SSブログ

前内閣崩壊の背景とは 「空白の宰相」 [人生や物事について考えたいときに]


「空白の宰相 『チーム安倍』が追った理想と現実」
                        柿崎明二・久江雅彦著 講談社 2007年

昨年9月、急に退陣した安倍首相。
確かに色々なことが雪崩のように短い時間に起こった。
しかし、本当に背後にあったものは何なのか。
それを共同通信政治部記者の2人がパズルをはめていくように丹念に描いている。

首相就任時、ある種華やかな期待を受けて立ち上がった「チーム安倍」。

今、国会中継で小泉元首相とともに映し出される安倍氏は、なんとものどかな表情だ。
いったいあの時期、何が起こったのか。

私達一般国民が知りうることのできる範囲での出来事は
天下り阻止を目的とした国家公務員制度改革への着手であったり、
揮発油税を含む道路特定財源の一般化問題であったり、
宙にういた年金問題の露呈であったり、
閣僚の相次ぐ不祥事であったり、不可思議な人事や辞任であったり、
不幸なことに自殺であったりするのだが。

今、こうして偶然にも国会開会時にこの作品を読んでいると、
すべてが今に繋がっており、
そして、置き去りにされているといえる。
あるいは、更に悪化しているというべきか。

表面だけを見ていると、少し運も悪かったのではないか、とも思える前首相である。

しかし、「チーム安倍」の構成や前首相の気性を考えると、
曖昧模糊とした中に様々な思惑が跋扈する政界において、
精神的に若すぎるチームであったのかもしれない。
また、前首相の性格・性質が、そもそも「チーム」で支えねば動かすことのできない
重責ある一国のトップ・プロジェクトにおいて、淡白・個人主義すぎたのか。
もちろん、私と前首相は「お友だち」ではないので、本当のことはわからい。

記者2人の取材の軌跡をたどると、
そのチームそのものが果たして成り立っていたのかという本命題について
実はチームリーダーその人が、チームの巻き込まれている嵐から一人離れ、
傍観者であったのではないか、とさえ思えてくるのである。

全力でこの人を支えようとするチームメイトをそもそも本気で集めたのか?
それさえ疑問である。

いわゆる「お友だち内閣」と言われながら、実は「本当のお友だち」であったのかどうか。
さらに、閣僚級以外の影で支える立場の事務方が、本当に信頼できる、力ある存在で
あったのかどうか。
それは、最後にはトップが求心力を持ち、「尽くしたい」と思わせる何かを
備えているか否かにもかかってくる。

              *******

一般の会社組織等でもよくあることだが、
本当に人間の集団というのはやっかいなものであるというのが、読後の正直な感想である。

しかし、これはある会社の単なるプロジェクトの話ではない。
一国を動かす、まさに中心核の話なのだ。

この取材は確かに2人の記者が行った「ある切り口」からの結果である。
鵜呑みにはできないまでも、日本人として、国を動かしているものについて
ううむ、と考えさせられるものがある。

記者の一人は、
「『チーム安倍』は崩壊していない。はじめから実態として存在していなかった。」
とあとがきで述べている。

小さな島国の膨れ上がった国家。
それを傍観するわけにはいかない。
なぜなら、私達も国民である限り「日本」というチームと
決して無縁ではいられないはずだから。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

空白の宰相 「チーム安倍」が追った理想と現実

空白の宰相 「チーム安倍」が追った理想と現実

  • 作者: 久江 雅彦, 柿崎 明二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/11/08
  • メディア: 単行本


nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:

しゃばけシリーズ「ちんぷんかん」 [ミステリーを楽しみたいときに]

「ちんぷんかん」畠中恵 新潮社 2007年

「しゃばけシリーズ」ももう何巻目になったことか。
しかし、とうとう今回はあの若旦那、大火事に巻き込まれ
三途の川までやってきてしまう。
しかし、気がつくと袖から鳴家が顔をだしているではないか!
連れてきてしまったのである・・・
自分は寿命だとしても、鳴家まであの世に連れて行くのはかわいそう・・・。
そんな若旦那のなやめる賽の河原での出来事を描く『鬼と子鬼』。

