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難民キャンプに見る本と人の力 「図書館への道」 [人生や物事について考えたいときに]


「図書館への道 ビルマ難民キャンプでの1095日」 
渡辺有里子著 2006年1月初版 鈴木出版

この本を薦めてくれたのは、図書館に勤める友人だった。

その人は「この本を読んでいると、まだまだだと思った」とつぶやいた。
それはおそらく、彼女の図書館における活動が、ということだと思うのだが、
私から見れば彼女は自分の職場の中で求められるレベル以上のことを努力しているし、
新しい企画や担当の児童書におけるイベント、試み、そして市民グループと行政側の間にたって
十分なほど活動している。

その彼女をして「まだまだだ」と言わしめたものが何なのか、ぜひ読んでみたいと思い、
この本を手に取った。

この本では、著者が約3年間タイ国境のビルマ(あえてここではビルマという表現とする)の
難民キャンプで、図書館を立ち上げる活動をしてきた様子、その背景が語られている。

著者の渡辺さんは大学卒業後、(社)日本国際児童図書評議会
(「子供の本を通して国際理解を」という理念のもとに設立された国際的団体の日本組織)に
6年間勤務、その後私立小学校の司書教諭を2年経験し、その後
(社)シャンテ国際ボランティア会(SVA、タイ・ラオス・カンボジア・アフガニスタンに事務所を置く
教育・文化支援団体)からこの本の舞台となるビルマ難民キャンプへと旅立つ。

この本では、そのSVAでの活動、まさに難民キャンプに暮らす人々と協力しながら
現地に図書館を地域ごとに建設するところから始まり、図書館をどう運営するか、
どんな本を置くか、子供の本と大人の本の住みわけ、さらに、彼女が主に携わった
カレン族の図書館にカレン族の言葉で絵本を作る苦労などが描かれている。

また、彼女がどうしてそのような活動をするにいたったのか、という背景も語られている。

彼女は家族の影響もあり、絵本や多くの良き児童書に囲まれて育った。
その経験から、SVAで難民キャンプに図書館を建てる、という活動に縁あって中心となり
関わっていくのだが、皆さんも予想されるように、なかなか簡単に物事は運ばない。

この本の中で私が主に感じたのは、1 本の持つ力、しかも子供に本や絵本が与える影響は
その子供の一生に影響するほど大きいのではないかということ、 2 子供が自分の国の言葉で
本を読むことができない、ということは、自分のバックボーンである文化を失うことにつながる
恐れさえあるということ、 3 支援・援助は一方的なものではなく、共に考え方をぶつけ合って、
歩み寄り、一緒に進んでいくことなのかもしれない、ということであった。

たとえば、紙芝居を作る場面がある。
難民キャンプでは紙一枚も貴重だ。
しかし、ベテランのボランティアは図書館のすぐ回りに生えていたり、落ちている南国の葉っぱに
絵を描いて、それでも立派な紙芝居になりうることを地元スタッフに伝える。
地元スタッフは、自分達の持っているものでも十分子供たちへの図書館サービスを豊かにし、
文化を伝えていけることに開眼するのだ。

この本は、著者による、本当に素直な活動の記録である。
そこらから読む人々が感じること、得るものは人それぞれであろう。
ボランティアをするには、まずその地の文化と歴史を知らねばならないこと、
その地と日本のかかわりを知らねばならないこと、そして、最後はその地の人々が
自分達の文化に誇りを持ち、自ら文化を子供達に伝えていく活動を続けていけるような道筋を
つけることこそ本当に必要とされていることだということ、等々。

最近、本を読めば読むほど、自分がどれだけ無知なのかを思い知らされる。
アジアの本を読むたびに、そこで日本がかつて行ってきた残虐な行為にあまりに無知なことに
反省を通り越して愕然とする。

知識として表面を知っていても、そこに生きる人々の心にどれだけの傷を負わせ、
日本というイメージがどう受け取られているのか、どれほどわかっているか。
きっと、著者もそのことについては何度も心を痛め、考え込んだことだろう。

