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いつか朝はやってくる「その後のツレがうつになりまして。」細川貂々 [落ち込んだときに]

その後のつれうつ.jpg
「その後のツレがうつになりまして。」 細川貂々 幻冬舎 2007年

前作「ツレがうつになりまして。」が話題になってその後、
「どうしているんだろう?」と思っていた頃にちゃんと報告があった。

前作がツレの症状と貂々さんのとまどいを中心に、
「うつとはどんなことか、うつと付き合って生きていくということは?」
という部分について描かれていたのに対し、今回はそのうつを抱えながら
ツレがどのように生き方を変えていったか、に重きがおかれている。

うつは、そう簡単に完治するものでもないし、だからといって
いつまでも人を縛るものではない・・・のかもしれない。

しかし、この本を読んでいると、もともとはやはり賢かったツレさんが
いつ再発するかわからないうつからひとつ階段を上がるように自分を変えることで
距離をおきながら、無理なく新しい自分らしさを構築し始めていることがわかる。

これはきっと、うつで苦しむ人とその家族には希望になるかもしれない。

みんな、うつになる可能性をはらんでいる。

そして、それは一度なったら浮かび上がることのできない
足のつかない海で立ち泳ぎするような苦しさばかりがクローズアップされるが、
このツレさんのように、苦しみながらももっと楽な生き方へと自分をシフトさせること、
苦しまないでも自分が生きていることを一日一日実感していけると
いう気持ちをつかむまでを、貂々さんの視点から、そして
今回はツレさん自身のコラムから受け取ることができる。

きっと、いろんなことに悩み、「もうだめかも」と追い詰められている人も、
この本を読むことで何か糸口が見つかるような、
かなり実践的な一つの例である。

そして、何より、うつの夫によりそった貂々さんの変化や感じたことも
貴重な体験である。

自分がうつになった(あるいはそうかも・・・?と思った)方はもちろん、
家族の中に「もしかして・・・」という人がいて、
心配している方がいたならば、一読してみてはどうだろうか。

イラストも非常に「うつ」の一つの特徴をよく表していると思う。

人は、社会や家庭で生きるにあたって、一つしか役割がないわけではなく、
いろんな選択や、その時々の過ごし方、役割があるのが普通であり、
変わっていくことはわるいことでも、おかしなことでもない。
そんなことを実感させられる続編であった。

ちなみに、「ツレうつ」と「その後」の間に「イグアナの嫁」があるのだが、
こちらはまだツレのうつが発覚する前にイグアナのイグちゃんを飼い始め、
その成長やイグちゃんの生態などを中心に書かれているのだが、
それに沿って作者の「マイナス思考クイーン」ぶりや、ツレがうつになるまでの
過程やその頃のツレの回顧録が書かれている。

マイナス思考クイーンぶりがこれまた物凄いものがあり、こちらもつられて
おちこみそうになる。しかし、クイーンはそういう状態になると寝てしまうし、
だらだらして多分底まで落ち込まずにすんできたのだろう。
そして、ツレがうつになる。

もちろん、そのことについての作者の悔恨、ツレの気持ちも書かれていて、
ある意味「ツレうつ」や「その後」より生々しく辛い。

よって、時系列なり、なにかのタイミングで「イグアナの嫁」を読む場合、
かならず後に「その後のツレがうつになりまして」で明るい光を用意してから
読んだほうが精神衛生的にはいいのだろうか・・・と個人的には思うのである。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。


その後のツレがうつになりまして。

その後のツレがうつになりまして。

  • 作者: 細川 貂々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本





イグアナの嫁

イグアナの嫁

  • 作者: 細川 貂々
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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妄想の中に学生時代を思い出す「太陽の塔」森見登美彦 [落ち込んだときに]


「太陽の塔」 森見登美彦 新潮文庫 2007年

京大生のやや妄想的な日々模様である。
京都のあちこちが描かれているのはなんとなく情緒をさそうのだが、
内容はちょっとオタクな京大生の学生生活、友人や想い人への断ち切れない思慕など
かなりレトロな内容かもしれない。