ほか、タイトルをふくめ、全5作の時代物ファンタジーといえる短編で
構成されている。

今回の作品は、若旦那が自分の寿命、死について考える内容が多い。
また、それに絡めて、結婚や自分のこれからを考える場面も・・・。
長く細く・・・といっても心配になるのがファンの心理である。

一方、若旦那のやさしさや、どうしようもないことがこの世にはあることも
しみじみと伝わってくる。
さらに、江戸には多かった火事の様子では、大棚が火事に備えて穴倉を掘って
そこに商売道具を埋めて焼けるのを避けたり、丈夫な土蔵を建てたり、という
工夫をしていた生活の知恵も描かれている。
さらに、火事があれば大工も材木屋も儲かり、あっという間にまた新しい街並みが
再建される、というたくましさも垣間見られる。

物の本や博物館で見かけていた江戸の知恵がこんなところで顔を出すとは・・・。

昨年、テレビドラマにもなった「しゃばけ」シリーズ。
さてさて、どこまでいくのやら。
妖の寿命から見れば一瞬のような人間の人生だが、だからこそきらりと光るのかもしれない。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ちんぷんかん

ちんぷんかん

  • 作者: 畠中 恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 単行本


nice!(2)  コメント(3) 
共通テーマ:

密室は豪華客船 「リヴァイアサン号殺人事件」 ボリス・アクーニン [ミステリーを楽しみたいときに]


「リヴァイアサン号殺人事件」 ボリス・アクーニン 河野恭子訳
 岩波書店 2007年

19世紀末のパリで起きた凄惨な事件の謎を、豪華客船で旅をしながら
ロシア人外交官ファンドーリンが解いていく、という趣向である。
しかも、この旅の仲間にはその事件の犯人が乗り込んでいる・・・

パリ警察の警部がサロンに集めた「容疑者」たちはいずれも怪しい者たちばかり。
ファンドーリンも最初は怪しまれるのだが、その人並みはずれた観察力と知識で
やがて犯人を絞っていく。

容疑者の中には日本人もいて、著者が日本になみなみならぬ興味をもっていることが
わかる。なにしろこの時代の日本男児であるからして、怪しまれることこの上ないのだが・・・。

この密室ともいえる豪華客船での旅と社交の中での犯人さがし、
一件遅々として進まないような気もするのだが、
最後は一気にまくしたてて解決まで読者は引っ張られていく。

ファンドーリンは、優れた明晰な推理力をひけらかすこともなく、
どちらかといえば控えめで言葉すくななのだが・・・
だからこそ、最後の分析力と理論的な推理で真実を解明するときの
迫力を感じさせるのかもしれない。

船の中の推理モノはややもったいぶったところがあるのだが、
のんびり読むにはそれもまたいいのかもしれない、と考えさせられる。

ファンドリーンのシリーズはまだあるので、ぜひほかの作品も
読んでみたいものである。

追伸:
この作品は実は秋に読んだのですが、
その後最新の「このミス」で高位置にランキングされており
びっくりしたような、納得したような、不思議な気持ちになりました・・・。
お読みになったご来店のお客様、どう思われましたでしょうか?

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

リヴァイアサン号殺人事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

リヴァイアサン号殺人事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

  • 作者: ボリス・アクーニン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本


このミステリーがすごい! 2008年版

このミステリーがすごい! 2008年版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2007/12/05
  • メディア: 単行本


nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:

久々の再会 「ラスト・イニング」あさのあつこ [人生や物事について考えたいときに]

「ラスト・イニング」 あさのあつこ 角川書店 2007年2月

もうあの少年たちと過ごした日々から遠ざかってしまっていたと思っていたけれど。
読み始めてみれば、すぐに引き戻され、またあの空気の中に
自分も立ち会っているような気がしてしまう。

それが「バッテリー」シリーズの特徴であり、魅力でもあるのだろう。

この作品の中では、あの最後の試合と、その後の彼らが描かれている。

それも、主人公であった巧と豪の周辺にいた人物を中心に。
あの試合で、相手チームのメンバーはどう感じていたのか、
その後、彼らはどうしているのか。そして、どうしようとしているのか。

その描写はこれでもか、というほどその人物の影を濃く映し出している。
そうだ、その人物そのもの、というよりもその影、なのだ。
「バッテリー」シリーズで描かれてきた手法の一つである、
その人物の影の部分を描く(一般的には内面、というのかもしれないが)方法が
この「ラスト・イニング」では特に駆使されているように思える。

