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あなたの「最愛」とは?新保裕一「最愛」 [人生や物事について考えたいときに]

「最愛」 真保裕一 新潮社 2007年1月初版

「最愛」の人、という言葉をよく見聞きする。

ところで、最愛、とはどのような愛なのか。
このタイトルが記された真紅の表紙を見ながら、しばし考えていた。

冒頭、主人公である中堅の小児科医師たちとその上司でもある病院長が
命について会話した内容が綴られる。
「人の命は、人生という物差しを当てて測るほかはない」
普段は煙たがられている病院長の言葉に、医師たちはうなづくのだ。

この小説は、主人公の姉を中心として関わった人々の人生を
まさに「物差しを当てて測る」ように、主人公が深く掘り下げていく物語である。

ある日、主人公のもとに
姉が事件に巻き込まれて危篤状態になっているという連絡が入る。

瀕死で言葉など交わせる状態ではない姉が、主人公に日常に紛れて忘れていた過去と、
姉の生き様の真実を突きつける。

姉は何故このような目にあったのか。
そして、何故この事故の前日に誰にも知らせず、妻殺しの前科を持った男と入籍したのか。
主人公の姉の人生を浮き彫りにする疾走が始まる・・・。

読み終わった後、一時放心状態になってしまう。
それが真保氏の作品の読後によくある後味だ。
その後味が悪いものか、いいものか、そういう白黒つけられない複雑な気持ちに
いつもさせられてしまう。
多分、読み手によってそれは、大きく異なるかもしれない。
なぜなら、主人公に登場人物たちの人生を推し量る作業をさせながら、
作者は実は読者自身をも巻き込み、読者それぞれが気がつくと自分の人生を振り返る
ような力を作品にこめているからだと考える。

だから、弱っているときには実はこの作者の小説はキツい。
しかし、乗り越えてそれを読みきった時見えてくるものは、
決して自分ひとりでは見られない情景なのだとも言おう。

この作品の中には良心的な人、自己中心的な人、
不器用な人、悪意に染まっている人など、あらゆるタイプの人種が登場する。
作者はその一人ひとりを主人公の姿を借りて浮き彫りにしていく。
人間のいやなところにも目を背けず、ありのままに。

読み手はスピード感のある展開に、いやおうなしにそれに付き合うことになる。
このスピード感がなければきっと目をそらしたくなる出来事も綴られ、物語は進む。

最後まで、いったいどうなるのか予想もつかない。
しかし、その最後の最後をどう受け止めるか。
それはやはり読み手ごとに違うのだと思う。
まさに、読み手の人生を物差しすることになるのであろう。

さて、「最愛」という思いについて、あなたの物差しはどう答えを出すのだろうか。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

最愛

最愛

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 単行本


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コメント 1

ニライカナイ店主

はっこうさん、金持ち母さん、
ナイス&ご来店ありがとうございます。
真保氏はデビュー当時から追ってきた作家さんなので、
いろんな面を見せつつ成長していく姿を拝見するのは
大変うれしいことです。これからもどんな作品が出てくるやら・・・
楽しみです。
by ニライカナイ店主 (2007-12-27 22:12) 

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