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畠中氏新たなお江戸ミステリー 「つくもがみ貸します」 [ミステリーを楽しみたいときに]

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「つくもがみ貸します」 畠中恵 角川書店 2007年

しゃばけシリーズでおなじみの畠中氏の新短編集。
今度の舞台はお江戸の深川、古道具屋兼損料屋の出雲屋である。

損料屋とは?
火事が多くて物を持っていてもすぐ家事に巻き込まれて家財が焼けてしまうことも
多かった江戸時代に、布団から小道具、時には貴重な掛け軸まで貸し出して料金を
もらっていた商売をしている店である。
・・・というのは、この作品を読んで初めて知った。

出雲屋は血のつながりのない姉弟がきりもりしており、
弟の清次はなかなかの目ききであり、いい物を見出してはそれを手に入れ、
本当にいいものは手放さずに貸し出していた。

本当にいいもの・・・
そう、その時代の本当にいいものは、作られて100年も経つ、
というものも多く残されており、それらの長年大切に使われてきたものには
いつしか魂が宿り・・・
付喪神となるのである。

「しゃばけ」シリーズでも屏風などに取り付いた付喪神が登場するが、
そうした物の怪たちは長年多くのものを見聞きしてきていて、
なかなかに賢いものたちとして描かれている。

しかも出雲屋は損料屋だから貸し出されてあちこちのお屋敷や
料亭などに「出張」することもある。
そこで仕入れた情報を付喪神同士でおしゃべりしているのだ。

そうした古道具に長く付き合いのある姉弟には
どうも彼らのおしゃべりが聞こえるらしい・・・


*****

姉のお紅の恋、清次の複雑な心境、古道具を通しての不思議な事件、
そして付喪神たちのおしゃべりの中に見えてくる真実。

江戸物のミステリーの新境地である。

江戸時代好きにはたまらない細かい表現、庶民のくらしの様子も
読んでいて楽しい。
ひとつひとつの話は短編であるのも読みやすい。

「しゃばけ」にはまったあなたも、まだ畠中ワールド未体験のあなたも、
ぜひこの作品をどこかで目にしたら一度は手にしてみては?
この時代に生きながら、もうひとつの時代にタイムスリップしたような
豊かな気持ちにもなれるに違いない。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。


つくもがみ貸します

つくもがみ貸します

  • 作者: 畠中 恵
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



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子供向けではないファンタジー?「黄金の羅針盤 ライラの冒険」フィリップ・プルマン [物語や絵本の世界を楽しみたいときに]

黄金の羅針盤.jpg
「黄金の羅針盤 ライラの冒険」上・下 フィリップ・プルマン 大久保寛訳
 新潮社 2007年

最初、子供向けの児童文学かと思って読んだが、どうもすべての子供に読ませるには
アクが強いように思う。
物語のはじめに、ミルトンの「失楽園」からの引用があり、この意味も大人であっても
そうそう簡単に受け入れられる容易な内容ではない。
さて、この物語は誰のために書かれたものなのか。

冒頭に断り書きがあるように、この「黄金の羅針盤」は3部作の1作目であり、
私達が暮らす現実世界と似ているが、「多くの点で異なる」世界で起こるできごとである。
イギリスと思われる(実際、主人公ライラは、オックスフォード大の学寮で
訳あって暮らしている両親を事故でなくした少女、という設定である)土地から物語りは始まり、
そこからオーロラが空を彩る北方へと舞台を移す。

ライラは自由奔放で、いわゆる少女、というよりガキ大将といった様子なのだが、
ある世界にいくつもない大切なものを手に入れたことで変わっていく。
また、ライラの身の上もかなりややこしい状況であることもわかってくる。

こういうことは、大人はすんなり読み進められるが子供はどうだろう?
多くの童話がそうであったように、子供たちもそれらのことにこだわらず、
物語の先にあるものへの興味に引っ張られていくのだろうか?