思えば、学生時代など、勉学にいそしんだという思い出よりも、
こうした友人関係とか、妄想に近い様々な想い、将来へのぼんやりした不安など、
あれはなんだったのだろうか?と幻のようだった、ということも
これを読んでなんとなく振り返ってみたりもした。

やや変わった内容ではあるが、京都が好きな方、
好きな女性への思慕を断ち切れない方にはいいかもしれない。
いっそ、落ち込んでいるときにこれを読むと「まあいいか」と
ふっきれるかも知れない。
なお、この作品は「日本ファンタジーのベル大賞」でもある。

ファンタジー・・・思えばすべてが妄想の中のできごとなのかもしれない。
日常と妄想の境目は、やがて社会に出るとともにいつのまにか消え去り、
現実と日常だけが残るのだけれど。

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太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫


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今手にした意味は 「うつを見つめる言葉」曽野綾子 [落ち込んだときに]

「うつを見つめる言葉」 曽野綾子 イースト・プレス 2007年

この時期に曽野綾子の本を読むことになったのは何か因果があるのだろうか?

というのは、私がこの本を読むきっかけとは全く別に、
彼女が書いた本や発言がもとになって歴史教科書から
沖縄の離島での集団自決に関する日本兵の関与についての記述が消されることとなった。

そして、9月末に沖縄で11万人を越える人々が立ち上がり、事実を消されることへの
危惧と、実際に集団自決の様子の証言が行われたのである。

曽野綾子氏の作品は、確かにあまり過去から食指が動かなかった。
たまたま同じ名前の三浦綾子とはあまりに対照的な、クリスチャンでありながら
好戦的な、いどむような作品が多かったこともある。

今回、この「うつを見つめる言葉」を手にしていると、
その好戦的な過激な一面と、そうした自分を変えよう、押さえようとしている
あらがいのようなものが感じられる。

ちなみに、この作品は今までの彼女の作品や対談からの抜粋であり、
あっという間に読み終わってしまう。

いくつかは「なるほど」と思う言葉があり、
いくつかは「どうだろうか?」と思う言葉がある。


うつのどん底にある人は、かえって読まないほうがいいかもしれない。
あくまで個人的な意見ではあるのだが・・・。
少し、落ち着いてきて、自分を客観的に見てみようか、と思えるようになって
きてからのほうがいいのか、とも思う。

彼女は、自分がうつという状況にありながら、
今回の教科書検定修正撤回集会をどのような気持ちでとらえていたろうか。

作家、というより最近は政治に近いところにいるようなイメージの強いこの人の、
心の葛藤をこの作品に見たような気がしたのは私だけなのだろうか。

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うつを見つめる言葉

うつを見つめる言葉

  • 作者: 曾野 綾子
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本


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自分を出せずに悩んでいるなら「クローズド・ノート」 [落ち込んだときに]


「クローズド・ノート」雫井脩介 2006年 角川書店

多くの方がブログでも薦めていたこの作品、
携帯読書サイトで2004年から配信されていた連載小説に加筆・訂正したものだという。
連載に必要な単元ごとの不自然さはうまく修正されているのだと思う。
実際は「次はどうなるだろう?」というように書かれていたのだろう。

年を重ねると、あるいはもともと私の性格のせいなのか、終わりが見えてしまうということがある。
それを承知でその作品を楽しめる読者もいるだろうし、
この作品の結末で本当にショックを受ける場合もあるかもしれない。

この作品は、著者の実姉の資料を基礎に書かれているという。
このことは、創造の世界ではあるが、構造的には以前ご紹介した加納朋子氏の『ななつのこ』(http://blog.so-net.ne.jp/bookcafe-niraikanai/2005-12-07)と少し似ている。
姉の思いを弟がある形で表現する、という構造。
これはかなり切ない構造である。

この作品の味わいは、あるノートを通しての二人の女性の人生が交錯していくところにあると思う。ちょっと似たところのある二人の女性が、ノートを介して出会い、いつしかノートはバトンとなり、
渡された女性を精神的に成長させていく。

意図してではなく、
なんとなく自分を表に出すことが簡単にできない女子大生がそのノートによって、
自分の気持ちや自分を表現していかないと相手にちゃんと伝わらないことを学ぶのだ。

