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40代女性たちの絆 「ひとがたながし」 北村薫 [思いきり泣きたいときに]


「ひとがた流し」 北村薫 朝日新聞社 2006年

北村氏の物語は、よく埼玉が舞台になる。
今回も、埼玉が舞台なのだが、これがなんとなくほっとさせる。
東京でも地方でもない、微妙な地域。これがなんともリアルなのだ。
確か、著者も埼玉在住又は住んでいたことがある、と思った。

それはさておき。
この物語は40代半ば~後半と思われる3人の女性の物語である。
ある意味では、友情の物語であり、生き方の物語である。

主人公はTVのアナウンサーとして、着実にキャリアを積んできた。
今、まさに朝の看板番組のメインを任されようとしている。
彼女のそれまでの努力、姿勢がむくわれようとしている。
一方、彼女は独身であり、既に両親は他界している。
唯一の相棒は猫のギンジローである。

その主人公の小学生時代、そして高校、大学以来の友人が二人いる。
家で物書きをしている大学受験中の娘をもつシングルマザーと、
写真家の夫のフォローをしている大学生の娘をもつ母。
この3人のトライアングルを中心に、娘世代、そして夫を含め、この物語は幕を上げる。

女性は結婚して家庭を持つとつながりがきれがちだ、というけれど、
それは今では通用しない話だろう。
男だって、つきあいがやたら好きな人もいれば、今は家庭第一、自分第一の人も多い

女もそうだ。女性の友情の結びつきは最近は強いらしい。

特に、離婚して小さな子どもを抱えた女性にとって、その娘の成長に関わってくれる
気心の知れた女友達はかけがえの無いものであり、娘にとっても家族の延長となるのであろう。

主人公と友人ふたりの娘たちも、ある意味ではそのような関係である。
年齢の違う母ではない同性の知り合い、というのもあるとき大切な存在になるかもしれない。

物語は、孤独な時を乗り越えながらも仕事では順調であった主人公に起こった
大きな「できごと」から大きく向きを変えて展開し始める。
その時、一人の女性はどう生きていくのか。
その時、友人たちはどう主人公を支えようとするのか。

この40代の3人の女性の生き様と、支えあい引き合う友情を読んだとき、
皆さんはどう思うだろう。

私は、なぜか大きな桜の木を思った。風に舞う花びらとともに。
日々が流れても時がくれば必ず思い出す、忘れることはできないもの・・・

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ひとがた流し

ひとがた流し

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本


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コメント 4

歩林

これまた、興味深い本です!いつも参考になりますよー。
昨日、東野圭吾さんの「手紙」をよみおえたところでして。
「手紙」をよんで、自分にもふりかかるかもしれない出来事として
とてもとても考えさせられる作品だと思いました。「道徳」とは別に
わかってるけど、やっぱり嫌だって思うことが人間にはあるんだろうなって
思いました。
ニライカナイさんはどう感じられましたでしょうか?もし読んでいたら教えてくださいね。(読んでいなかったら、すみません!!!)
by 歩林 (2006-10-11 19:51) 

ニライカナイ店主

歩林さんへ>
ナイス&さっそくのご来店ありがとうございます。(開店と同時でしたね!)
実は、コメントを読ませていただいて、どきっとしました。
私にとって北村氏と東野氏については因縁があるのです。
私個人の思い込みなのですが、このブログでもご紹介(http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2005-12-05)した北村氏の「スキップ」という作品があるのですが、これと何年かあとに出版された東野氏の「秘密」の
根底が似ていて、ショックを受けました。ディテールは違うのですが、多分
主人公の心理は同じだと思うのです。
「スキップ」は出版時に海外で出版されたある作品とも似ていると問題に
なったり北村氏も大変な思いをした作品だったわけです。
もともと東野氏に対してはそれまで特別な感情もなく、たまに読んでいたの
ですが、この1件以来、どうも私は東野氏の作品からは遠ざかっています。
よって、「手紙」も立ち読み以上は読んでいません。
東野氏は最近受賞もされて、いい作品をお書きになると友人からも
聞いているので、最新刊あたりからは読んでみようかと思っています。
悪意は全くないのですが「スキップ」があまりに衝撃的な内容で、
感じるところが大きかったもので・・・。
その何年もあとに出された「ありがちなテーマ」であったかもしれないのに、
東野氏のほかの作品にどうしても手を出すことができずにいました。
というわけで役に立たずにすみません。私もまだまだ青いですね~。
by ニライカナイ店主 (2006-10-11 20:24) 

いちご☆

お久しぶりです。
私は 社内結婚ですので 主人と結婚するさい 退職しか考えませんでした。
それからは まったく 働いていなくて 私が あのまま 会社にいたらって
思うこと あります。 とっても こころにひびく本だなって思いました。
私の周りでも いろんな生き方をしている人がいますから・・・
by いちご☆ (2006-10-13 22:52) 

ニライカナイ店主

いちごさんへ>
ナイス&ご来店ありがとうございます。いかがお過ごしでしたか?
この作品は、多分30~40代の女性の心をいろいろな意味で揺さぶる
作品だと思います。女性のほうが、男性よりも様々な事情で多様な生き方
をする可能性もあり、道の途中で立ち止まることも多いのではないでしょうか。
この作品は、いろいろな生き方があること、数はすくなくでも大切な友人が
いることのありがたさを教えてくれるような気がします。
仕事を続けていたら・・・といういちごさんの気持ちもありますが、仕事を続けて
いたら失うものも大きかったかもしれません。一度選んだ道はそのときあなた
が一生懸命選んだものなのでしょう。大切になさってくださいね。
そして、これからもお互い、友人は大切にしたいものです。
by ニライカナイ店主 (2006-10-15 11:12) 

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