下巻の最後にはスピード感が感じられる。
あるいは映画向きなのかもしれないが、見てみないとなんともいえない。

確かに、私達が暮らす世界と似ているけれど、全く違う世界。
同じ言葉ながら異なる意味を持つ言葉。

第一部だけではこの物語の意義をはかることはできない。
小さな子供たちに勧めるのは保護者が読んでみてからのほうがいいと思われるが、
これからの展開と出会ってからさらにこの物語の真意について語りたいと思う。

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黄金の羅針盤 上 軽装版 (1) (ライラの冒険)

黄金の羅針盤 上 軽装版 (1) (ライラの冒険)

  • 作者: フィリップ・プルマン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



黄金の羅針盤 下 軽装版 (3) (ライラの冒険)

黄金の羅針盤 下 軽装版 (3) (ライラの冒険)

  • 作者: フィリップ・プルマン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



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鑑識視点の警察小説 「臨場」 横山秀夫 [ミステリーを楽しみたいときに]


「臨場」 横山秀夫 光文社文庫 2007年

警察小説、それも鑑識からの視点で事件を割り出していく物語の短編集である。
いずれの短編も、同じ県警の話であり、「終身検視官」といわれている
異例だが長年捜査一課調査官として鑑識の仕事を続けている倉石、という男が登場する。

一つひとつの短編、そして事件は、警察の中の人間や警察付きの記者たちに
何かの形で深く関わる形を取っている。

普段は事件を外側のこと、ととらえながら対象としている彼らにとって、
それが他人事でならないとき、彼らはどうするのか。
どう思うのか。

倉石の「臨場」=現場への出動、あるいは長年の経験による判断により、
事件は思わぬ一面を見せることになる。

私たちはこれらの短編により、警察やそれを追いかける記者たちが
決して一塊の組織ではなく、一人の人間であることにあらためて気づかされる。
彼らもそれぞれの過去を持ち、迷い、苦しみ、日々戦っている。
本人達でさえ忘れかけていたそんな事実を、事件が掘り起こしていく。

それぞれの短編は少しずつ繋がれている。
前に関係者だった記者や刑事たちも再度ふとした場面で現れる。

それにしても異彩を放つのは警視でありながら鑑識畑で事件の背景を
現場から見抜く鋭い目と頭脳を持つ倉石だ。
彼自身のことは多くは語られないが、事件の見立てが彼自身、
そして彼の人生を浮き彫りにしている。
その生き方に羨望を覚える読者も多いだろう。

女性に関する記述がやや女性読者にはどう受け取られるだろう?と
思う場面はある。
しかし、人間を描く、という観点からはやはり優れたところのある
作家だと思う。これからも補足していきたい。

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臨場 (光文社文庫 よ 14-1)

臨場 (光文社文庫 よ 14-1)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/09/06
  • メディア: 文庫


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誰も知らなかった星氏の真実「星新一 1001話をつくった人」最相葉月 [人生や物事について考えたいときに]


「星新一 1001話をつくった人」最相葉月 新潮社 2007年

実は二度目のトライである。
昨年手にしてみたのだが、あまりの重厚さに一度離れることとなった。

そんな私が再度この作品に挑戦してみたい、と思ったのは
星新一という人物そのものへの興味、としかいいようがない。

私が子どもの頃、お小遣いで買えた文庫は星新一のショート・ショートなど
短い作品であった。当時、200円もしないで買えたと思う。
近くに図書館もなく、家で、その後は通学の友にもなった。

しかし、実は具体的にどんな作品だったのか、ほとんど覚えていないのだ。
トーンは覚えている。
しかし、「あの作品はねえ」と具体的に空手で語れるものがない。

*****

最相氏の研究の成果ともいうべきこの作品は、
「星新一像」を描いた執念の一冊ともいえる。

新一の父、星一は製薬会社をチェーン展開し、一時は大変な実業家であった人。
身近なところでは星薬科大という形でその事業は残されている。

しかし、戦争やその他様々な社会状況、ねたみなどから引き起こる社内外の問題から
するりと逃げるように、新一は全く事業に無関心だった。

それどころか、風変わりな行動、交友を好み、ものを書き始める。

そのくだりでは、日本でのSFの創世期を知ることもできる。
私が昔夢中になって読んだSF・推理作家たちの若き頃が描かれている。
SFという言葉の誕生、早川書房の創世記についてもである。
新一の交友を通して、著名な作家、芸術家たちの名前も続出し、興味深い。

さらに、新一がショート・ショートという形でいくつもの作品を
間断なく多くの雑誌、企業誌、新聞等に書き続ける様が淡々と資料を基に綴られる。

そして、新一の母の死。
父の死が星家の産業の実質的な崩壊の始まりだとすれば、
母の死こそが新一にとっての初めての肉親を失う深い悲しみの時であった。

新一の晩年も描かれる。
淡々と。

そう、「淡々と」という言葉が全編を読んでの新一に対する私の感想である。
しかし、これだけの心身の労苦があの作品の背景にあったとは、
このレポートと出会わなければ知ることはなかったろう。