登場する男性陣の描写がやや弱いのが残念だが、
なんとなく押しが弱く、マイペースだと言われ、悩んでいる女性がいれば、
この作品はそれを打破するための助けになってくれるかもしれない。

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クローズド・ノート

クローズド・ノート

  • 作者: 雫井 脩介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/01/31
  • メディア: 単行本


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将棋を知らない方もぜひ!「泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ」 [落ち込んだときに]


「泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ」 瀬川晶司
 2006年初版 講談社

詰め将棋のやさしいのをなんとか解けるかどうかの私であるが、将棋界で
「一度奨励会で年齢制限を越え、ある強さまでいかなかったら、もうプロにはなれない」
ということはなんとなく知っていた。
これは、囲碁だとまた別だ。(確か棋院がやっているプロ育成目的の会の年齢制限が違い、
プロ試験の門戸は一般にも開かれており、その年齢制限はまた異なる)

将棋の話にもどる。
ある日、何らかの報道で「アマ名人、プロへの道を切り開く」というような報道があった。

実際は2005年の11月になるのだが、なんとなくそれまでの経緯、つまりその人が
奨励会を退会して、以後サラリーマンになり、アマとしてプロをもしのぐ活躍をしていることは
なんとなく新聞等で目にしていた。

この作品は、そんな彼、瀬川氏がプロ棋士になるまでの経緯を
本人が素直な筆致で綴ったものである。
今だからこそプロとなったものの、将棋だけでなく、いろいろな面で思い出すのも辛い場面も
多々あったと思う。自分の敗因をたどるのは誰にも面白いことではない。

しかし、プロやプロに近い棋士たちは普通「感想戦」というものを行う。
一人が「負けました」「(手が)ありません」と認めた後、どこにその戦いのポイントがあったのか、
お互いの将棋の今後のために、一手目から指しなおし、ここがこうだったから、などと
勝ち負けを置いて分析し、次につなげるための作業である。

瀬川氏がこの作品を書いたのは、ある意味で自分が勝った「新たなプロ棋士への道の開拓」
という道までの感想戦を行い、今後の本当に厳しいプロ生活へと進むためだったのではないか、
と思う。

文体自体は大変読みやすい。
それは飾らず、素直に書いているということもあるだろう。
さらに、プロへの道を進むターニングポイントに、それぞれ背中を押す人物が現れている。
その人物との関係と交流、そこで自分がどう変わったのかということが描かれていて、
場面によっては読みながらぐっとくるところもある。

ただ勝ちたいがために一緒に打ち続け、アマになってからも交流のあった幼なじみ、
その幼なじみとともに奨励会の門をたたくまで力をつけてくれた将棋道場の席主
(マスターのようなもの)、奨励会や同じ門下の先輩や仲間、
さらにはプロをあきらめざるをえなくなってからは職場の同僚や上司、アマの仲間たち・・・。

なぜか、彼には多くの支えてくれる人が必要な時に現れる。
それは、「本当に将棋の神様っているんだろうか?」と思うほどである。
まさに「人との出会い」の不思議であり、おそらく人をひきつける魅力が
瀬川氏にあったということだろう。

しかし、さらに瀬川氏の人生を左右したのは、彼の可能性を引き出してくれた
小学生時代の恩師であり、常に息子達に「自分の好きな道を行け」とやさしく見守ってくれた
父なのだろう。
二人とも、とてつもなく大きなものを瀬川氏の人生そのものに与えている。
それだけに、この二人のエピソードは、それぞれ涙なしには読むことができない。

多分、瀬川氏だけではなく、実は私達もいろいろなところで自分の人生を左右する出会い、
分かれ道で進むべき道に背中を押してくれる人がいるのだろう。
それに気がついていないだけかもしれない。

そんな自分の足元をふとみつめさせてくれた一冊であった。

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泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ

泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ

  • 作者: 瀬川 晶司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/04/21
  • メディア: 単行本


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眠れぬ夜のつれづれに 「優しい音楽」瀬尾まいこ [落ち込んだときに]


「優しい音楽」 瀬尾まいこ 双葉社 2005年4月初版

この著者の作品を読むのははじめてである。
まだ若い作家ではあるが、05年、「幸福な食卓」で吉川英治文学新人賞を受賞した時に、
ちょっと気になって立ち読みしていた。
その後に出た作品、ということで今回初トライである。

