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昔と今の自分を比べて 「もう一度読みたかった本」 柳田邦男 [人生や物事について考えたいときに]


「もう一度読みたかった本」 柳田邦男著 2006年3月初版 平凡社

この本は、著者が過去に読んだ25冊の本、あるいは24人の作家について、
再読した感想や若い時に読んだ感触との違いをまとめているものである。

「あすなろ物語」(井上靖)あり、「小僧の神様」(志賀直哉)あり、「チップス先生さようなら」
(ジェイムズ・ヒルトン)、「悲しみよ、こんにちは」(フランソワーズ・サガン)あり。
サガンの章では、こういう作品があったのだから、今の日本の若い女性作家のデビューで
驚くよりも、やはりサガンのほうが新鮮だったのかもしれない、など現在の文学界との比較も
気軽な表現で書かれている。

この中の本では、3分の2は私も読んだことがあり、ピックアップされている作家の
何かしらの本は読んでいた。
まあ、そういう有名どころの作品が主なので、皆さんも手に取りやすいと思う。
さらに、その作家やその周辺にも話が及ぶので、新たな作品につながることもあるだろう。

著者の感想を読んでいると、なんとなく私もその本を再読し、昔読んだ感じと
どう違っているのかを確かめたくなる。
だいたいがいわゆる「名作」とか、これは読むだろう、という作品であるからかもしれない。

中でも、ヘミングウェイの「老人と海」に関しての著者の記述にはうならされる。
「あまりまじり気のない気持ちで本の中野世界に引きこまれ、浸り」きっていた若い頃とくらべ、
「娑婆に出て」何十年かすると経験が自分の中に浮かび上がり、
それが人生後半の読書の特徴になる、というようなことが書かれている。

「老人と海」の一見くりかえしの退屈な老人の心理描写の中に見られる
体力の衰えた自分と、対峙している大物とが、まるで同じもののように思えてくるという表現が
ヘミングウェイ自身の気持ちであったことがよくわかるというのだ。

若い頃、教科書や様々なテキスト、あるいは進められて「これくらいは・・・」といわれ
読んだ本たち。
確かに「名作」といわれているものには、何かしら語るものがあった。
漱石・鴎外が教科書から姿を消そうとしている今、若者達は何を柔らかな心で
受け止めて生きていくのだろう。

そして、私達はその「新たな作家たち」とも出会いながら、
それでもやはり「名作」との再開を楽しみつつ、初読の時気づかなかった事柄、
あるいはこの年齢になったから気づくことごとをどこかに残しておきたいと思うし、
自分の人生の道のりを確かめる道標にもしたい。

そんなことを思わせる一冊であった。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

もう一度読みたかった本

もう一度読みたかった本

  • 作者: 柳田 邦男
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2006/03/18
  • メディア: 単行本


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