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無常の世と繰り返す歴史 「新リア王」(下) [人生や物事について考えたいときに]


「新リア王」(下)高村薫 新潮社 2005年10月初版

この本を理解するために、本家「リア王」を飛ばしながらであるが目にした。
やはり、本家を読んでおいたほうが理解が進む、ということがわかり、反省。

下巻に入ると、やはり、凍り付いていた物語は溶けて雪解けの水のように流れ始める。
しかし、それはあまりに残酷な事実の・・・いや、ある意味では現実があるがままの姿を
現し始めるのである。

下巻では、主人公の青森県選出代議士を取り巻く血縁関係や、金庫番である秘書の死の謎が
さらに薄紙をはがすように核心に近づいてくるのだが・・・。

本家「リア王」では王と王女であったが、この「新リア王」は、まさに父と息子の物語であると思う。
エディプス・コンプレックスとは違うと思うが、父が息子を見る目、息子が父を見る目、
これは大きくずれている方が多いのではないか。
しかし、政治家一家においては、ここまでずれ込むものなのか、と驚愕する。

政治とは、こういうものなのか。

シェークスピアの「リア王」に描かれる、王の王女達への信頼、時代の変革をも拒絶する
自分の実績への自信、そして最後には一人取り残されて絶望の中、力つきていく・・・。

その「繰り返す歴史」を筆者は現代に置き換え、しかも青森という地方分権時代において
非常に厳しい状態にある地域を舞台に、「これでもか」という精緻な織物のように作り上げた
作品であると思う。
確かに、読みこなすのは困難だ。しかし、一度で読みこなせなくてもいいのではないか。
何度でも、取り組めばいいのではないか。

この作品をどう受け止めるか。
評価する、という力や立場に私はない。

リア王にたとえられた主人公の代議士を私は嫌いにはなれない。
彼は、ある時代には確かに国のことを考え、青森のことを考え、尽くしてきたのだ。
しかし、時代が流れていくこと、そして何より自分の足元から砂がこぼれ落ちていくことを
彼は考えもしなかった。

国とは、地域とは、政治家とは・・・。
すべては無常の世における出来事である。
一方、歴史は繰り返す。人間の愚かさと、もろさと、愛しさを思い知らせるように。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

新リア王 上

新リア王 上

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: 単行本


新リア王 下

新リア王 下

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: 単行本


リア王

リア王

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 文庫


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コメント 2

よねちゃん

こんにちは。
ニライカナイさんは物語がお好きですか?
シェークスピアとか一度は読んでみたいと思うのですが、なかなか・・・。
僕は理系なので最近は科学系の本をよく読みます。
最近面白かったのは、アインシュタインの相対性理論を分かりやすく説明してくれる本でした。
宇宙の神秘にずいぶんと引き込まれてしまってます~。
今度、自分のブログに記事を更新しますので是非ご覧くださいね。
それではまた!
by よねちゃん (2006-01-21 00:40) 

ニライカナイ店主

よねちゃんさんへ>
こんにちは。ご来店&コメントありがとうございます。
そうですね、どちらかというと物語、特にミステリー系にかなり
傾倒してきました。恋愛ものは苦手でしょうか。
やはり理系の友人がいまして、その人からドキュメントとか、私の目の
とどかない本を紹介してもらって、なんとかバランスを取っている感じです。
相対性理論には苦い思い出があります。
といのは、ブルーバックスかなにかでトライしたのですが、わからなかった
のです。生物OR化学を目指していた私にとってはノックアウトのような
ものでした。その本を紹介してもらえませんか?だめかもしれないけれど・・・。
実は理系志望だったのですが、数学でアウト、学際的な文系に転じました。
古傷ですね(笑)。そちらにもまた遊びに行きますね。
by ニライカナイ店主 (2006-01-21 09:28) 

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