この作品はもともと小ぶりな本なのだが
(「ヒストリアン」のあとなので余計にそう思うのかもしれない)、3つの短編から成っている。
本のタイトルでもある「優しい音楽」、「タイムラグ」、「がらくた効果」の3本立てである。

主人公が男性であったり、女性であったりするところがまた面白い。
どちらか一辺倒だとつまらない・・・と言っても、登場する男性の中には
少々女性的な細やかな男性もいるのではあるのだけれど。

「優しい音楽」では、設定自体にひねりがあるのだが、それがかなり初めの頃から
だいたい想像がついてしまう。
しかし、最後にもうひとひねりあるところに、この作者の力を垣間見たような気がする。

「タイムラグ」は不倫相手の子供を一晩預かる、という設定がかなり無理のあるところなのだが、
それによって色々な背景が見えてきて、さらに主人公の「人となり」も見えるところが面白い。
子供をダシに使う、という小技ではあるが、この後主人公はどうするのだろう、と思うと
想像が広がる。
かなり無理はあるが、個人的に好きな作品であった。

「最後のがらくた効果」・・・これもかなりはちゃめちゃな設定からスタートする。
おはなし、としてはわかっていても、こんなことって・・・という感じだ。
しかし、小さなファンタジーの一つ、あるいは登場する同棲カップルの女性の性格上こうなった
のだ、といわれればまあ、なんとなく、そうなのか・・・とまず受け入れられないこともない。
ただ、やはり最後にはうまくまとめてあり、こういうこともありなのかな、と
変に納得してしまうところもある。

いずれの短編も、「ちょっとありえない人間関係」をうまく描いている。
その少し無理な設定も、著者の自然な文体と展開のうまさから、そんなに嫌な感じがしないのが
不思議だ。
読後感がすっきりするのはそのためかもしれない。

ちょっと疲れた眠れない晩に、
あるいは一人で過ごす夜にハーブティーでも飲みながら
そっと開いてみるといい短編集のような気がするのである。

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優しい音楽

優しい音楽

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 単行本


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時にはトンズラもあり! 「うつ病を体験した精神科医の処方せん」 [落ち込んだときに]


「うつ病を体験した精神科医の処方せん 医師として、患者として、支援者として」
蟻塚亮二 大月書店 2005年9月

精神科医でもうつ病になるのか?と思われた方も多いかもしれない。
しかし、多くの忙しい医師たちの中で、抗うつ剤とまで行かなくても、
精神安定剤を飲んでいる人は多い、という。
実際、この本の中にもそのことにふれられている。

実際、プチうつ、という言葉もあるように、今の時代に心身ともに健康、などという人の方が
少ないかもしれない。よほどラッキーでない限り。
しかし、その病気の実態は正しく理解されていないことも多いだろう。

この本は、医師がうつ病、さらには大腸がんになり、その病を経て、あるいは付き合い続けながら
一方患者と向き合いつつ、「うつ」という状態について多方面から書いた本である。
そこが、最近よく出回っているハウツー本風の心理学ものとは一線を画しているのだ。

うつ、とまで行かなくても現在社会で毎日楽しく過ごしている人はそう多くないはずだ。
特に、うつという病気と付き合いながらこの日本で生きていくためには、
「いかに楽な生き方をするか」ということが重要だ、と著者は強調する。
時には、トンズラあり、蒸発あり、手抜きあり、低空飛行あり。

うつになる多くの人が非常にまじめな人間であるため、そうした手段を講じて生き方を変える、
といことは確かに難しいだろう。
しかし、私の読後感としても、自身の考え方としても、「生きていてナンボ」なのだと思う。

「努力が報われる社会でないとうつは治らない」ともあるように、結局マジメ人間が
現状の日本で生き抜くためには、今までの考え方、プライド、「~ねばならない」という気持ちを
すべて一度棚に上げて、自分の本当の大きさ=等身大の自分、というものを眺めてみる必要が
あるのではないか、と思った。

