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児童書ではあるけれど・・・「あらしの前」ドラ・ド・ヨング [人生や物事について考えたいときに]


「あらしの前」 ドラ・ド・ヨング作 吉野源三郎訳 
岩波少年文庫 1952年初版

「ゲド戦記」と「ナルニア国物語」シリーズを読んでしまった後、一時脱力感があった。
もちろん、成人を対象とした本には読みたい本がいくらでもある。
しかし、どこかでやはり児童書の中に見る真理のようなもの―それがファンタジーであれ、
リアルな物語であれ、そこから離れてしまうのは寂しい気がした。

そんな時、手に取ったのがおそらく中学生時代に一度読んだはずの
「あらしの前」「あらしのあと」であった。

これは、オランダの地方に暮らす愛に包まれた家族が、第2次世界大戦における
ドイツナチの侵攻を受けてどうなっていくのか、ということを子供にもわかる目線で・・・
つまり、完全に一市民の目線で描かれているものである。
あらし=戦争のことを意味してい。

前編にあたる「あらしの前」を読んでみると、昔読んでいたイメージとやはり違って感じた。
昔はせいて読んでいたのか、経験や知識の違いによるのか、物語の展開にばかり気をとられ、
この一家がいかに愛情に包まれた普通の家族であり、その家族に何がふりかかろうと
しているのか、というところまで読みこなせていなかったように思う。

地元の信頼あつい医師である父、それを助ける母、アムステルダムで学ぶ姉、
その下に思春期の少年が2人、まだ子供でありながら賢い少女、小さな弟、
そしてまだ赤ちゃんの妹、さらにナチに追われて逃げようとしているドイツに住んでいた少年を
預かっている。メイドたちも家族の一員だ。

学校生活や思春期の出来事、きょうだい喧嘩と思いやり、そして将来への夢。
子供達はそれぞれの日々をせいいっぱい送っていて、それらはサンタクロースを信じている
小さな弟のためのクリスマスの光景に象徴されている。

そんな小さな幸せを暗雲が取り囲む。

普通に、一生懸命幸せに生きようとしていた人々・・・・
そして、常にその一家の両親が信じていたように、心の中で平和、友愛を信じること、
政治的には中立を保つことで平和を維持してきた小さな国、オランダ。
それらのすべての努力を「戦争」という有無を言わせない圧倒的な暴力でなぎ倒そうとする様。
これは、決して他人事ではないことを心しておきたい。

この「あらし」が通り過ぎた後のことは、また「あらしのあと」の読後に記したいと思う。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

あらしの前

あらしの前

  • 作者: ドラ・ド・ヨング, 吉野 源三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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コメント 10

おはなし村ゆめ

ぜひ、探して読んでみようと思います。
児童書という分野に属している本って、深いですよね。
ところで、ニライカナイ店主様、いったい、いつ本を読んでいるの
ですか?すごくいっぱい読んでいて、また、読み込んでる。
それに、早いですよね。さすがや~・・・って思う反面、
本当に、いつ、どんなスピードで読んでいるのだろうと、
こっそり、のぞきたくなってしまう衝動にかられます(笑)
そういえば、あさって、ハリポタの新刊発売日ですね。
どうしよう、読みたいのに、だんだん、たまってきた感があり、
なぜかしら、落ち着かないです。(笑)
by おはなし村ゆめ (2006-05-15 22:47) 

お久しぶりです。
この本、是非読んで見たいです。実は小川洋子さん筆アンネの日記の軌跡を旅した本を読んで、この時代を書いた本を読んでみたいと思っていたところでした。それと、ゲド戦記読み始めました(^-^)v。
by (2006-05-15 22:59) 

トム

なんとなく風が吹くときを思い出しました、全く違う内容なのですが圧倒的な暴力に日常を奪われるというところがにてたのでしょう。
他人事ではないでしょうね、人間がいる限り戦争はありますから。
by トム (2006-05-15 23:13) 

武田のおじさん。

ソネットにログイン出来なくなり、ゲストでの訪問です。長い事更新しなかったのがいけなかったのかな~?って言っても数日のことだけど・・・。
なんどもログインするけどゲストのまんまです。暇が出来たら直接ソネットに問い合わせするつもりですがしばらくは更新出来そうにありません。
その間に素敵なネタを仕入れることが出来たらいいのですが・・・笑。
by 武田のおじさん。 (2006-05-16 00:22) 

福fuku

はじめてコメントを書きます。よろしくお願いします。。最近、あまり本を読んでいなかったのですが、ニライカナイさんが薦めてくれると「読んでみよう!」という気になるので、これからちょっとずつ読んでいこうと思います。
by 福fuku (2006-05-17 20:21) 

ニライカナイ店主

おはなし村*ゆめさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。何分、読書は生きる糧、NO BOOK
NO LIFE ですからね。集中し始めると、見境がないんですが・・・
今回は少し間がありましたからね、そんなに特別はやいとは思わないのですが・・・。ハリポタ、今日発売日でしたね。残念ながら我が家にはあれらをハード
カバーで全部置くスペースがないので、今まですべて早めに図書館で予約
しています。今度はいつ頃やってくるやら・・・。このカフェでもご紹介できれば、
と思います。前回が結構ハードな内容だったので、今回はきっと大人のハリー
に会えるのでは、と楽しみです。
by ニライカナイ店主 (2006-05-17 22:20) 

ニライカナイ店主

ラパンさんへ>
ナイスありがとうございます。「アンネの日記」は子供の頃読んで、いろいろ
考えさせられました。さらに、その頃ホロコーストなども見ていましたし(あっ、
ラパンさんの年齢だと?かな?)。この話も直接戦争自体は書いていないの
ですが、次回記事の「後」を読むと、それが子供達にとってどんなに心から
傷つけたのかが痛いほどわかります。
さて・・・ゲド、3巻にたどり着くまでは辛いと思いますが、乗り越えてくださいね。そして、5巻まで、さらに必ず外伝も読んでくださいね。応援しています!
by ニライカナイ店主 (2006-05-17 22:24) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイスありがとうございます。「風が吹くとき」はたしかスノーマンの作者と同じ
人が核の問題を取り上げたものでしたね。たしかアニメ化も?
ちょっと似ていますが、もっとリアルに人の心に踏み込んでいます。
絵本と本の違いだとは思いますが。ただ、日本とオランダの大きさや立場は
とても似ているのに、当時一般市民であるこの一家の両親の平和に関する
考え方には敬服しました。この考え方は、今の時代にも決して古びては
いないと考えます。
by ニライカナイ店主 (2006-05-17 22:35) 

ニライカナイ店主

武田さんへ>
ご来店、ありがとうございます。どうしちゃったんでしょうねえ?
早くつながることを祈っています。お時間のあるときに、また遊びにきてくださいね!珈琲でもご用意しておきます。
by ニライカナイ店主 (2006-05-17 22:37) 

ニライカナイ店主

福fuku さんへ>
初のご来店とコメント、ありがとうございます。
当店は私の独断で「これはご紹介したい!」という本をお茶でも飲みながら
手にするように感想を読んでいただきたい、というコンセプトで開店しています。
少々個人的な趣味に偏ってもいますが、何かの参考になればうれしいです。
またぜひ遊びに来て、ほかにお薦めの本などがありましたら教えてくださいね!
by ニライカナイ店主 (2006-05-17 22:40) 

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