中学生。
大人なのか、まだ子供なのか。
そんなことはどうでもいいのかもしれない。
なぜなら、その世代だったときに、
「自分は子供だ」などと遠慮した記憶のある方は
どちらかといえば少ないのではないか。

生きているから、打ち込むものがあるから、求めるものがあるから。
失うものなど考えもせず、いや、失うものなどわからないほど
新たに出会うものが大きすぎて、多すぎて、前しか見えない時代がある。

そんな時代を思い出しつつ、少しは今の自分もそんな風に生きても
いいのではないか、と思った読後であった。

                 *****

新年最初の開店です。

今年ものんびりペースのカフェではありますが、
皆様と共においしいコーヒーを片手に、味のある本と出合っていきたいと
願っております。

どうぞ今年もよろしくお付き合いください。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ラスト・イニング

ラスト・イニング

  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本


nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:

本当の仕事ってなんだろう?「Hello,CEO」 幸田真音 [人生や物事について考えたいときに]

「Hello,CEO」 幸田真音 光文社 2007年

まさか、この種の本で涙腺がゆるむとは思わなかった。

この作品は、大規模なリストラを始めて有能な人材から歯が欠けるように
姿を消していくある有名外資クレジット・カード会社で働く一人の若者が主役である。

やっと仕事が面白くなってきたところで、彼はリストラで崩れていく自分の職場を
目の当たりにし、ちょっとしたハプニングもあり、早期退職に応募、職を失う。

その後の展開は彼の尊敬していた元上司の誘いから始まり、あっという間に
新しいビジネスをはじめることになる。
その流れの速さは、まさに個性的な登場人物たちの感じた時の流れの速さと
同じなのかもしれない。

そして、幾度かの危機を乗り越え、彼らのビジネスは大きな夢に向かって走り始める。

*****

ややうまくいきすぎか?と思われるきらいはあるが、
ベンチャー・ビジネスを発案してから実際に漕ぎ出すまでの様子がリアルである。
それは、あとがきにもあるように、著者のリアルな実感によるところが大きい。
著者自身、大きな企業を病気のために去り、一度はベンチャーを
起こした経験があるという。

個人的に一番感情移入してしまったのは、
自分から一番遠い存在と思っていた登場人物のセリフであった。

大手広告会社で順調に階段を上っていく
主人公の恋人とも言える存在の女性が、
昇進を上司に打診されながらも毎日の忙しい日々の中で流されていく
今の仕事の仕方に疑問を感じ、苦しくなり、
我慢できずに主人公に胸の内を告白する部分である。

「誰かを喜ばせることができる。ありがとうって言って、感謝してもらえる。
それこそが、本当の仕事よ」
そして、自分が今、そういう「仕事」に飢えていることを訴える。
いい地位について、お金をたくさんもらって、その分派手に遊んで。
毎日、毎日忙しく仕事をこなしていっても、満足感が得られない。
疲弊していくだけの日々・・・

彼女は、自分の会社を休み、それまで否定的だった彼の
新しい夢への大きな一歩を手伝う、と申し出る。

夢、とは何なのだろう。
働き甲斐、とはありえるのだろうか。
仕事は、つまらないから仕事なのか。

彼らのような世界を体験することができる、
自分を誇れるような仕事をすることが、
今、この社会でできるのだろうか。

そんなことを読後に感じた作品であった。

                  *****

さて、この作品が今年最後の当店でのご紹介になります。

来年も心豊かな作品との出会いと、多くのお客様との出会いを期待しつつ、
年末のご挨拶をさせていただきます。

今年もご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
新年もどうぞブック・カフェ、ニライカナイをよろしくお願い申し上げます。

皆様にとってすばらしい新年が訪れますよう心よりお祈りしております。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

Hello,CEO.

Hello,CEO.