ただ、それは仕事や家事、その他の事柄で忙しかったり、悪いサイクルにはまっているときには
一人でなかなかできるものではない。

この本を読んで、辛いときには無理に我慢せず、世間体などどこの空、精神科でちゃんとした
先生あるいはカウンセラーとめぐり合い、お互いの交流の中で新たな道=新たな自分を見つける
ことがいかに大切なのかを実感した。

そして、休息の重要性。
これは今の社会では本当に困難なことは承知の上で著者も書かれているのだろうが、
ベルトコンベアから一度下りたからといって、死ぬわけではない。
それよりも、生きることを少しでも心から楽しめる自分になりたい、
生きることをいやではない自分になりたい、ということの方が大切なのではないだろうか。

この本には、少々専門的なことも書いてあるが、心理や精神医学に不案内の人でも
著者の人柄からか、気軽に読むことができる。

少しでも多くの人が正しく精神疾患、特に多いうつについて理解し、自分はもちろんのこと、
家族やまわりの友人、同僚がそうなったときに少しでも知識を持っていることで、
いかばかりか本人の助けになることか、と思う。

当の著者は、青森で勤務をしていたが、現在沖縄の病院に「トンズラ」しているそうである。
ややうらやましいような気がする私である。

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うつ病を体験した精神科医の処方せん

うつ病を体験した精神科医の処方せん

  • 作者: 蟻塚 亮二
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本


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「常識」に傷ついた心が開放されていく 「きらきらひかる」江國香織 [落ち込んだときに]


「きらきらひかる」
江國香織 1994年6月初版 新潮社文庫 (1991年新潮社初版)

アル中で躁鬱状態の妻。ホモの医師である夫。
その二人はお見合いをし、二人の間ではすべて納得した上で結婚をする。
そして、夫の恋人の若い男性。

この本が初めて出版されたころに比べれば、こういうことは特にセンセーショナルなことでは
なくなってきている。正しく言えば、いくつかの人間関係のパターンの一つとして認識されることが
多くなってきている。オープンになってきたことは、悪くないと思う。

この本を読んだのが先なのか、映画(妻を薬師丸ひろ子、夫を豊川悦司、夫の恋人を筒井道隆が
演じていた)を見たのが先なのか、覚えていない。
映画もよく出来ていたとは思うが、やはり原作はいい。

こういう関係を変だ、という人もいるだろう。
でも、人はだれでも「欠けている部分」を持つ未完全な存在なのではないか。
そうだとすれば、そのバランスを取るために何で埋め合わせるかが、少し他の人と違うだけで
「変だ」というのはフェアではないような気がする。
(もちろん、犯罪や人の命を脅かすようなものはここでは論外だが)

この物語は、その「欠けている部分」をパターンから見て多くの割合を示すタイプの恋愛や、
仕事のやりがいや、趣味や、ましてや子どもをつくることなどでは埋められない2人が、
自分たちに本当に必要な場所を傷つきながら、壊れそうになりながら、
創り上げていく物語なのだと思う。

自分の居場所に居心地の悪さを感じていたり、普通の結婚と言われているものとのギャップに
悩んでいる方に、一度読んでみていただきたい一冊である。

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きらきらひかる

きらきらひかる

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/05
  • メディア: 文庫


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生きていく、何があっても 「スキップ」北村薫 [落ち込んだときに]


「スキップ」 北村薫  1995年8月初版 新潮社

10年前、この本が出版されてすぐ読み始めた時、私は「なんて残酷な話なんだろう」と
ストーリーの設定のむごさに震えた。

この話は、「最初は」17歳の少女の話として始まる。
まだこの本を読んでいない読者のために詳しいことは書けないのだけれど、
主人公の少女の強さ、その周囲の人たちの優しさに支えられながら最後まで読んでいくと、
温かな希望の灯が手のひらに残ったような気持ちになった。
しかし、「スキップ」したものは二度と戻らない。

この作品は著者の「時と人」三部作(スキップ、ターン、リセット)のうち、最初に出版された
ものであり、私はこの作品が個人的には一番印象深い。
それは、二度と戻らないものを無意識のうちに抱えながら、どのように人として生きていくのか
という、実は誰の目の前にもある課題に深く切れ込んだ作品であるからだ。

多分、この本を若くして読んだ人、特に女性は愕然とするかもしれない。
その若さを謳歌していればいるほど、そのショックは強いだろう。
そういう意味を持った物語である。

