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犬だけが真実を知っている? 「さくら」 西加奈子 [人生や物事について考えたいときに]


「さくら」 西 加奈子 2005年3月初版 小学館

私は犬を飼ったことがない。
それどころか、多分、命の短かった縁日の金魚くらいしか飼ったことはなかった。

きっと、犬を飼ったことのある人がこの作品を読んだら、
もっと深い何かがみつかるかもしれない、とふと思った。

そう、タイトル「さくら」は、ある意味でこの作品を通して登場するある家庭で飼われている
雌犬、サクラに由来している。
しかし、なぜそれなら「サクラ」でなく「さくら」だったのか。
深読みしようと思うといろいろ考えられそうだ。

この作品は、ある普通の一家のできごとを通して、愛のいろいろなかたち、
さらには生き方の様々なかたち、人の思い、何が実は「普通の生活」を支えているのか、
ということを描いている。
その展開に最初はとまどうかもしれないが、最後にはそれも納得できるかもしれない。
流れとしてはそんなにつっかえるところ無く、最後まで読みきれるものになっている、と考える。

人物の気持ちの表現がうまいな、と素直に思う。
言葉を通して。しぐさや行動を通して。ここの登場人物の誰かのどこかに、
皆、自分を投影させることができるかもしれない。

また、色々な人々が出てくる。
読み終わってよくよく考えると、「これだけいろんな人が本当に一家庭にかかわるものだろうか?」
と思わないでもないが、それをあまり無理に思わせない作家の上手さがある。
今、課題になっている問題をうまくはらんでいるとも思う。

正直に言うと、この作家にとってデビュー2作目と思えないくらいこの物語は大変よくできている。
そして、素直に読んでよかったとも言える。
辛い場面もあり、人によっては必ずしも受け入れられない部分もあるかもしれない。
また、あまりにあっけらかんとした若者のライフスタイルに「いいのかな~」と思うかもしれない。
でも、現実って、こんなものなのだろう。
そして、最後にはちゃんと「救い」があるような気がする。
それが本当の「救い」なのか、表向きの気休めなのか、それは誰にもわからないのだが・・・。

私にとって最もこの本で心に残ったのは、実は普段気がつかない目立たないものが、
大切な絆になっている、ということであった。
その絆も、やはりあまりの加重には耐え切れない。
やはり、絆は互いが手をつなぎあって、支えあってこその絆である、ということ。
絆を結び合うものは、そのことにまず気づくことが大切なのだろう、と感じた。
それがどのように描かれているのかは、ぜひこの物語の中に見つけて欲しい。

余談だが、この物語の冒頭で、この飼い犬サクラを病院に連れて行ったとき、
主人公が待合室でほかのおばさんが歌う何語かわからない歌を聞き、
それがなんの歌なのかずっと気になり続ける、というくだりがある。

いわば、外国の言葉に日本語をあてているような感じで表現されているのだが、
私は「なんとなくあの曲のような気がする・・」と思いつつ読み進めていたら当たりだった。

さて、皆さんは気がつくであろうか?
CMにもなっていたので、若い方でもご存知かもしれない。
そんな楽しみも含めて、色々なことを考えながらこの作品に触れて欲しい。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

さくら

さくら

  • 作者: 西 加奈子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/02
  • メディア: 単行本


nice!(4)  コメント(6) 
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コメント 6

こんにちは(^^)
わたしもこの本読みたくて図書館で予約しています。
ニライカナイ店主さんの記事でさらに読みたくなって待ち遠しいです(^^)
わたしも犬というか動物を飼ったことがないです。
当たり前なのですが人間より短命なのでどうしても怖いんです…
でも動物はすっごく好きで…って矛盾しているのです(^^;)
by (2006-06-10 18:25) 

まそ

はじめましてです(._.ゞ)
これ読みました。デビュー2作目と知ったときは自分もビックリでしたww
読み終わって「恋愛」に対する見方が少し変わりましたね。特に同性愛者への・・・。色々考えさせられる御話でした。
by まそ (2006-06-10 22:02) 

こんにちわ。
難しそうなテーマ、奥の深そうなお話ですね。
すごく気になるので、さっそく図書館予約してみたいと思います。
by (2006-06-13 07:49) 

ニライカナイ店主

いつもだとお一人ずつお返事書くのですが、ブログがこのような状況なので
まとめてで失礼します。

madoccoさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
なかなか切ない話です。はやく順番がくるといいですね。私もずいぶん
待ちました・・・。動物を飼う、ということについて・・・確かにそうですね。
矛盾しながら、いつもうーんと考えている自分が時々笑えてきます。

まそさんへ>
ご来店ありがとうございます。確かに、いろんな形の恋愛、人間関係が
描かれていて、新しい切り口に発見もある作品ですよね。
もりだくさんで、よくここまでまとめたなあ、と感心します。
それを覗いても、読後感が切なくても、読んでよかったと思う一冊です。

norizo!さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。
ぜひ読んでみて下さい。本当にあれもこれもで少々よくばり?とも思いますが
よく最後に収集つけています。この作家さん、そんなに量は書かないのかも
しれませんが、今後チェックしていこうと思います。

ホシさんへ>
ナイスありがとうございます。この状況だとコメント書くのも一苦労ですね~。
私もやっとひさびさに新記事をアップしてみました。
また楽アクセスになったら遊びに来てくださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-06-14 20:58) 

おはなし村ゆめ

ニライカナイ店主様。お久しぶりです。
ここへくると、なんだかホッとします。本当に、お気に入りのカフェみたい。
自分のブログは、ちょっと、さぼってしまっていましたが、
その間、作品をつくったり、本をじっくり読んだり、音楽にのめりこんだり
していました。また、そろそろ、更新しようとおもっています。
久しぶりにきてみたら、またまた、よさそうな本が紹介されていて、
また、ブログを更新できなくなりそうです(笑)
この本は、ぜひ、読んでみたいと思いました。
今から、図書館に行くので、探したいと思います。
「いってきま~す(^^)/」
by おはなし村ゆめ (2006-06-24 13:47) 

ニライカナイ店主

おはなし村*ゆめさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。そういっていただけると、ほそぼそ
ながら続けていてよかったなあ、と思います。
ゆめさんのところにもあとで伺いますね。
いろいろなペースがありますから、お互いブログアップも楽しみつつ、
マイペースでやっていきましょう。いつでも当カフェに遊びにきてくださいね。
by ニライカナイ店主 (2006-06-26 02:02) 

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