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自分と他人の痛みを感じること 「包帯クラブ」 [人生や物事について考えたいときに]


「包帯クラブ」 天童荒太著 2006年2月初版 ちくまプリマー文庫

天童荒太といえば「永遠の仔」・・・というイメージがあると、
その重さに比べるとややかろやかな作品である。

とはいえ、高校生の少女たちが自分や人の「痛み」を知り、できるだけ共感し、
その「痛み」を癒しの象徴「包帯」を用いて乗り越えていこうとする様は、重さを伴いつつ新鮮だ。

というのは、最近の若い人を主人公にした小説で「人(自分を含め)の痛み」、
そしてそれを正面からとらえて、その時自分にできることをしようとするストレートな物語は
描かれてきたようで、そうではなかったような気がするからだ。

今まで、そうした痛みは紆余曲折を経てねじまがった、「なんとなくはわかるけれど・・・」という
ところで表現が止まっていたと思う。
あるいはあることをきっかけに、結果的にそうなりました、という展開説明ならあったかもしれない。

正面からその痛みに向き合うという難題は「ださい」「うざったい」(もうこれらも死語かもしれないが)
そして「個人の問題」としてなぜか敬遠されてきた。
それは最近までの強い傾向でもあって、そういうことにこだわろうとする物語や登場人物は
煙たがられたり、変わり者として扱われたり、描かれることさえ少ないかもしれない。

しかし、中学から高校時代には、どこかでぶつかる壁であり、課題のようなもの
なのかもしれないとこの本を読んで思った。
こんなテーマを今、正面から切り出す作家がまだいたのだ、とちょっと嬉しく思った。

登場人物たちの「傷」は深さも種類も状況も様々だ。

主人公の少女の、冷めていながらも「これでいいのか」と思う気持ちは
大切な宝石のように私には感じる。既に自分が失ってしまったかもしれないものだからだ。

特に、人の傷、というものについて、大人になると触れることがまるでタブーのようになる。
また、それを一人で解決することが「大人ならあたりまえ」「社会人なら当然」という雰囲気が
あるからかもしれない。

しかし、私もかつて、彼女たちのように人の痛みを共感しようとしたし、
自分の痛みを乗り越えるために苦しんだ。
今、そのことが大人という範疇になっても「あり」なのかもしれない、とふと思わせる作品である。
だから、若い人にも、ある程度人生を歩いてきた人にも、読んでみてほしい。

物語の途中で、物語後の彼女達の様子がメールなのか、ブログなのか、メルマガなのか、
なんらかの情報ツールで展開され、さらりと「その後」の彼女たちが何をしているのかが描かれる。
それはできすぎだ、と思う人もいるかもしれない。
でも、その行き先に納得もするし、そうあってもいいんじゃないか、とも思う。

ハンディサイズの新書版だし、一気に読める内容なので、ぜひ読んでみてほしい。
過去の自分をふりかえり、少し自分や周囲の気持ちについても思いを馳せる時間が
訪れるかもしれない。

案外、自分の「傷」から逃げている人も多いはずだ。
それをみつめて本来の自分を見つける時間は、今この時代に一番大切なものであり、
そうしてこそ他者をも本当に大切にできるではないかと思う。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

包帯クラブ The Bandage Club

包帯クラブ The Bandage Club

  • 作者: 天童 荒太
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2006/02/07
  • メディア: 新書


nice!(3)  コメント(5) 
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コメント 5

こんにちわ。
読まれましたね、包帯クラブ。
これまでの天童さんに比べると、とても軽くて読みやすい印象でした。
(まぁそれでも重たい話ではあるのでしょうけど。。。)
思春期の痛み、思いを思春期の人に向けて書かれた小説なのかな?
と思いながら読んでました。
もちろん大人が読んでも理解できる悩みや共感できる思いは多かったと
思いますが。
乗り越える痛み、乗り越えられない痛み。
自分の中にあるそう言ったものを強く意識させられた作品でした。
by (2006-06-19 23:15) 

ニライカナイ店主

norizo!さんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。やっと順番がきて図書館から
借りることができました。構えていたのですが、一気に読めましたね。
でも、相変わらずこういうことを文章にするのが上手な人だなあ、と
思いました。共鳴した人の中には、ある意味救われる人も(特に若い人の
中に)いるかもしれないな、と思いました。
by ニライカナイ店主 (2006-06-23 22:51) 

ニライカナイ店主

ホシさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます!やっとコメントがかけるようになったので
更新する気になってきました~。
by ニライカナイ店主 (2006-06-23 22:51) 

こんにちは(^^)
ニライカナイ店主さんの記事を読んですごく気になりました。
いろいろ考えさせる内容ですね。
ぜひ読んでみようと思います。
by (2006-06-24 15:08) 

ニライカナイ店主

madoccoさんへ>
ご来店ありがとうございます。
若い登場人物が正面から「傷」と向き合おうとする姿に、ぜひ立ち会って
みてほしいと思います。
by ニライカナイ店主 (2006-06-26 01:58) 

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