しかし、10年たった今、再読してみると不思議と前ほどの残酷さを感じなくなっていた。
内容を知っている、ということを抜きにしても、その間の10年が私に与えてきたものが
この本の厳しい状況を受け入れるだけ私を強くしたのだろうか。
そうだとは言い切れないまでも、自分の力ではどうしようもないこと、
受け入れざるを得ないものが山のようにある、ということを身をもって体験してきたことは確かだ。
一方、どんなに後悔したとしても、過去の一日一日は自分の選択の積み重ねでもある。
物語では、それらを普通とは違った形で受け入れなくてはならない状況になった、
というイメージに10年を経て私の中では変化した。
そういう意味で、この本も初めて読む年齢や状況によって、受け取り方が変わるだろう。

いずれにしろ、この本を読むと、「何があっても生きていくしかないんだなあ」と思う。
そして、自分の選んできた人生を受け入れ、どんな状況であれ生き続けていこうとすることが、
最後は自分と周りの大切な人たちを幸せにしていくのだ、と改めて考えさせてくれる。

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  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/06
  • メディア: 文庫


スキップ

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  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: 単行本


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「午後の最後の芝生」(「中国行きのスロウ・ボート」)村上春樹 [落ち込んだときに]


「午後の最後の芝生」(「中国行きのスロウ・ボート」収録)村上春樹
1983年5月初版 中央公論社

「午後の最後の芝生」は失恋したときに読むものだ、という気がする作品だ。
あるいは、なぜあの時の恋はうまくいかなかったのだろう、と昔の恋を振り返る時に。
多分、失恋を癒してくれる薬などどこにも無い。
でも、この作品は、長い時間を経て、ある時失った恋について「そうだったのか」と思わせてくれる
何かがあるように思う。

内容は彼女に手紙1通で別れを告げられた若者の話だ。
彼女との夏の小旅行を楽しむための費用を稼ぐために芝生刈りのアルバイトをしていたが、その必要もなくなり、この仕事が最後、というその最後の芝生刈りに行った1日の出来事が描かれている。

彼が最後の仕事に向かう途中に考える、彼女と行こうとしていた旅行の表現が妙にリアルだ。
私は何故かいつも海に旅するとこの表現を思い出す。
「ひやりとした海と熱い砂浜」そして、「エア・コンディショナーのきいた小さな部屋とぱりっとしたブルーのシーツ」を交互に彼は思い浮かべる。

彼はとても丁寧に芝生を刈るので、評判が良い。でも、その分、時間もかかるから割りには合わない。そのことと、彼女が別れの手紙に書いていた「やさしくてとても立派な人」だと思っているけれど、「それだけじゃ足りないんじゃないかという気がした」ということが関係があるのか断言はできないが、どこかつながっている部分はあるように思える。

最後の仕事が終わって、その家の女主人が不思議な依頼を彼に申し出る。
自分の若い娘の部屋に連れて行き、机やクローゼットを彼に見せて、「どう思う?」と聞くのだ。
何かあったのだろうか、と思うしかない、普通はありえない状況だ。
彼は、その娘が自分の体や考えていること、求めていることや他人が要求していることなどになじめないのではないか、と答える。

初めて読んだ若い頃は、これがどんなことを意味しているのかわからなかった。
今は、なんとなく物語の中でどんな重みを持つのか、そして、そのこと自体がどんなに辛く、空虚なことなのかわかるようになった。
しばらくぶりに読み直して、昔何度読んでもピンとこなかった部分がしっくりくるようになる。
齢を重ねるのも、苦労をするのも悪くないな、とふと思う。

「中国行きのスロウ・ボート」は、村上春樹氏にとって始めての短編集だ。初期の乾いた感じや、
素朴なテーマがきっと最近の作品から入った読者には新鮮だと思う。
表題にもなっている作品も切ない物語だ。こちらも、ぜひ読んでいただきたい。
表紙の安西水丸氏の洋なしのイラストが印象的である。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

中国行きのスロウ・ボート

中国行きのスロウ・ボート

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1983/05
  • メディア: 単行本


中国行きのスロウ・ボート

中国行きのスロウ・ボート

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 文庫


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