年12月初版 角川文庫 (2001年理論社「風の耳朶」改題)

これを数年前に読んだとき、私はかなりショックを受けた。
何に、といわれてもうまく説明ができない。
それは多分、「高齢期をどのように生きるのか」ということを
うっすら考え始めていた自分へのアッパーカットのような作用があったのだろう。
その時、私は「老人になる」ということを何か勘違いしていたのだ。

これは、最も灰谷作品らしく、また、らしくないともいえる作品のように感じる。

この作品では80歳を超える高名な画家の夫と妻が二人で旅をする。
親友とその孫との交流、行こうと決めてきたいくつかの場所、
あるいは偶然訪れる今の日本を象徴するような場所への旅。

その旅が進むうちに、夫の生涯、そこに影のように張り付く
戦争によって過ちを犯してきた日本の歴史が浮き彫りにされてくる。
それらが決して「点」として終結しているのではなく、「今」につながっていることも・・・。

一方、高齢の妻の天真爛漫さは美しいまでに穏やかな温かみをもって夫に寄り添い、
時に夫の親友の若い孫としなやかな会話を楽しみ、
体の調子が悪いにも関わらず、旅が進むにつれてより若々しく初々しく輝いてくる。

この本を読み進むと、きっと辛い思いをするかもしれない。
過去の事実を知っていたとしても、知らずにこの本で知ったとしても、
その辛さには変わりはないのだろう。

しかし、その辛さを引き受けて生きることが、日本の歴史の流れの中で「今」生きている
私達の役目の一つであるようにも私は思う。

この本には不思議な魔力がある。
あるときは笑い、えっと思うような告白もある。
泣いても、辛くても、最後にはふと気づくと「救い」と「未来」が差し出されているのである。

タイトルに関わる部分はいくつかの場面に登場する。
ぜひその部分をご自分に引き付けて読んでいただけるとうれしい。

その部分を読むたびに、己の心を省みる自分である。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

風の耳たぶ

風の耳たぶ

  • 作者: 灰谷 健次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫


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コメント 4

初めまして。
はりなたるさんのブログでお名前は拝見していましたが、
同じ日に同じ作品を紹介していたので、
思わずコメントを残させて頂きます。
戦争という歴史が浮き彫りにされて、
哀しく思い気持ちになったりもしましたが、
読んで良かったなと思える本でした☆
by (2006-01-12 23:23) 

はりなたる

おはようございます(^^)
↑あ、Akikoさんもきてらっしゃる(^^)何となく仲間を見つけた気分でうれしいです(笑)

この本、私も持っています。今回の帰国でどうしても置いて行けなくて、持ってる本全部を持って帰ることにした作家が灰谷さんでした。これを読んで、祖母に会いに帰りたいって思ったんですよね。もっと話をしなくっちゃ。。。って。
by はりなたる (2006-01-13 03:10) 

ニライカナイ店主

Akikoさんへ>
初めてのご来店&コメントありがとうございます。
本当に同じタイミングだったんですね。何かご縁があるのでしょうか?(笑)
書いているように、私はこの本を文庫初版の頃に読みましたが、
齢をとってもきっと生きるという戦いはずっと続くのだ、と実感しました。
ただ、その中でも大切にしている友情は続き、新しい出会いもあり、
楽しい思い出も残っていく。ただ、やはり戦争体験者にとって、それが
どんな錘になっているか、それを主人公を通して若者にも知ってほしい
という強い思いが灰谷さんにもあるのでしょう。若者の象徴として薫平くん
が出てくるんでしょうね。できすぎの少年ですけれど。
お互い、耳たぶを触りながら時々柔らかな心が自分にあるのか、
考える時をもてるといいですね。
by ニライカナイ店主 (2006-01-13 09:25) 

ニライカナイ店主

はりなたるさんへ>
ナイスありがとうございます。
灰谷作品は「兎の目」をはじめ、気が付いたら結構読んでいる自分に
今更気が付きました。それも、読む時期によって感じるものが違うんです。
たとえば、「太陽の子」は、最初子どもの頃読んだときはアクが強くて
苦手だったのですが、最近再読したときは胸にせまるものがありました。
それは、その後沖縄の歴史を知ったことと、少しは人生を歩いてきた時間
がそういう気持ちにさせたのかなあ、と思います。
先生だったこと、沖縄に深く関係していたことなど、やはり灰谷さんの作品は
いろんな意味で歴史や人間の生き方、成長ということを考えさせられます。
私も祖母が健在の頃はよく一人でふらっと行って、茶のみ話をしたものです。
はりなたるさんも、帰国されたらおばあさまとの時間も持てるといいですね。
by ニライカナイ店主 (2006-01-13 09:33) 

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