*****

著者、最相氏が5年をかけた取材により本作を完成させたあとがきで、
「子どものころにあれほど引き込まれた作家のことを自分は何も知らない。
引き込まれたのに、物語の内容はまったく忘れている」

と書いている。
同じだ、と思いびっくりした。

そこにこそ、最相氏が長年労苦をかけてこのレポートをまとめあげた鍵がある。
「それでも、心に落ちている小さなかけらがある。
そのかけらの正体を見極めてみたかった。」

まことに見事な研究成果である。
そして、これは星新一という人間、そして星氏の作品を今後手にするにあたり、
大きな変化を与えてくれる裏づけとなるであろう。

新一氏本人はあの世で飄々と「ふーん」なんて聞き流したふりを
しそうではあるが。

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星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

  • 作者: 最相 葉月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本


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群ようこ恐るべし・・「ぢぞうはみんな知っている」 [肩の力を抜いて読書したいときに]

「ぢぞうはみんな知っている」 群ようこ 新潮文庫 2006年

こんなに笑い転げたのは久しぶりだ。
一方、こんなことまで書いて大丈夫なのか・・・と著者の周辺をふと心配してしまう。

まあ、そんな風にかきっぷりの良いエッセイ集である。

そんな笑いの中にも、一本通っているテーマがある。
一言で言えば、「老い」だ。
老いる、ということについての様々な感慨が語られているものが多い。

人間のそればかりでなく、時にそれは猫であったりするのだが、
そこには人間にも通ずるところがある。

それにしても、まあよくもここまで私生活をあけっぴろげに・・・と
再び心配してしまうのだが、もう何も失うものは既になかったりして、と
考え直してみる。

とにかく、ある年齢を超えた女性ほど肝が据わった生き物はいないのかも
しれない。

まあ、まずは笑いたい方、特に女性の方は共感できる部分もあるかも?しれないので
ご一読を。

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ぢぞうはみんな知っている (新潮文庫)

ぢぞうはみんな知っている (新潮文庫)

  • 作者: 群 ようこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫


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やや春樹風? 「朝日のようにさわやかに」 恩田陸 [ミステリーを楽しみたいときに]


「朝日のようにさわやかに」 恩田陸 新潮社 2007年

様々なメディアに掲載してきたショートストーリー、しかもホラー系の短編集である。
この寒い季節よりも、夏の夜に読むのにむいているのかもしれない。

雰囲気がやや村上春樹氏風のものもあり、別に作者が意図したわけではないのだろうが・・・

中にはシリーズ化されている作品群のスピンアウトものもある。

ただ、児童文学として書いたという「おはなしのつづき」は
児童文学としてはちょっとどうだろうか・・・と考えてしまった。

もし、本当に作品と同じような状況の子どもやそんな友人がいる子どもが読んだら、
などと少し余計なことまで考えてしまった。

いずれにしろ、ある程度、そう、中学生くらいにはなってからのほうが
「物語」として受け止めてて頭で処理できそうだ。

おもしろかったのは「冷凍みかん」、「一千一秒殺人事件」。
これらは短編の良さを駆使している。

あとの作品は・・・まあ、夏の夜にちょっと涼しくなるのに役立つのかも
しれない。
冬に読むのなら、暖かい店でのちょっとしたティーブレイクにいいだろう。

作者自身、いろいろな媒体からのニーズに対して、様々な挑戦をしている。
そうした挑戦を読み比べてみるのもファンには楽しいひとときになるだろう。

短編の難しさ、奥深さを考えさせられた作品集でもあった。

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朝日のようにさわやかに

朝日のようにさわやかに

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本


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妄想の中に学生時代を思い出す「太陽の塔」森見登美彦 [落ち込んだときに]


「太陽の塔」 森見登美彦 新潮文庫 2007年

京大生のやや妄想的な日々模様である。
京都のあちこちが描かれているのはなんとなく情緒をさそうのだが、
内容はちょっとオタクな京大生の学生生活、友人や想い人への断ち切れない思慕など
かなりレトロな内容かもしれない。

思えば、学生時代など、勉学にいそしんだという思い出よりも、
こうした友人関係とか、妄想に近い様々な想い、将来へのぼんやりした不安など、
あれはなんだったのだろうか?と幻のようだった、ということも
これを読んでなんとなく振り返ってみたりもした。