  • 作者: 幸田 真音
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/09/21
  • メディア: 単行本


nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:

あなたの「最愛」とは?新保裕一「最愛」 [人生や物事について考えたいときに]

「最愛」 真保裕一 新潮社 2007年1月初版

「最愛」の人、という言葉をよく見聞きする。

ところで、最愛、とはどのような愛なのか。
このタイトルが記された真紅の表紙を見ながら、しばし考えていた。

冒頭、主人公である中堅の小児科医師たちとその上司でもある病院長が
命について会話した内容が綴られる。
「人の命は、人生という物差しを当てて測るほかはない」
普段は煙たがられている病院長の言葉に、医師たちはうなづくのだ。

この小説は、主人公の姉を中心として関わった人々の人生を
まさに「物差しを当てて測る」ように、主人公が深く掘り下げていく物語である。

ある日、主人公のもとに
姉が事件に巻き込まれて危篤状態になっているという連絡が入る。

瀕死で言葉など交わせる状態ではない姉が、主人公に日常に紛れて忘れていた過去と、
姉の生き様の真実を突きつける。

姉は何故このような目にあったのか。
そして、何故この事故の前日に誰にも知らせず、妻殺しの前科を持った男と入籍したのか。
主人公の姉の人生を浮き彫りにする疾走が始まる・・・。

読み終わった後、一時放心状態になってしまう。
それが真保氏の作品の読後によくある後味だ。
その後味が悪いものか、いいものか、そういう白黒つけられない複雑な気持ちに
いつもさせられてしまう。
多分、読み手によってそれは、大きく異なるかもしれない。
なぜなら、主人公に登場人物たちの人生を推し量る作業をさせながら、
作者は実は読者自身をも巻き込み、読者それぞれが気がつくと自分の人生を振り返る
ような力を作品にこめているからだと考える。

だから、弱っているときには実はこの作者の小説はキツい。
しかし、乗り越えてそれを読みきった時見えてくるものは、
決して自分ひとりでは見られない情景なのだとも言おう。

この作品の中には良心的な人、自己中心的な人、
不器用な人、悪意に染まっている人など、あらゆるタイプの人種が登場する。
作者はその一人ひとりを主人公の姿を借りて浮き彫りにしていく。
人間のいやなところにも目を背けず、ありのままに。

読み手はスピード感のある展開に、いやおうなしにそれに付き合うことになる。
このスピード感がなければきっと目をそらしたくなる出来事も綴られ、物語は進む。

最後まで、いったいどうなるのか予想もつかない。
しかし、その最後の最後をどう受け止めるか。
それはやはり読み手ごとに違うのだと思う。
まさに、読み手の人生を物差しすることになるのであろう。

さて、「最愛」という思いについて、あなたの物差しはどう答えを出すのだろうか。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

最愛

最愛

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 単行本


nice!(2)  コメント(1) 
共通テーマ:

絵本ではあるが・・・佐野洋子「わたし クリスマスツリー」 [思いきり泣きたいときに]

「わたし クリスマスツリー」 佐野洋子作・絵 講談社 2006年

絵本なのだが、しかも「全国学校図書館協議会選定図書」なのだが。
佐野洋子氏の絵本だから、そうそうたやすく、ほのぼので終わるわけにはいかないらしい。

季節ものを・・・と探しているときに、この絵本と出会ったのだ。
いろんな今までの人生や生き方について、見せ付けられてしまったような気がする。
おそらく、そう感じるのは私だけなのかもしれない。

この本はきっとその年齢ごとに感じ方も受け取るものも違うような気がするのだ。

子供は子供なりに、若者は若者なりに、中年は中年なりに、そして高齢の方でも
きっと何かをそこに感じるに違いない。

絵本は、森の中に一本はえている若いモミの木を主人公として、
森の日々の様子から始まる。
季節を映す美しい彩。
佐野ブルーも健在だが、この絵本は様々な色がめずらしく多様されている。

若いモミの木の願いは、ただひとつ。
「わたしはクリスマスツリーに なるの、きれいな町で。」
「もうすぐだわ、もうすぐなのよ。わたしは きれいな町で
クリスマスツリーに なるの。」

そんな若いモミの木に何が起こるのか、そしてその時、森の住人達はどうするのか。

それは、まるで人間界でも起こりそうな話。

一番年長の木が最後に言う。
「しっかり 土に 根を いれるんだ。」
それは、まるで私たちへの呼びかけのような気持ちになる。

苦い展開の後も、最後まで若いモミの木の本当の気持ちは、実は言葉には表れない。

その気持ちを推し量りながら、いつのまにか自分なら・・と
立ち止まる読者は少なくないはずだ。
それがかならずしもメリーな気分であるとは限らないだろう。

ただ、森の住人たちのような暖かく賢い仲間達が、
誰の人生にもいることを願いたい。

・・・いや、実は目をよく見開いて曇りないまなざしを向ければ、
誰の周りにもこうした仲間達はいるのかもしれないのだけれど。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