この本を薦めてくれた図書館の友人が「まだまだだ」と言ったところとはきっと少し違うところで、
私もまた「まだまだだ」と心からつぶやいたのである。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

図書館への道―ビルマ難民キャンプでの1095日

図書館への道―ビルマ難民キャンプでの1095日

  • 作者: 渡辺 有理子
  • 出版社/メーカー: 鈴木出版
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 単行本


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コメント 6

chiko99

初めまして。私も図書館で働いています。
将来的にはボランティアで図書館を作る活動に関わっていきたいと
思っています。でも、まだまだ自分の実力が足らないので、勉強中です。
いちから図書館を作り上げていくにはかなりの知識が必要だし、
その国の文化も理解しないといけないですよね。
でも、本当に本の力は偉大です。この本、ぜひ読もうと思います。
by chiko99 (2006-06-04 20:55) 

おはようございます。
本と音楽って、いつも共通点が多いな~とニライカナイさんの
言葉を読むと思うのですが
『子供が自分の国の言葉で本を読むことができない、ということは、自分のバックボーンである文化を失うことにつながる恐れさえあるということ』
は、ハッとしました。
識字なんて、日本に住んでいる私たちは当たり前にできることなのに
満足に教えてもらえない国があることをしっかり認識しないといけないと私も思いました。
音楽と違って、「感じる」だけでは伝えたり、表現したりできない。
文化や歴史を後世に伝える役目を持つ・いろいろ学べる・創造力想像力を豊かにしてくれる・・・そんな「本」を多くの子ども達が読むことができたら本当にいいですね。
by (2006-06-05 07:26) 

ニライカナイ店主

那由多さんへ>
はじめてのご来店&ナイスありがとうございます。
図書館のお仕事をされているようですが、結構体力勝負ありとも
聞いています。たくさんの本を抱え、腰にくる人が多いようですね。
担当は児童書ですか?またぜひ遊びに来てくださいね。また、お薦めの
本がありましたら、教えてください!「本の力」、本当にすごいと思って
そのよき力をお伝えしたくてこのブログも続けている次第です。
by ニライカナイ店主 (2006-06-10 07:32) 

ニライカナイ店主

ねこばすさんへ>
ご来店&ナイスありがとうございます。ねこばすさんのコメントも、
いつも読んで考えさせられることが多く、たのしみにしております。
島国、しかも一つの国語だけの私達の国と違い、地続きの国々が争うと
まず何をするか、ということが如実にあらわれていると思います。
ふとキュリー婦人の伝記を子供の頃に読んだことを思い出しました。
あの時も、学校の先生がこっそり自国語を教えていて、急に入ってきた
侵略国の視察団の前で彼女が他国語で見事にこたえた、とい場面です。
子供時代に読んだとき「こんなことがあっていいのか」と思いましたが、
今はそれでも教えようとしていた先生の気持ちが痛いほどよくわかります。
アジアにとどまらず、ヨーロッパにもあったこういうこと、そして接収されていた
沖縄にも言葉に関わらず同様なことがあったことを忘れないようにしたいものです。
by ニライカナイ店主 (2006-06-10 07:41) 

YumYum

blogをはじめてから図書館へ行く事が急に多くなりました。いろんな図書館を折に付け訪問しています。こんなに気軽に、近くで図書館が利用でき、本が読める私達は幸せ者なのですね。居眠りしたり、携帯を使ったりするマナーの悪い利用者に読ませたいぐらい。
by YumYum (2006-06-10 21:11) 

ニライカナイ店主

YumYumさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
お返事遅くなりました・・・確かに、私も生活形態が変わらなければ、
結構近い市の中央図書館にこんなにいくこともなかったし、リクエスト
することも、本を読む時間も避けなかったかも、とふと思いました。
今まで納めてきた市民税を一気に図書館で取り戻している感じ(笑)です。
あの本の館にいると、なんだか守られているような、不思議な安心感が
あります。まあ、時間があるときだけですけれどね。図書館で大声で携帯は
確かになしですよね、寝るのは・・・うーん、いびきをかいていたらアウトでしょうか。
by ニライカナイ店主 (2006-06-14 21:10) 

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