やや変わった内容ではあるが、京都が好きな方、
好きな女性への思慕を断ち切れない方にはいいかもしれない。
いっそ、落ち込んでいるときにこれを読むと「まあいいか」と
ふっきれるかも知れない。
なお、この作品は「日本ファンタジーのベル大賞」でもある。

ファンタジー・・・思えばすべてが妄想の中のできごとなのかもしれない。
日常と妄想の境目は、やがて社会に出るとともにいつのまにか消え去り、
現実と日常だけが残るのだけれど。

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太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫


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さあ、戦いが始まる。 「楽園」 宮部みゆき [ミステリーを楽しみたいときに]


「楽園」上下 宮部みゆき 文藝春秋 2007年

人は人を、どの時点で「信じる」のだろう。

タイトルとはかけ離れた東京の片隅で、また、新たな人と人との出会いが生まれる。
出会いとは、その相手をどこかで「信じる」ことに繋がっていくものだと思う。

一人は、一人息子を車に轢かれて失った中年女性。
一人は、昔、世間を揺るがした恐ろしい事件に関わったライターの女性。
そう、そのライターは『模倣犯』で事件に関わり、気がつかないうちに振り回された
ライターの前畑滋子である。

滋子は9年前の事件で人として、ライターとして、心に大きな錘を繋がれたままだった。
現実には彼女によって真実があからさまになったにもかかわらず。
あの事件はそれだけ根深い、恐ろしい事件だった。

そんな滋子に、あなたにこそお話したい、と息子を失った女性が相談してくる。
最近発覚した、娘殺しにつながる予知ともとれる絵を、息子の遺品として抱えながら。

今は亡き少年の予知能力とは本物なのか。
そして、滋子は9年前の事件を乗り越えることができるのか。

一人のライターの孤独な作業が始まる。
しかし、それはまたも深い闇の迷路へのスタートでもあった・・・。

                   *******

この小説が、あの『模倣犯』の続編であることに、まず驚く。
あの小説がかなりの大作であり、驚くべき展開と人間のこころの底にある悪意に
迫ったものであったと思い出す一方、いくばくかのしりきれとんぼのような物足りなさを
感じていた私にとって(あれだけの大作を書いた著者には申し訳ないが)
この『楽園』の前畑滋子というライターの行動こそが、その隙間を埋める必要不可欠な
パズルの残された数ピースであると期待をもって読み始めた。

それは、この2作の関係性がわかった時点で、天から降ってきたように強く共鳴してきた
インスピレーションでもある。

一度は人の悪意に振り回され、煮え湯を飲まされた人間が、
人として、ライターとして、一人の女性として、
もう一度自分の「おとしまえ」をつけるための戦いが始まる。

                      *******     

今回は、親子・きょうだいの関係を中心に、子供の心理が深く関わってくる。
そして、学校、教育に関わる場や、子供たちどうしの関係も絡んでくる。

最も大きいテーマは、
自分が一番愛されたい人にどう思われているか、ということのような気がする。
自分が人として、尊重されているかどうかということが、どんなに幼い存在であっても
いや、幼い時期だからこそ、どれだけ大切なものであるかということが、
この小説のキーになっている。

なぜ、人は家族の愛を失い、「やっかいもの」になってしまうのか。
そうさせるきっかけは何なのか。
本当の「やっかいもの」にさせないためには、周囲の人間は本当はどうしたらいいのか。
そして、「やっかいもの」に一度なってしまった人間は、
もうまっとうな人間にもどれないのか。

人は、結局自分が一番可愛いのだ、と言われることがある。
子供を愛するのは、それが自分のコピーであるからだ、と。
しかし、最後にはそうしたものをすべて越えた愛が、
少しずつでも人を思いやる心が、何かを救い、変えていくのだ・・・
と読後に思ったのは私の個人的な感想である。

「信じる」べき魂を見抜く力を身につけた前畑滋子の成長とともに、
このタイトル「楽園」の本当の意味を受け止められる自分に成長したいと願うものである。

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楽園 上 (1)

楽園 上 (1)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本


楽園 下

楽園 下

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本


模倣犯〈上〉

模倣犯〈上〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


模倣犯〈下〉

模倣犯〈下〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


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卓越企画!「マイ・ベスト・ミステリー1」 [ミステリーを楽しみたいときに]