新装版 わたし クリスマスツリ-

新装版 わたし クリスマスツリ-

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/10/24
  • メディア: 大型本


nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:

熟女?2人の日本史談義 「ごめんあそばせ独断日本史」杉本苑子・永井路子 [エッセイやマンガでリラックスしたいときに]


「ごめんあそばせ独断日本史」 杉本苑子・永井路子 中公文庫 
1988年初版 2007年改版

歴史を身近な見方で書き続けてきた二人の大御所が、
対談の形式で古代王朝人から明治まで、
まさにそれぞれの知識と歴史観に基づき、言いたい放題(笑)である。
それが痛快だ。

特に、女性ならではの見方ともいえようが、日本史の中での女性の役割を
新たな視点から話題にしている。

平安王朝は女と怨念でうごく、乳母の時代、また、戦国時代の女性たち、
徳川家をめぐる女性など、勇ましい武勇伝のうしろで多くの女性たちのかけひき、
権力闘争があったことなど、いわれてみれば・・・と日本史を新たな切り口で
再度見直すことができる。

また、日本の歴史の流れと言うものを総ざらえして、日本という国の成り立ちや
日本人の傾向、そしてその変化を楽しみながら読み進めることができる。

日本史が苦手でも、こういう切り口なら楽しんで知識を得ることが出来、
遠慮のない対談で楽しむことも。

さらに、今後歴史ものを読む際に、きっとまた違った観点から読み進めることで
作品をより深く味わうことができるに違いない。

とにかく、大正生まれの同年齢である2人の歴史作家が互いの思いを
遠慮なくぶつけ、楽しい対談となっている。
それを読んでいるだけでも胸がすっきりするような気がするのだ。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

ごめんあそばせ独断日本史 改版 (中公文庫 す 3-29)

ごめんあそばせ独断日本史 改版 (中公文庫 す 3-29)

  • 作者: 杉本 苑子, 永井 路子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫


nice!(2)  コメント(4) 
共通テーマ:

最後は読者に渡されるバトン 「玻璃の天」北村薫 [ミステリーを楽しみたいときに]


「玻璃の天」 
北村薫 文藝春秋 2007年

久しぶりに北村薫の新作ミステリーを読んだ。
あとから分かったことだが、この作品には前作があり、「街の灯」という作品が
既に文庫ででている。
こちらを読まずに本作を読んでも、ほとんど違和感はなかった。

舞台は昭和十年代のややきな臭い香りのしてきている日本である。
ある商事会社の社長令嬢であり、有名女子校の「後期」(今で言うところの高校あたりにあたる)生徒である主人公と、その運転士、それも秘密めいた女性である別宮女史という
コンビが登場する。

なんでも知っている控えめな、しかし何か分けありのような女性運転士と、
何にでも曇りのない目で世の中を見ようとする、好奇心旺盛の令嬢。
この2人を取り巻く3つの事件。
いずれも、何が本当に正しくて、何が間違いなのか・・・
それぞれの登場人物の立場で異なってくる。

この、答えは一つではない、という考え方は、著者のどの作品にも一貫している。
ただ、モラルという意味では、一本筋は通っているのだ。
その上で、常に物語の終わりは読者が「ううむ」と唸ることとなる。

物語も、最後まで語りつくすことはなく、本当の顛末は読者に任せて・・
というところであろうか。
そこがまた北村薫氏らしい、にくいところである。

昭和初期の銀座などの様子、様々な上流階級の風習がまた楽しませてくれる。
資生堂パーラーの「クロケット」、鳩居堂の封筒など、昔も今も、女性の心をくすぐる
描写もある意味ではリアルタイムで出てくるのだ。

北村氏は、「空飛ぶ馬」の女子大生シリーズから始まり、常に最後まで答えを
書ききるよりも、どこか読者に「さて、あなたはどう考えますか?」という
余白を残していく書き方をする作家のように思われる。
そこがついやみつきになってしまうのだが・・・
著者がどう書くつもりだったのか聞いてみたい気もするが、
それは野暮というものだろう。
そこにこそ、著者の作品にこめている想いがあるのだと思う。

