戦争が子供達の心に残した傷とは 「あらしのあと」ドラ・ド・ヨング作 [人生や物事について考えたいときに]
「あらしのあと」 ドラ・ド・ヨング作 吉野源三郎訳
岩波少年文庫 1952年初版
あの平和で恵まれた自然に囲まれたオランダの田舎「レヴェル・ランド」につつましくも実直に
暮らしていたフォン・オルト一家。
前作「あらしの前」ではそののびのびとした暮らしぶりと、両親のしっかりした考え方を描きつつ、
最後にはとうとう「戦争」という嵐が一家をまきこんでいこうとする様子を示唆しながら
幕を閉じている。
この「あらしのあと」では、ナチスに5年間占領され、街並みも破壊しつくされ、
人々を恐怖に落としいれ、命さえも奪っていった戦争が終わり、
1年がたったところから始まっている。つまり、前作から6年の年月が流れている。
もちろん、前作に登場した人々、特に子供達はそれだけ成長している。
生きている者は・・・。
作品の中では、戦争がいかに子供達の心に気がつかないうちに大きな影を落としてしまうのか、
それを克服するのが、いや、そのことに気がつくことさえどんなに難しいのか、ということが
見事な表現で描かれている。
しかし、オルト家の大人たちはそんな子供達を見守り、昔と変わらずしっかりと育てた。
いつしか子供達も自ら「戦争の傷を自ら癒す」という困難な壁を乗り越えようとしていく。
戦争中の暴力、荒々しい地下組織で生き抜いた若者が、その気持ちの切り替えができず、
平和になったときにその年齢らしい生き方にどう戻っていくのか。
夢を実現することに対し、戦争で起こった出来事によって臆病になっている少女が
いかに夢に向かっておそるおそるその一歩を踏み出そうとするのか。
そして、永遠に失ったかけがえのないものに対する悲しみをどう乗り越えていけるのか。
子供達や若い世代の目と行動をとおし、そしてまた新たな人々との出会いの中で、
この一家は戦争で傷ついた心に、新たな種を蒔こうとしていく。
その過程は決して簡単なことではない。
しかし、その次第を丁寧に描いたこの作品は子供達にだけでなく、親の立場にある人、
また教育に携わる人、そして政治に決定権=選挙権を持っている大人たちにこそ、
そこに横たわる「平和を守ることの重要さと困難」を考えるべきと訴えていると感じる。
簡単に強い力で弱いものを排除しようとする流れのある現在の世界の中で、
小さな私達の国、日本とオランダは似たもの同士である。
日本人一人ひとりが心の中で平和のためにできることがある、ということを
この本は教えてくれるのだ。
そして、それはこの作品に描かれている当時のオランダの一家族の大人たちからも
学ぶことができることを、この本を持って感謝すべきだと思う。
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