「マイ・ベスト・ミステリー1」 日本推理作家協会編 文春文庫 2007年

これは複数の推理作家たちが、自分の気に入っている自作と、
いろんな意味で自分にとってターニングポイントとなった他作家の作品を併載し、
さらにそれぞれの作品についてコメントしている、という面白い企画の作品集である。

冒頭、編集している協会の理事長である逢坂剛氏が書いている。

「『これを読んでいなかったら、自分は作家になっていなかった』
 そんな作品を、だれしも心に秘めているのではないか。」

まさにそうした作品を、現在活躍している作家たちが惜しみなく表明している。
そこが面白い。

選ばれた作品と作家の自作を比べてみると、
自作と選作はどこか共通するところがあったり、
手法に通じるところがあったり、
または内容がまったく違っても、同じような読後感が残ったりする。

作家という職業は、大変なものだ、とまた違った見方をすれば感じる。

オリジナルを求められながら、膨大な、気の遠くなるような過去の作品たちを
相手に新たなものを生み出していくのだ。

その腹のくくり方も、また、それを超越する作風をつかんでいる作家の姿を
垣間見ることもできる。
そうした面でも楽しめる企画である。

ちなみに、シリーズ1巻目では、
阿刀田高と佐野洋が同じく結城昌治を選んでおり、
それも興味深い。
ほかに乃南アサ、宮部みゆきも登場している。

さらに、この企画シリーズは文庫で6巻目まで出版されている。
お好きな作家や気になる作家の「この一作」を読んでみるのは
楽しいものだ。

いずれも短編なので、通勤中の電車の中や、旅のお伴にどうであろう。
ただし、ややぞくっとするスリラー系のものが多いので弱い方はご注意を。

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マイ・ベスト・ミステリー 1 (1) (文春文庫 編 17-1)

マイ・ベスト・ミステリー 1 (1) (文春文庫 編 17-1)

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 文庫


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本当は夏向き作家?「ぬるい眠り」江國香織 [人生や物事について考えたいときに]


「ぬるい眠り」 江國香織 新潮文庫 2007年

江國香織は夏に読むのにいい。

冬の最中にこんなことを書くのも何なのだけれど・・・。

昔は冬に合う、と思っていたのだけれど、
あまりに寒い冬に手にすると、さらに寒く感じるような感じがする。

今年の夏のように灼熱の日々に、夜遅い時間、とろりとした夜の中、
ゆるく冷房をかけながら眠る前に読むのに最適な作家ではないか、と私は思う。

・・・と書きながら真冬に紹介するのは、アイスクリームをコタツで温まりながら
食べる贅沢のような気持ちを味わいたいからかもしれない。

これは短編集であり、でもどこかでひとつの筋が通っているような気がする。
そう、丁度「きらきらひかる」の続編といえる「ケイトウの赤、やなぎの緑」を読むと
はっきりわかるのだが、この短編集に出てくる主人公の女性たちは皆、
「きらきらひかる」の主人公の一人、笑子の対岸にいるような女性たちのような気がする。

自由に恋愛を楽しみながら、自分を解放できない。
結婚していながら、彼がいながらも、自分を確かめるために他の男性と関係を持つ女。
ノミに刺されたことをきっかけに、簡単に男と別れてしまった女。
それにくらべたら、笑子は苦しみながらもなんと自分に自由に生きていたことか。
彼女たちが笑子に嫌悪感をいだくのは当然だ。
まさに、「ケイトウの・・・」の主人公は自分の身内の事情もあいまって
笑子を毛嫌いしている。

昔、「きらきらひかる」を読んだとき、私は「こんな関係が成立するのか?」とおどろいた。
もうずいぶん昔の話だ。
仮面夫婦と夫の若い青年である恋人の三人の日々。
でも、お互いに必要としあっていた。

それにくらべるとこの作品群の女性たちはどこか不満げで、不足げで、
足りないものをいつも探しているような気がする。
その足りないものよりも、大切な何かがすぐそばにあることを知らずに。

これが「きらきらひかる」からの十数年の世の中の女性の変わりようであり、
江國氏の描くものの変化なのか、とも思った。

いずれにしても、短編集であることもあり、読みやすい作品だ。
くどいようだが、夜、寝る前に読むためにあるような作品たちである。

寒い夜には、温めた部屋で、肌触りの良いブランケットにくるまれながら・・・

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ぬるい眠り (新潮文庫 え 10-13)

ぬるい眠り (新潮文庫 え 10-13)

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 文庫


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