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これからの日本経済を思う 「バイアウト」幸田真音 [人生や物事について考えたいときに]


「バイアウト-企業買収」 幸田真音 文藝春秋 2007年

元米国系銀行や証券会社で債券ディーラーなどを経験してきた著者ならではの
リアリティに満ちた企業買収劇である。

あるファンドが目をつけた音楽事務所の銘柄。
そのファンドのリーダーと共に大きな仕事をしたいと狙っていた証券会社に
勤める女性。
彼女には、その音楽事務所に買収・・いや、買収に名を借りた復讐ともいえる
報復をしたい理由があった・・・。

                     *****

様々な業種でのTOB、そしてファンドという組織について、
いまや日本でも非常に身近な言葉となった。
株を介してのマネー・ゲームともいうべきものがどういう結果を引き起こすのか、
といういくつかの実例も近い過去に見てきた。

私が初めてM&Aのなんたるかを知ったのは、
映画「ワーキング・ガール」を劇場で見たときだった。
学歴がないために上司に企画を利用され、チャンスを失いそうになる
若い向学心のある女性が、大きなM&Aを成功させるサクセス・ストーリーだ。
もうはるか昔の話になるが、あの時でもちゃんとそのしくみを
理解していたとはいえなかったかもしれない。



その頃から長い時を経て、日本でもM&A、TOBという言葉が
普通の生活をしている我々にも具体的にイメージが湧く経済状況となった。

そうした状況を背景に、この作品は
「会社、そしてその会社の使命・財産はなんのために、誰のためにあるのか」ということを
最後に私たちに宿題として残すこととなる。

それは、読み進める最中には気がつかないほどの静かな複線としてしくまれている。

一件、このところ日本でも良くも悪くも定番となった投資・株式売買等マネー・ゲームが
受ける会社、仕掛ける会社、そしてその間で立ち回ろうとする仲介者たちによって
どのように繰り広げられるのか、という経済サスペンスのようにも思えるこの作品。

しかし、最後にきっと読者の多くがたどりつくものは、
マネー・ゲームとは違う、何か人間的な、もっと基本的なもののような気がする。

この企業買収に関わる人々の顛末や、人生、そして最後の腹のくくり方。
すべて、経済のあり方、社会のしくみ、会社という組織・・・と様々な存在を
私たちに考えさせるものがある。

それは、私たちにこれからの日本経済のあり方を問いかけているようにも感じるのだ。

最初はやや登場人物の多さや専門的な動きにとまどうこともあるかもしれない。
しかし、それにトライするだけのゴールをこの作品はちゃんと用意してくれている。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

バイアウト―企業買収

バイアウト―企業買収

  • 作者: 幸田 真音
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本


ワーキング・ガール

ワーキング・ガール

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2008/01/18
  • メディア: DVD


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