そう、最後は読者のものだ、というサービスであり、哲学であり、
自分が書くべきことはもう書ききっているのだ、という自信・・・というよりも
納得なのかもしれない。

かくて、読み終わった後も何度も気になって本を手に取ることとなる。
もちろん、「街の灯」もすぐに入手に行くつもりである。

<Amazon.co.jp へのリンク>
※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。


nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:

ただものでない?太田光がらみ「人生の疑問に答えます」「憲法九条を世界遺産に」 [人生や物事について考えたいときに]

「爆笑問題」の太田光がはじけている。
彼のほとばしるエネルギーは誰にも止められない。
それをしっかり受け止めている、あるいはそれを凌駕しているパートナーとの
タッグで完成された作品2点をご紹介したい。


「人生の疑問に答えます」 養老孟司・太田光 養老孟司製作委員会編
NHK出版 2007年

NHKの人体や脳についてのシリーズの一環で放送されたものに、
「人生への疑問」への人生相談の形をとって養老先生が答え、太田氏が聞き役になる形
で放映されたものを本の形にしたものである。

放送を見なかった私にとって、養老先生と太田氏のバランスは絶妙に思われた。
養老先生のかなり浮世離れしたハイレベルな回答を、太田氏が自分にひきつけることで
現実を生きるものたちの悩みに結びつける。

内容は、「夢を捨てられない自分」、「自分らしく働くには」・・・など、
誰にでも心のどこかにひっかかっている小骨のようなテーマばかりで親近感がある。

養老先生のすっぱりした回答どおりに動けないとしても、何かその中から
自分が今できることはないか、と太田氏のコメントを読みながら思う。
そんなちょっとおもしろい人生相談集になっている。
仕事に悩んでいる人、自分の生き方について考えている人・・・
思ったとおりの答えではないかもしれないけれど、新しい視点が生まれるかもしれない。

人生の疑問に答えます

人生の疑問に答えます

  • 作者: 養老 孟司, 太田 光
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本





憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

  • 作者: 太田 光, 中沢 新一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/08/12
  • メディア: 新書

「憲法九条を世界遺産に」 太田光・中沢新一 集英社新書 2006年

 この2人の対談、どんなものだろう?と手に取った。
時、まさにこの本にふさわしく、8月上旬から中旬にかけて読んだのだ。

中沢氏は多摩大学芸術人類学研究所所長であり、哲学、宗教など様々な面から
ものごとを語っている。
さて、「爆笑問題」でいつもアブナイ発言をしている太田氏は?
最近、テレビで見ていても、ただのお笑いの枠をはみ出して政治的な発言を
挑発的に行っている。
中沢氏が冒頭で「太田君はラッパを吹いている」と書いているように。

宮沢賢治の思想から、日本人のメンタリティを語りだしたり、
「突然変異で出現した日本国憲法」と言ってみたり、
2人の会話はまさに限界なし、常識の枠なし、ボーダーレスであり、
スリリングである。
そのライブ感は読んでみておどろくと思う。

日本国憲法ができた過程を「奇跡的」といい、
敗戦し奈落で落とされ、後悔の底にあった日本人と、
当時のアメリカ人の中に生きていた思想の良心が作り上げたのが日本国憲法だという。
決しておしつけられたのでもなく、アメリカの策略でもなく、
アメリカとしても、建国の精神と理想の憲法を目指したのであり、
それをアジアの日本という国で行おうとしたのだ、と。

その中でも、九条は一国の憲法条項としていかに異例か、異質か、ということを
認めたうえで、それが国の政治に与える摩擦も当然のこととしながらも、
それでもこの究極の条件から生まれた奇跡のような法を変えることなど、
奇跡の宝を捨てることに等しいかのように2人は語り続ける。

個人的にも、九条は人間のぎりぎりのところでの、まるで生まれたての赤ん坊のような
「良心」そのものなのだと思う。
皆が、実は世界中が望むことを具現化しているにすぎないのだ。

その「良心」を持ったこの国の国民であることを私は限りなくうれしく思う。
そして、その「良心」があるからこそ、ここにとどまろうとしているのだと。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。